サキュバス、アルパチーノとロバートデニーロの不仲説を聞いて思わずオレンジを口に含みました47

「……」


「……」


「……」


「……」


「……え? 終わり?」


「そうだが?」



 完全にキレイに締っとったやろ。例えるならばさしずめ男坂のラストシーン。これ以上ないってくらいに見事な完。向こう十年これ程までに余韻の残る終わり方はないと思う。しかしここで満足せず、常に上を見て前に進んでいきたい。オレはようやくのぼりはじめたばかりだからな このはてしなく遠い男坂をよ……



「……え~~~~~っと、ちょっと待ってくださいネ? 参考までに聞きたいんですが、ピカ太さん、私をときめかすために手紙を書いたんですよね?」


「そうだが?」


「という事は、さっきの内容で私がときめくって自信を持っていらっしゃるって事ですか?」


「そうだが?」


「あの~~~~~~~~~~大変恐縮なんですが、どのへんでときめくだろうとお考えになっていたかお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「”死ね”の辺りかな?」


「あ、クライマックスのあたり? なるほど。確かにあそこで、ピカ太さんのお気持ちはもう、十分すぎる程伝わりましたが……」


「掛け値ない素直な気持ちを筆にしたためたんだが? 早くときめいてほしいのだが?」


「え~~~~~~~~~~~~~っとぉ……なんと言いますかぁ……さっきの内容だとちょっと不足があるというかぁ……よくないんじゃないかなぁと……」


「どこが?」


「具体的に申し上げますと全部です」


「は? ありえないんだが? お前頭おかしいんじゃねぇの?」


「いやぁすみません。そう仰られても、ちょっとこちらでは無理ですねぇ……」


「いや、いいからそういうの。ほら、早くしろよ。頑張れ頑張れ」


「う~~~~~~~~~~~~~ん……じゃ、もう一回チャレンジしてみますね……え~~~~~~~~~~~~っとぉ? ” ムー子、お前と出会ってもう大分経過するよな”……うんうん。ここまで、ここまではいいんですよねぇ……」


「全部いいんだが?」


「それを今確認させていただいているので少し待っていただきたく……う~~~~~~~~~~~~~~ん……」


「どうだ?」


「……やはり駄目ですね。ときめきません」


「なんだよ、クソ使えねーじゃねーかよお前」


「申し訳ありません。いや、というかですねぇ……」


「なんだ?」


「殺意のこもった手紙で胸が高まる女がいたら漏れなくそいつは異常者じゃありませんか?」


「確かに」


「自覚があるなら何故ちゃんとやってくれないんですか!」


「いやぁ? やっぱり、自分の心に嘘はつけないっていうか、殺したい事実は変えられないというか……」


「ピカ太さん! 今切羽詰まってるんですよね! 火急の事態なんですよね! それを汲んで私は強力しているんですよ!? なのに結果としてこのザマ! なんですかこれ! 今回に限って言わしていただければ私が全面的に正しいですよ!?」




 そう言われるとぐうの音も出ない。確かに俺が間違っている。しかし……




「とはいえ、俺がお前のときめくような手紙書いたところで、お前ドン引きするか爆笑しないか?」


「……」


「……」


「……そんなことないですよ?」


「なんだその間は」


「いえ、その……想像すると……ぷふぅ~! ちょっと、おかしいなって」


 

 ほら見ろ言った通りじゃねぇか。本当にこいつはろくでもないんだから。



「お前がそんなだから結局こっちも相応の対応しかできないんだよ。もっと悔い改めろよ」


「そうは言っても私とて悪魔の端くれですから、そう簡単に改心するわけにもいかず……あ、そうだ」


「何か手を思い付いたか?」


「はい。名案を思い付きました。ピカ太さん。ちょっと私に対して、好きって言ってもらっていいですか?」


「断る」


「何でですか! たった一言じゃないですか!」


「お前に対する好意など微塵もないからだ」


「そう言わずに! その一言で私のときめきが上がるんですから!」


「そんな簡単な話があってたまるか」


「本当! 本当なんですよ! 信じてください」


「だったらどうして最初にその提案をせず、わざわざ手紙など書かせたんだ。おかしいだろう」


「それはこれを忘れていたからです」


「……? なんだそれ? 懐紙?」




 いや、違うな。よく見ると透けて白い粉末がはいっているが、大丈夫かそれ? 色々と。



「これはラブダイブという薬らしく、なんでも相手の言葉に呼応して必要以上に昂る効果があるらしいですよ。昔、ゴス美課長に貰った事をすっかりと失念していました」


「なんでそんなもん渡されたんだ?」


「どうしても夜の相手をするのがしんどい時に飲みなさいとの事でした。口から吐かれるドブが薔薇の香りになるそうですが、生憎とそこまでの人間を相手にしてこなかったので今日まで胸にしまっていたんですよ」


「いつの話だそれは?」


「あれは確か三年前……」


「……」



 薬にも消費期限というのがあるらしく、また、恐らくあれはゴス美のオリジナルだろうから市販薬よりも早く使えなくなるだろうが……でもまぁ、他に手はないし、ムー子だからいっか。



「じゃ、早速飲んでみますね!」


「あぁ」



 正直半信半疑だが、ここはゴス美と、ムー子の耐久力を信じよう。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る