サキュバス、アルパチーノとロバートデニーロの不仲説を聞いて思わずオレンジを口に含みました7
「ピカちゃん。彼方は思いのままになるべきです。胸に秘めた激情を抑える事はありません。ただただ衝動のまま、駆られるままに……」
「……俺は社会規範に則って逸脱した行為はしない」
「まだそんな事を仰るんですか? 社会なんて知った事じゃないじゃないですか。どうやって自分らしく、自分のためだけに生きていくか。それが大切なんじゃないですか」
「悪いが俺はありふれた一般市民。そんな刹那的な生き方は望んでいない」
「このままではピカちゃん、いつか誰かを殺して後悔しますよ?」
「……」
「満ち足りない欲望。日々大きくなっていく破壊衝動。殺したくて殺したくて、でも良心や道徳。あるいは法律などに縛られて抑圧され、それでも耐えきれなくなり、近くにいる人を手にかける……一瞬の快楽の後に訪れる深い絶望……悲しいですね。考えただけでも涙が出そうです。つまらない社会性なんてものに寄り添った結果、ピカちゃんは充足感を得るために大きな悲嘆を感じなければならないのです。これって、不幸じゃありませんか?」
「……」
「だから、何も考えず、ピカちゃんのしたいようにして、楽しく生きていきましょうよ。殴りたかったら殴ればいい。殺したかったら殺せばいい。果てしない欲望のまま、自分だけのための人生を歩んでいきましょうよ」
「……」
……
「……ね? ピカちゃん。そうしましょう? もしピカちゃんが必要なら、私、なんでも協力するから、ね? そうしましょうそうしましょう? 気に入らない人間を殺していきましょう? 気に入った人間も殺していきましょう? なんとも思ってない人間も殺していきましょう? 視界に映る人間を殺していきましょう? みんなみんな。ピカちゃんの想いのままに、やりたいように、好きなように殺していきましょう? そうしましょう? あ、そうだ。まずは妹さんから殺しましょう? 大丈夫。身内で慣れておけば後は全部大丈夫だから。ね? ね?」
……
「……そうだな」
「わ! やった! その気になってくれた!? えへへ ピカちゃん大好き。じゃあ、早速……」
「……」
「あ、ピカちゃん、近い。こんなに近くにいる。熱が伝わってきそう。凄くドキドキする。ねぇピカちゃん、どうしよう私、少し正気じゃいられないかもしれない。どうしよう嬉しいの。嬉しいの、凄く嬉しいの。あは、あは、あははははははははははははははははははは」
「……ヘル」
「はぁい。なぁにピカちゃ……!」
!
……歯で切ったな。拳から血が出ている。やはり打撃はいかん。慣れん。
まぁ、それはさて置き。いい加減うんざりしてきたからはっきりとこいつに伝えてやろう。
「お前のつまらん世迷い事……いや、妄言もさすがに鬱陶しくなってきた。何を企んでいるか知らんが、さっさと帰れ」
「痛い…けど、ピカちゃんの愛を感じるの。嬉しい。嬉しい」
こいつ倒錯し過ぎだろ。帰れなんて言わずさっさとぶっ殺した方がよかったか? なんかもう捕まるとか捕まらないとかどうでもよくなってきた。人が人を殺す時の心境ってのはこんなもんなのかもしれん。
「でも、本当はもっと一緒にいたいけど、いつまでも側にいたいけど、ずっと殴ってもらって、殺してもらいたいけど、今日は帰るねピカちゃん。他にも用事があるから」
「二度と顔を見せるな」
「それはできないかな。だってピカちゃん、近いうちに自分から私のいる場所へやってくるんだもの」
「……」
「ある人がね? ピカちゃんに凄く凄く会いたがってるの。今日来たのは、本当はその事を伝えるためだったんだぁ。だからね? 会いにきてね? ピカちゃん」
「……そいつは、昨日お前が電話で話していた奴か?」
「あら、どこで聞いていたの? 近くにいたなら声を掛けてくれたらよかったのに」
「俺に会いたがってるのはお前が電話で話していた奴かと聞いている」
「そう。そうだよピカちゃん。その人はねぇ……とってもとっても強くて、かっこよくて、私を救ってくれた人なの。私、その人のためならなんだってできちゃう。なんでもいう事聞いちゃう。あ、でもピカちゃんが好きなのは本当だよ? だって……」
……
「……だって、なんだ?」
「だって、ピカちゃんはその人の子供なんだもん!」
「……!?」
こいつ……今なんて!?
「お前それ……本気で言ってんのか?」
「そうよぉ?」
「……」
……
「じゃあ、そろそろ帰るねピカちゃん。待ち合わせの時間と場所は今度連絡するね。眠っている人達はその内起きると思うけど、殺したくなったら殺しちゃっていいからね?」
「……次くだらない事を言ったらお前を殺す」
「うふふ。それもいいなぁ……ピカちゃんに殺されるってどんな気持ちなんだろう……想像しただけで、変な気持ちになっちゃう」
「……」
「でも、今はまだやる事があるからまた今度。それじゃあね? ピカちゃん」
「……」
……
…………
……消えたか。
はぁ。
どうしたもんか。くそ、手が痛いな。そこそこ出血してるし、まずは止血するか……ピチウとゴス美辺りに見つかったらうるさくいわれそうだな……
ピチウか……
くそ、阿賀ヘルめ妙な事を言いやがって。俺がピチウを殺すわけないだろう。あいつは俺の妹だぞ。肉親を殺すなんて、首を絞めたり、腹を割いたり、骨を軋ませて、折ったり砕いたりなんてそんな真似……
!?
……嘘だろ?
なんで? 何故? どうして……
どうして俺は、勃起しているんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます