サキュバス、諸行無常の響きを奏でました18

「ちなみにピカ太さんは何バーガーがお好みですかぁ? 私はね~~~~~~~~テ・リ・ヤ・キ~~~~~~~~そう~~~~~~~~~テリヤキ~~~~~~~~~あの甘辛いソースとマヨネーズが堪んないっすね~~~~~~~~~~~~~~~~いやぁやっぱバーガーはテリヤキしか勝たんっしょ!」



 勝たんとか今日日使わないらしいぞ。言葉の賞味期限は早いから、気を付けないと一気に冷めた空気になるから気を付けろよ? それはさておき、テリヤキとか、お前ホントに……



「邪道」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ? なんてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?」


「いや、テリヤキは邪道だろ。なんかベタベタして食べにくいし」


「で、出たーーーーーーーーテリヤキ食べにくい論展開してくる奴ーーーーーーーーーちょ、どんだけ散らかして食べてるんだって話ですよーーーーーーーーーーーーちゃんと紙で包んで食べれば絶対にベトベトになったりしないというのにーーーーーーーーーーーーーー」


「いや、絶対ベトベトするって。袋開ける時とか、食べてる途中とか。確実に身体の一部に付着して不愉快な気分になるってテリヤキは」


「そんな事ないですーーーーーーーー! 上手く食べればベトリませんーーーーーーーーーーーー! 賭けてもいいでーーーーーーーーーーーーーーす!」


「じゃあお前、これから行くバーガー屋で紙ナフキン使うなよ? もし破ったら罰金な?」


「全然いいっすよそんなの!? いや余裕ですよそんなの? え? なに? 罰金罰金バッキンガム? かぁ~~~~~~~~~逆に払いたいですよそんなの! だって絶対経験する事のない事態ですもんそんなの! テリヤキで肌ベタとかまずあり得ませんからそんなの! えぇ!」


「じゃ、決定な?」


「りょっす! 目に物言わせてやりますから覚悟しといてくださいよ?」


「はいはい」



 全然興味もクソもないんだが、こういう遊び心って大事だよな。もし紙ナフキン使ったら実際に金は貰うつもりだけど。



「で?」


「あ?」


「あ? じゃないですよピカ太さん。ピカ太さんは何が好きなんですか? バーガー」


「……チーズ」



 なんだかんだでシンプルイズベストだよな。うん。



「うっわチーバーじゃないですか。笑われますよそんな事言ってたら。バーガー屋でチーバー頼もうものなら、”うわぁ見るからにチーバー顔の奴がチーバー食ってんじゃ~~~んウケる~~~~~”みたいにゲラゲラされますからね! チーバー野郎に人権なしですよ!」


「なんでチーズバーガー頼んだだけでそんな嘲笑の的にされなきゃいけないんだよ……」


「それが人ですよピカ太さん……何かにつけてレッテルを貼っていかなきゃ生きていけないんです……悲しいですね……」


「そっか。ところで、五本な?」


「え? なにがですか?」


「お前の肋骨を折る本数だよ?」


「え? え? え? ちょ、意味分かんないんですけど」


「チーバーって言った数だけ肋骨折るって約束しただろ?」


「いや、初耳なんですが……」


「そっか! でも大丈夫! 今知っただろ!?」


「いや、ちっとも大丈夫じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」



 肋骨に貫手を滑り込ませ掴みそのまま引き抜くと見事な開放骨折が完成するらしいが、さすがに漫画のようにはいかんな。せいぜいめっちゃ痛いくらいだわ。う~~む。どうやら俺如きじゃ存在してはならない技は使えないようだなぁ。残念。ま、いっか。



「おいムー子。寝てないで急ぐぞ。早くしないとモーニングの時間が終わってしまうからな。まぁ俺は別に空腹の絶頂にいるから通常メニューでもいいんだけど」


「ろ、肋骨引っこ抜こうとした人間の台詞じゃないですよそれ……」


「なんだ? スペアリブが食べたいとでもいえばよかったか? あれ食べにくくて苦手なんだよな。 ベタベタするし」


「また! ま~~たすぐベタベタ批判! ベタベタする食べ物も愛してあげてくださいよ!」


「元より日本人はそういうソースめいたものは苦手なんだよ。出汁で生きてきた民族だからな」


「テリヤキは日本発祥ですよ?」


「うるさい馬鹿。肋骨全部折るぞ」


「うわぁ横暴……台詞が完全にエロゲーのクソ竿役じゃないですか……具体的に言うとランス……」


「馬鹿な事言ってないでさっさと立て。通行人が来たら変に思われるだろ」


「ピカ太さんがやったんじゃないですかぁ……」


「おっとそうだったな! あっはっは!」



 なんだろう、この愉快な気持ち。心の底からスカッと爽やかな笑い声があふれ出るぜ。これはあれだな。きっとムー子のおかげだな。



「ムー子。ありがとうな」


「……え?」


「お前がいるから、俺は日常的に破壊衝動を発散させることができる。骨を折れる。関節を外せる。こんなに素晴らしい事はない。朝から人体破壊できるって最高!」



 なんだか最高に楽しいぜ! 暴力っていいな!



「……ピカ太さん。発言が完全にサイコパスですけど、大丈夫ですか?」


「……」



 ……言われてみればそこそこヤバイ発言だったような気がする。きっと空腹でテンションがおかしな事になっているんだろう。これはまずい。さっさと電車に乗って、バーガー屋へ急ごう。



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