サキュバス、諸行無常の響きを奏でました19

 てなわけで、突き進み辿り着いたのはステーション。本来であればここから電車に乗って直行できるわけだが今回はスルー。グッバイ。

 しかし、それにしてもダセェ駅だよなぁ……都市近郊にも拘らず片田舎風味香る激ショボ構造。もっとハイクオリティなセンスで「わぁ駅の周りで全部完結できちゃいますねぇ」みたいなところに住みたいもんだが難しいだろうなぁ都会の物価は高いから。ウサギ小屋みたいなワンルームで月十万以上とかザラだし狂ってるよこの国の大都市。道も狭いし雑多だし。日本って意外と雑だよな。その辺のクレームが最近多いのかディベロッパーはユニバーサルなデザインの都市開発を進めているんだけど、それはそれで画一的で面白みがないというね。同じ企業の同じ部署が同じデザイナーに注文してんだからそりゃそうなるわなってなるけども……いやぁ、これも金とか政治的な問題で諸々多角的に動けない事情は分かるんだけどさぁ。そこに住むべき人間と育むべき文化を考えると賛同はしかねるよなぁ。ある意味で社会主義的でディストピアが良く似合うぜぇ。




「ふぃ~~~~~久しぶりの運動はいいですね! 太陽や風が気持ちよく流れる汗が心地良いです! ま、汗を流すならベッドの上が一番なんですけどね! がはは!」


「オールドタイプなオヤジ発言してんじゃねーよ気持ち悪いなぶち殺すぞ」


「おっと失礼いたしました! こちとら淫魔なもんで!」


「お前の場合は種族的な問題ではなく確実にパーソナリティに起因するものだろ」


「そんな事ないですよ~~~~~~~あ、そういえばピカ太さんの会社ではセクハラなどは行われない感じなんです? ちょっとそういう話、この淫魔に聞かせてくださいよ~~~~~~~~」



 ウザ……思い出したようにサキュバスの設定を無理やり持ち出してきよる。



「このご時世にそんな事やる馬鹿はいない。というか、なにより……」


「なにより?」


「うちの会社にはセクハラの対象となるような人間がいない」


「えぇ~~~~……」



 弊社においては中年以上の女はいるんだけどもそれ以外はほぼ男。若い女の定着率の低さが異常なんだよな。まぁ口コミとかで「女性は絶対に止めた方がいいです」なんて書かれてるし仕方ないんだけど。いやぁこれはね。色々あるんですよ。いや環境はいいんだけども……



「なんか、過去にいなかったんですか? 可愛らしいの新卒とか」


「いた事はいた。が、皆すぐに辞めていく」


「何故……原因はなんです?」


「そうだな……貴様の言うセクハラなどなく、むしろ配慮を欠かさない極めて健全な環境だったと俺は思うが……度が過ぎてしまうとな……いいだろう、どうせ暇だ。道すがら話してやる。弊社における女性社員の扱いをな……」









 男ばかりの弊社において、女性社員というのは特別な存在であった。

 

「今日から我がチームに入る〇〇さんです。では、〇〇さん挨拶お願いします」


「おはようございます。〇〇です。本日からよろしくお願いします」


「よろしくお願いしまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁす!」


「……」



 溌溂に挨拶をする新入社員の社会慣れしていない舐めた笑顔が引きつっていく過程。それは劇的で、リアルタイムで行われるドラマのようだった。どう見てもモテないであろう清潔感皆無の男。どう見ても寝てないであろうゾンビのような男。どうみても二日酔いであろう顔色の悪い男。どう見ても風呂にはいっていないだろう悪臭を漂わせる男。三者三様のヤバイ男達から元気いっぱいの好意を一身に受け目を泳がせる女性社員の顔は今でも忘れられない。



「じゃ、今日から頑張って」


「……はい」


「よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉしみんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 俺達も頑張るぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


「……」



 男達の一致団結と女の嫌悪。この空気感に俺はエンターテイメントを感じ、少しだけ出社が楽しみになった。


 彼女が実際に働くようになると、事ある毎に男社員が「大変だろうから!」と仕事を勝手に受け持ち手持無沙汰となる。やることなく定時までソリティアやマインスイーパに勤しむ女性社員。たまに発生する電話対応などはこぞって男連中が伝達役を引き受け非効率化が進んでいった。その内に女性社員と許可なく話す事を禁ずる謎ルールができ上がると、盗撮した写真や捨てたリップなどが闇で高額取引されるようになった。髪の毛一本一万円などというどこぞの教祖も真っ青な値段設定であったが、それでも売れてしまうんだから恐ろしい。これはデカイしのぎの臭いがするなと思い俺も市場に参入しようと血迷いかけたが、バレた時のリスクを考えると割に合わないし、そもそも彼女の尊厳を損なう行為であるため止めておいた。そういう事はしちゃいかん。人間として。


 間もなく女性社員は退職。スキルも経験も積めぬうえに怖気の走る男連中と同じ空間にいる事へ嫌気が差した事は明白だったが、咽び泣く男共はしきにり「何がいけなかったんだ!」と狂ったように叫び続け、本部から指導が入る事となる。以降、弊社弊チームに女性社員は入っていない。







「と、いう事があったのだ」


「えぇ~~~~~~仕事もせず姫対応されながら生きていけるとか最高の職場じゃないっすかぁ~~~~~~~~なんで辞めたんだろ。もったいない」


「そういう境遇を望む女なら一般的な企業なんかに就かず然るべき店で働くかチャトレかネットアイドルでもやるんじゃねーか? それこそVチューバーとか」


「あ、今ピカ太さん、キャバやチャトレやネットアイドルやVチューバーを馬鹿にしましたね?」


「そんなつもりはないんだが、まぁ偏見はあるな」



 最近Vチューバーについては少し容認できるようになってきたが。



「いけませんなぁ。職業に貴賎なしで。ですよ? なんでもそうですが、合法的にお金を稼ぐのはいい事です。みんな一生懸命働いているんですから、色眼鏡で見ちゃいけませんなぁ」


「そういう職業は個人事業主扱いで脱税なんかが頻繁に行われていると聞くがな」


「一部! そんなの一部です! 少数の悪事を聞いて業界全部が悪いみたいな風に思うのはやめていただきたいです!」



 ……そうかもしれんが、お前が言うと説得力ないなぁ。

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