サキュバス、諸行無常の響きを奏でました17

「じゃあ行きましょう! 冒険の旅へ! 打倒バラモス! 打倒バラモスです!」


「その前にパーティー整理してお前外したいんだけど」


「残念ながらメンバー固定縛りですので戦力整えたい場合は遊び人の私を頑張って賢者に転職させてください」


「よし分かった。そんなお前にとっておきの対戦相手を用意しよう。死力を尽くしてレベリングしてくれ」


「へ?」


「カムヒア! ニクソン!」


「BOW!」



 庭から登場ドッグ! いってこいニクソン! 



「BOW! BOW! BOW! BOW! BOW! BOW! BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOW!」



「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇマウンティングされてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


「うわぁニクソンお前……趣味悪いなぁ……」


「酷い事言ってないでなんとかしてくださいよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


「しゃあないな……ニクソンもういい! もどれ!」


「BOW!」

 

 バイバイニクソン! 


 ムー子はどうでもいんだけどこれでニクソンがゲテモノ好きになってしまったらプランに申し訳ないからな。犬が腰振ってるのって別に性的な意味があるわけじゃないらしいけど。



「ぐすん……せっかくのおべべが犬臭くなっちゃいましたよ……」


「オーバーオールなんて作業着だし別に問題ないだろ。だいたいお前がつけてる変な臭いの香水よりニクソンの体臭の方がまだマシだぞ?」


「え? あれ、結構高いんですけど……インドの麝香を使ったやつなんですが……」


「どこで買ったんだそれ」


「〇ルカリで……」


「……」


 

 それ完全に騙されてるぞ。

 と、言おうと思ったが、不安そうな顔をするムー子の眼差しに俺は言葉を呑み込んだ。どれだけクズでも、真実を知って落ち込む姿は、きっと胸が痛むだろうから。知らぬが仏。

 輝ピカ太。脳内自著。あすなろより抜粋。



「さ、それより出発したいんだが……バーガー屋行きたいんだっけ?」


「そうです! あの外資が展開している世界的なバーガーショップでブレックファーストと洒落こみ本場NYの空気に浸りたいんですよ私は!」



 ジャパニーズのショップは完全にローカライズされててNYの空気どころかアジアすら超えられていない感じがするけどな。その辺良くも悪くも日本のカルチャーだよなぁ。どんな店ができてもスゲー小さくまとまっちゃって最適化するんだもん。天下のネズミ王国やユニバーサルなスタジオもクオリティは高いのにスケール面ではいまひとつで飽きやすいんだよね(※個人の見解です)。なんか、もっとこう、広大な大地と果てしない街並みに超高層な建築物とか設置したらリアルオープンワールドRPGみたいで面白いのになぁと思わなくもない。まぁコストの他、法的な問題もあるし、あんまりやりぎると途中で疲れちゃうってのもあるだろうから無茶はできないんだろうから、やっぱあのくらいの広さが一番なのかね。でも個人的にはもっと広い敷地のテーマパークができてほしいなぁと思う。そうだ。今度のコンペ、街一つ分くらいの区画を全部テーマパークにしちゃう、宿泊前提の超規模遊興施設なんかを発表してみようかな。独自通貨や仕事もできて、疑似的に第二の人生を歩んでいる感覚になれちゃうの。そうだな……クリーンで健全な表通りとダーティーな世界が広がる裏路地の二つのエリアに分かれて格差社会を体験できるようにしよう! 表通りはお洒落なカフェや飲食店! 可愛い小物グッズなんかが売っていて白いフワフワした犬のマスコットが闊歩している一方裏路地は酒と薬物(合法)に溢れ野犬がたむろしてるようなそんな世界観! ある者は至福の楽園に! ある者は暗黒の坩堝に身を移す超リアルスティック体感型テーマパーク! これはいける! 実現は絶対しないけどやったら絶対面白いぞ! あ、いや待てよ? 今の時代ならメタバースにまるまる落とし込めるし、そっちならガチでいけるんじゃ……セカンドライフだこれ。




「どうしたんですかピカ太? もしかしてもうNYの風に心惹かれちゃってる感じですか? 早い~~~~~~~クイックが過ぎる~~~~~~~~~疾きこと風の如し~~~~~~~~~~~アクセサリ:エルメスの靴~~~~~~~~~~」


「……どうでもいいけど、バーガー屋は隣の駅にしかないから電車乗らなきゃいけないんだけど、お前電車賃あんの?」


「……え?」


「飯は奢るが交通費は別だぞ?」


「……」


「……」


「……」


「……歩きましょう! ピカ太さん」


「え? やだよめんどいし……」


「大丈夫です! 健康のため! 健康のためです! だいたいピカ太さんは日ごろから運動が足りないんですよ! この機会にれっつウォーキング! さ! 行きましょ行きましょ! 隣駅つってもどうせ一キロもないしなんとかなるなる! お腹減らして食べるバーガーは美味しいですよ!」


「もう既に空腹最大値だし健康に気をつかってるわけじゃない」


「まーたまたまたまたまたまたまた! いいですよ~~~~~健康体は~~~~~~~~? 筋肉がついて体調も良好! そしてなにより飯が美味い! 健康が最高の財産です! だからね? ね? ね? 歩きましょうよ! ね!?」


「……」



 こいつの言う事に従うのはかなり癪だが、確かに最近の運動不足感は否めないからな……こんな時でもなきゃ運動もせんだろうし……



 まぁ、たまにはいいか……



「……いいだろう。歩くか、たまには」


「いぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい! そうこなくっちゃ! じゃ早速行きましょうピカ太さん! レッツゴーニューヨークシティ! チェケラ!」



 行くのは隣駅近くにあるファストフードチェーン店だ馬鹿。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る