サキュバス、諸行無常の響きを奏でました20

「とにかく聞いて! 私の話を聞いてください! 五分! いや十分でいいですから!」


「カウントアップしていくタイプの言い直し初めてきいたぞ。厚かまし過ぎない?」


「大胆さと傲慢さは美少女の特権ですよピカ太さん」


「美でもなければ少女でもないお前には付与されない権利じゃねーか」


「はぁ~~~~~~~~~~~~? どう考えても私は美少女でしょ~~~~~~~~~が~~~~~~~~~~~~~女は三十からって言いますから~~~~~~~~~~~~~? 実質三十歳が新生児と言っても過言ではなく~~~~~~~~~~~~~~となると質然的に私は……って危ない! 危うく年齢が露見するところだった! いやぁセーッフ! 私のミステリアスな部分の一つがこんな形で失われるところでしたよ~~~~~~~~~~~~~~! ふぅ~~~~~~~~っふ! あっぶね~~~~~~~~~~~~~~~!」


「最近炎上してるVチューバーがだいたいアラサーなんだけどさ。なんか法則性とかあんのかね」


「ストップ! 中の人の話は禁忌ですよピカ太さん! そういうデリカシーの無い話題は決してしないようにしてください!」



 いるよな過剰に演じてる人間とキャラクターを切り離そうとする奴。ガワが違うだけで同じだろうに、なにが前世だ魂だ。まぁそういう事言うと絶対面倒くさい事になるから触れないのが大人の付き合い方なんだけれどもね。藪をつついて蛇を出す事もない。当たり障りなく地雷を踏まない健全なコミュニケーションが肝要よ。別にムー子に何言われようが全然いいんだが、何処で誰が聞いているのか分からん。下手な事言うと「バーガー屋でクソ大声出して推しを侮辱してた奴いて右手堪えるの必死だった」みたいなTwitter投稿が後日拡散しかねん。信者は何処にいるか分からない故、公の場での批判や誹謗中傷は控えるのが吉なのだ。



「どうでもいいけどよぉ。俺はもうずっと空腹なんだよ。目の前に料理があるんだから食べさせろよ」


「あ、そうでしたね。すみません。私の生い立ちの話をするんでした」


「話しを聞いてたか? 俺は空腹なんだけど? なぁ?」


「私って、あんまり人に優しくされた事、ないんですよね」


「それ聞いたの三回目だぞ。頻度がイオナズンなんだが?」


「というのもですね。私は昔から何故か人に嫌われる質でして、どうにも意地悪されがちだったんです」


「あ、もう無視する方針? 一方的なお喋りを決行? 壁にでも話してろよって言ったら本当に壁に向かって話しかけそうだなテメー。そういうところが人に嫌われる原因なんだろうがよー。何故かじゃねーんだよ何故かじゃ」


「それで、人に物を貰ったり、施しを受けた事って経験がなかったんです。いただくものは罵詈雑言と暴力……私はずっと、理不尽に虐げられていました」


「今と変わんねーじゃん。だいた絶対理不尽に虐げられてきたわけじゃねーだろ。確実にお前に起因しているってそれ。もっと鑑みろよ自分の人生。性格と人格が豚の餌の残りみたいなもんなんだから反省しろ反省」


「勿論お仕事の中で、対価として、あるいは下心として金銭物品を受け取った事もあります。なんだっけあのブランド物のバッグ。いい値で換金できたな。元気かな。あのオタク」


「そういうとこやぞ? そういうとこが嫌われるんやぞ?」


「でもそれは互いの需要と供給を満たすためだけのビジネス的な関係でした。心の底から私を温めてくれる人なんて、誰一人としていなかったんです」


「電子レンジにでも入ってろよ」


「けれど、ピカ太さんに出会ってそれが変わりました」


「迷惑な話だな。帰れよ」


「ピカ太さんは私にプラモデルを作ってくれたり、ジュースを買ってくれたり、バーガー屋で意図せず注文した商品を交換してくれると仰ってくれました」


「そんな風に捉えられると迷惑でしかないからできれば認識をアップデートしてくんねーかな」


「それで私思ったんです。今のままでいいのかって。もう少し、ピカ太さんに好かれるような女になるべきなんじゃないかって」


「全然その兆候が見えないんだが? いつから? ねぇ? その変化いつから始まっていつ終わるの? 行動に移さない目標は妄想と変わらないんだが?」


「でも、同時にこうも思ったんです。ピカ太さんが優しくしてくれるのは、ありのままの私だからだって!」


「絶対的に勘違いしてるんだが? 自分のいいように解釈しすぎなんだが? え? なんなのお前? ここまで長々とクソくだらない話してきて、出した結論がそれ? え? 意味分かんない? ちょっと想像を絶する虚無感が押し寄せてきて俺のメンタルがやべぇ。ちょ、一旦手に取ったパンケーキ戻すわ。食欲も一時的に減退してるわ。あんなにお腹が減っていたのに今ではもう胃がゲンナリとしているわ。逆に怖いわ」


「あ~~~~~~~~~~~~~~も~~~~~~~~~~~! さっきから聞いていればいちいちいちいちうるさいですね! なんですか私がせっかく素直な気持ちでお気持ち表明してるってのに! 喋る度に横からペラペラペラペラペラペラと! 無粋! 無粋ですよ!」


「お前はブスだけどな」


「小学生~~~~~~~~~~~~今の発言は完全に小学生のセンス~~~~~~~~~~~は~~~~~~~~雑な暴言はやめてくださ~~~~~~~~~~~~~い! いじるならもっといいパスだしてくださ~~~~~~~~~~~~~~~~い!」



 お前はいったい何を目指しているんだ。

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