サキュバス、諸行無常の響きを奏でました19

「ど、どういう風の吹き回しですか? あれですか? 優しくしておいて”嘘でーす!”っていう冷酷無慈悲な精神攻撃を仕掛ける気ですか? な、なんて陰湿な! 騙されませんよ私は!?」



 なんという疑心暗鬼。きっとこいつは生まれてこの方ずっと誰かに蔑まれ続けてきた結果人を信じるという当たり前の事ができなくなってしまったのだろう。可愛そうに。同情などするわけもないが、可哀想に。



「え? なんですかなんですかその目は? 哀れみ? 哀れんでます? ちょっとやめてくださいよそんな目で見るの。なんか凄く惨めな気持ちになってくるじゃないですか」


「大丈夫だぞムー子。お前はクズでカスでゴミと同等かそれ以下の存在価値しかないけど何の間違いかこの世に生まれてきてしまったんだ。どれだけ汚れた命であっても存在している以上それを否定する事は誰にもできん。きっと地球上のバグかなんかで発生したクソ個体だとは思うが、俺はお前が生きているという事を忘れはしない。これから先、全人類にどれほどの迷惑をかけていくか知らんが、まぁ、お前の命はお前の物なんだから頑張って生きていってくれ」


「え? え? え? なん? そのそれなん? え? 完全に見下してますよね? なんか凄く優しそうな事言ってましたけど間違いなく私の事を下等な存在として認識してないと出てこない言葉でしたよねそれ?」


「そうだが?」


「そうだが!? 誤魔化しもせず取り繕う事もせずそうだが!? なぁん? おま、なん? なんなん!? ちょっとデリケートなハートをズタズタにし過ぎじゃない? 尊厳を土足で踏みにじり過ぎじゃない?」


「別にいいだろお前の尊厳なんて夏場道路に張り付いてるカエルの轢死体くらいペラペラなんだから」


「は~~~~~~~~~~~~い! モラハラ発言いただきました~~~~~~~~~~~~~~! バーガー屋の皆さ~~~~~~~~~~~~ん! 聞こえますか~~~~~~~~~~~~~~!? こちらにおわすがモラルハザードエンペラー輝ピカ太さんで~~~~~~~~~~~~~~~~~~す! はい拍手~~~~~~~~~~~~~~~」



 シン。



「お~~~~~~~~~~~~~~~~いノリが悪いぞ~~~~~~~~~~~~~~!? よ~~~~~~~~~~~しじゃあ立とっか~~~~~~~~~~~~~~!? 早く早く~~~~~~~~~~~~~!? みんな立って立って~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!? そして今から一緒にシュプレヒコールかましてこ~~~~~~~~~~~~~~~~!? モラルもマナーもないこの男に対して正義の言葉を唱えていこ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!? 私が”くたばれクズ男~~~~~~~~”っていったら皆、”くたばれ~~~~~~~~”って返してね~~~~~~~~~~~~~~~~!? はい! じゃあいくよ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!? せ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~の! くたばれクズ男~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~! はい!?」



 シン。



「あれ~~~~~~~~~~~~~~~~!? どうしちゃったのかな皆~~~~~~~~~~元気がないぞ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!? じゃあもう一回いくよ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!? せ~~~~~~~~~~~~の~~~~~~~~~~~~~~~」



「おい。いい加減にしないと五回殺すぞ」


「すみません……」



 まぁここまでの騒ぎを起こして俺に恥をかかせた以上一回は殺す事が確定しているわけだが。

 それよりもだ。クソ汚い鳴き声を上げるこいつを黙らせてアテンション状態を解除しようとしたわけなんだけど、まったく逆効果になってしまった。もうこれわざわざ換えてやる必要性がなくなっちまったな。なんかもう、どうでもいいや。



「そんなに信じられねぇならもうパンケーキ食べろよ」


「え? 本当に? 本当に交換してくれるんですか? メリットないのに」



「メリットならあったんだよ。さっき消し飛んだんだけど」


「?」



 え? なに言ってんですか? って面してやがる。こいつホント……いや、いいや。疲れた。色々。



「いいよもう。ほら、食べろよこのハニーチーズモーニング」


「あ、ありがとぉ……ございます……」



 うわ塩らしい感じ出してきてやがる。気持ち悪いぞやめろよお前。



「……ピカ太さん」


「あ?」



「私って、あんまり人に優しくされた事、ないんですよね」


「そうだろうな。お前クズだし」


「え? こういう空気の時って、もっとこう、神妙な感じで、相槌の代わりに沈黙と視線を送ったりするもんなんじゃないんですか?」


「お前が俺に何を期待しているのか知らんが、お前が求めるような真似は絶対にしないと保証しよう」


「クズ~~~~~~~~~……まぁいいです。で、話を戻すんですけど」



 戻すんかい。いいよ別にそのまま流しちゃって。



「私って、あんまり人に優しくされた事、ないんですよね」


「それはもう聞いたよ。なんでもう一回同じセリフ繰り返すんだよ。馬鹿なの? 無駄な時間使わせんじゃねーよ」


「雰囲気ってあるじゃないですか! 話しの腰を折るのはやめてくださいよ!」


「逆ギレかましてくれてんじゃねぇぞテメェ!?」

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