サキュバス、諸行無常の響きを奏でました21

「で、どうすんだよハニーチーズモーニング。食べるの? 食べないの?」


「いただきますよそりゃ! これ食べにやってきたんですから! まぁもっとも全メニューで比較した場合は推しのテリヤキしか勝たんわけですがこのハニーチーズモーニングもなかなかやりおるわけで。甘いパンとソースにベーコンチーズの組み合わせがジャストマッチ。うんめぇだよな。まさに悟空とベジータ。最強のフュージョン。一口食べれば眉間に寄った皺も秒で赤ちゃん。はい覚醒。からの痙攣からのベイビィスマイル。あ、ちなみにピカ太さんはベジット派ですかゴジータ派ですか? 私は断然ゴジータ派です。東映アニメフェアで観たんですよ復活のフュージョン。懐かしいなぁ」


「俺合体系のキャラクターって受け付けないんだよね。だからキングスライムも苦手なんだよ」


「えぇ!? じゃ、じゃあ……ゲートガーディアンもミノケンタウロスも竜騎士ガイアも駄目なんですかぁ!?」


「竜騎士ガイアは暗黒騎士ガイアがカースオブドラゴンにライドしただけだから許せるけど、他はちょっとな……」


「意外ですね。男の子って、合体好きなのに。あ、そっちの合体の話じゃないですよ? いやそっちの合体もみんな好きでしょうけど」


「品がないんだよお前はいちいち……しかし、生物の合体は嫌いだけどメカの合体は好きだぞ。スーパーガンダムとかミーティアとか。Gファイターはちょっと無理やり感あって微妙だけども。あとガンプラのミキシングね。取って付けただけのようなクソビルドは論題だけど、ちゃんと考えて設計して、必要に応じて色も入れたりする作品は賞賛したい。例えばGUNSTAの永久式とかゲーマルク・ファントムとかロスヴァイセ PLDとか最高にかっこいいビルドしてて思わず感嘆&嫉妬の炎だったよ。まぁ俺は原作厨だからミキシングやらないんだけど」


「へぇーすごい」


「……なんだそのやる気のない返事は」


「いや、あんまり興味ないので……」


「お前は本当に駄目なやつだな」


「ガンプラに興味がないだけで駄目認定されるのはちょっと意味分かんないです……」


「そうだな。すまん。お前はそれ以外もクソカス以下だもんな」


「出た出た。何かあると始まるディス含むフロウ。すると壊れるマインド病む苦労。望むカインド。理解度。お前私の心をリード。求める優しさの数はサウザント。超えてミリオン。欲しいマカロン並みに甘い甘いワード。頼むハートに染み渡る悲しみの無いアンセム」


「なんで韻踏んでんだよ」


「いやぁ、私もYouTubeのショート動画におススメとして表示されてまして……ピカ太さんと同じくラップやってみたいなと思っていたんですよ」



 嘘だろ? 発想がこの馬鹿と同じ? ちょっとマジ凹むわ……



「ともかくもうちょっと優しくしてくれてもいいんじゃないですかね? 先ほども申し上げましたが私は過去にハブられ蔑ろにされていたんですよ? 可哀想とは思わないんですか?」


「だってお前なにかあるとすぐ人のせいにするし、迷惑かけても謝りもしないか心無く”すみません”って言うだけだろ? 他人を裏切り利用し続けてきた人間に対して同情の余地なんかが発生する分けねーじゃん」


「ふっふっふ……酷い言われようですが……果たして本当にそうでしょうか?」


「あ?」


「私が本当に、ただやらかすだけやらかして何もしない人間だと思っているのかって、そう聞いているんですよピカ太さん」


「思っているというか、事実として定着してしまっているだろう」


「あーそうですかーなるほどなるほそーどうにもいけませんねピカ太さん。よくもここまで偏見の塊に育ってくれました」


「客観的に見て概ね正しい理解を偏見と評すのであればそれは世界が間違っている」


「あ~~~あぁ言えばこう言うタイプ~~~~~~私はね。がっかりですよピカ太さん。もっと人の心を信じて、そして傷ついてください!」


「傷つく前提なんかい。余計お前の事信じない方がいいじゃねーか」


「それはどうでしょうか?」


「あぁ?」


「ピカ太さん。私だって心があるんです。時には、申し訳なかったな。とか、後でちゃんとフォロー入れなきゃ。って考える時があるんですよ」


「にわかには信じられんな」


「いいでしょう……では論より証拠。百聞は一見に如かず。目にもの見せるは最終秘伝! 刮目して悔い改めてくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい! そしてこの前はすみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」



