サキュバス、黄鶴楼にて上司の恋路に之くを送りました12
「いらっしゃいませ。ご予約のお客様でしょうか」
入口についたら即座に対応。こいつが獅子小戸さんが言っていたベルパーソンとやらか。
「はい。本日十九時よりレストランを予約しております輝でございます」
「ありがとうございます輝様。お待ちしておりました。それではこちらへどうぞ。ご案内します」
「よろしくお願いします。」
なるほど好青年。ベイビィフェイスの爽やか&スイーティーなスマイル。顔面のレベルが高いなおい。それにしても宿泊しないのに案内してくれるとか気前がいいもんだ。逆に申し訳ないからいつか泊まろう。一泊幾らすんのか知らねえけども。いや、無理かな……ベルパーソンの後ろをついて歩いているだけで雰囲気に気圧されてしまっている俺じゃ場違い甚だしい。身の丈に合わない振る舞いなんざするもんじゃねぇよ。
……そうだよな。所詮俺は中の下の階層。クオカードくれるビジホとかで充分だ。いやぁいいもんだよビジホ。休日前、特に予定はないけど駅前の安い部屋に泊ってグダグダするの。普段飲まないスパークリングワインとか海外のビールとか飲むと超楽しいんだ。アテはコンビニでもよしルームサービスでもよしその辺の店でテイクアウトしてもよし。ともかくレジャー気分で週末を過ごせるからおすすめだよ。頻繁にやると飽きるけど。そうだなぁ月一くらいが目安かなぁ……あと当然だけど繁忙期は止めておいた方がいい。人混みのせいでエレベーター使うのも不愉快な思いをしかねないからな。ほんとギュウギュウの状態でなお乗り込もうとしてくる奴とかなんなん? 確実に許しておけないタイプだぞお前。キレて屋上へ連れ出しやりたいと何度思ったか知らん。
それに引き換えこのクラスのホテルは違うね。エレベーター前まで来ても全然人とすれ違わないんだもん! いやぁ凄いね一流は! 時間的に人が出入りしないだけかもしれないけど!
チン。
「到着いたしました。それでは、良い夜をお過ごしください」
「ありがとうございます」
めっちゃ深々と頭下げるなぁ……おもてなしの心が身に染みるでぇ。エレベーターも花とか飾ってあって高級感あるし特別感が半端ねぇ。普通ベータ―内に飾るか花ぁ。
「ピカ太さん。楽しみですねレストラン」
「え? あぁ。そうだな。でも課長、料理の名前知ってたし、来た事あんだろ? そんな新鮮でもないんじゃないか?」
「まぁ数えるくらいは……、でもこんなに楽しみなのは初めてですよ。今までは全部仕事でしたから」
「さすが課長。ハイスペックの相手もお手の物といったところか。恐れ入るぜ」
「……」
? なんだ? ゴス美が複雑な顔をしているぞ?
「……そんないい男でもなかったですよ? ここに私を連れてきた人達。こぞって下の下。魅力のない人間でした」
「そうなの? 金持ってる奴ってそれ以外もちゃんとしてるイメージがあるんだが」
金しかないカスみたいな人間って実際のところあんまりいない気がするんだよな。金があるって事は色々な経験ができるって事で、その経験から優良な人格や思想が付与されるんじゃないかと勝手に思っているんだが……
「そりゃあ良い人もいるでしょう。けれど、淫魔がターゲットにする輩なんて余程心に隙がある人間ばかりですよ。催す唾棄を必死で抑えて営業スマイル全開でした」
「なるほど。とすると、俺も心に隙があるというわけか」
「それは……」
「おっとすまん。自虐風の冗談だから気にせんでくれ」
「……」
「例え心に隙があったとしても、俺は卑下も自己憐憫もしない。どんな理由でお前らに狙われているかは知らんが、俺は俺だからな」
「……そういうとこ、素敵だと思いますよ」
チン。
到着。タイミングがいい。さて、一流高級レストランとは如何ほどのものか見せてもらお……
……
……すっげ。
いやいやいや。え~~~~~なにこれ~~~~~~? ドラマで観た事ある感じのやつ~~~~~控えめな照明に感覚の空いた客席~~~~~あたり一面ガラス張りで街の様子が一望できるロケーション~~~~~奥の方にある広いソファ~~~~~~うわぁ~~~~~別世界。なんやここ? 天界?
「いらっしゃいませ。ご予約のお客様でしょうか」
「あ、はい。輝です」
「輝様。お待ちしておりました。では、こちらへどうぞ」
うぅむ緊張するな。普段ならこんな場でも「知らねぇなぁ!」つって我が物顔で進むもんだが、今日はなにかおかしい。なんだろ……ゴス美がいるからか? いやいやなんでやねん。関係ないやろゴス美がいようがいよまいが……あ、でも自分の知識の無さとかが露呈する事への不安はあるかもしれんな。一社会人としてそんなマナーもご存じなかったのかぁ~~~!? ってな風に思われたら幾ら俺でも恥ずかしいし。うん。そうだ。そうに違いないぞ、うん。そういう事にして、ともかく進もう。お店の人に続いてさぁ参らん……? なんだ? 袖を掴まれている。なんだゴス美。何か用か?
「ピカ太さん。こういう場ではレディファースト。女性が先に歩くのが礼儀です」
「あ、そうですか」
ほら~~~こういう感じ~~~~こういう感じで指摘されると~~~~なんだか情けなく~~~~無知を嘆きたく~~~~~~~~~~
「ちなみに、私上座に座らせていただきますが、それもマナーですので、どうかお気になさらず」
「はい」
このレベルの店で上座と下座の区別なんかつかねーよ!
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