 なんだ? 鞄から勢いよく何か出してきたがこれは……



「……マークⅡ?」


「そう! その通りです! ピカ太さんの部屋に忍び込んだ際に破損してしまったマークⅡを修復したのです! いやぁ大変でしたよ! 割れた部分を瞬間接着剤でくっつけたりしてそれなりに労力が必要でした!」


「なるほど。最近シンナー臭かったのはそういうわけか」


「はいそうです! どうですかピカ太さん! この詫び力!? 凄くないですか!? 私は謝れる素直な子なんです! ちゃんとできた大人なんです! そこのところ! どうぞよろしくご確認お願いしまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっす!」


「……確かに破損した部分を修復しけじめを付けようとした点は評価しよう。歪でクソみたいなリペアだが、その気概だけは認めてやる」


「あざーっす!」


「が」


「が?」


「どうして頭がある?」


「……え?」


「なぜこのマークⅡに頭がついているのかと聞いているんだ」


「……そりゃああるでしょ。メインカメラですよ? 必要ないのなんてファースト最終話のアムロくらいなもんですって」


「実はなムー子。俺の部屋にあるんだよ」


「なにがですか?」


「このマークⅡの頭」


「……!?」


「それは間違いなくお前がぶっ壊した素体のものなんだが……このマークⅡに頭がついてるって、おかしいよなぁ?」


「そ、それは……か、買った! 買ったんですよもう一つ! 直す用に!」


「だったらそのまま新品を渡せばいいだけの話じゃないか。どうしてわざわざ継ぎ接ぎをする手間をかける必要がある?」


「うぐぅ!?」


「それにだ。このマークⅡの頭は墨が入っている。マスターガンダム一つ作るのにも手間取っていたお前に墨入れができるとも思えん」


「か、完成品を購入したんです! 人の作ったものを渡されても困るなって思って! それで!」


「ふぅん。まぁそれならつかなくもないな。整合性」


「そ、そうですよう! 疑り深いなぁもう! でも、信じていただけたのであれば大丈夫です!」


「で?」


「はい?」


「どうやって買ったんだ? それ?」


「どうやってもなにも……〇ルカリで……」


「課長に資産全部管理されているうえ、スマフォのカード情報も削除されているのにどうやって?」


「うぅ……!」


「それとな……このマークⅡの顔、見覚えあるんだよ俺」


「き、気のせいじゃないんですか!?」


「いいや。しっかり覚えている。何故かというとだなぁ……このマークⅡは俺が作って墨入れしたものだからだぁ!」


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


「この顔のマークⅡは旧HGUCのガンダムマークⅡ+フライングアーマー! 昔俺が作成して段ボールに入れておいたキットなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


「てめぇ! 俺の部屋に勝手に入って持っていきやがったなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! すみばぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん! どおじても頭だけみづがらなぐっでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」



 なんて奴だ! ぶっ壊した人の物を人の物で修復するなんて! やり方が反社会勢力のそれと同じ! 悪徳極まりない!




 ……だが。




「ま、いいや」


「すみませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……え?」


「いや、別に、そこまで思入れがあるわけでもないし、壊れたのもしょうがないし……」


「え? え? え?」


「というか俺、プラモ作ったりジオラマにしたりするのは好きなんだけど、一回完成しちゃうとそこまで執着もてないんだよな」


「え? じゃあ、部屋でかち合った時そっけない感じだったのは怒ってたからとかじゃなくて……」


「本当にどうでもいいと思ってたんだよ」


「そ、そうなんですね……私てっきり……うぅ……う、ひっぐ……う」


「?」


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」


「うるさ! なんだよ急に……なに泣いてんだよ……」


「だってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 私ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! ピカ太さんに嫌われちゃったのかとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


「あ、その辺は大丈夫だ。最初から嫌いだから」


「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! だって相思相愛ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! 君と私のラブストーリーぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! 一生一緒にメガフレアじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! ちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!」



 もはや意味が分からんし、相変わらず鼻をかむ音が汚いな。恥とかないのかこいつは。



「ともかく気にしていらっしゃらないのであればよかったですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


「まぁお前がそれでいいならいいんだが……あ、ところで」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいなんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「お前、紙ナプキン使ったよな? 二回」


「使いましたがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? それがなにかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「罰金な?」


「びゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……え?」


「ここに来る途中、紙ナプキン使ったら罰金つったよな? 俺」


「……ピカ太さん。ちょっとその辺りについては冷静に話し合いましょう」



 一瞬で泣き止んだなこいつ。

 まぁいい。それよりもさすがに空腹が苦痛になってきた。久しぶりの固形物を胃に入れながら、こいつに幾ら払わせるか話し合うとするか……


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