サキュバス、黄鶴楼にて上司の恋路に之くを送りました5

 時は来たれり。Time has come

 労働条件ガン無視の殺人的スケジュールを自らに科したどり着いた今日。日に三十時間という矛盾のみがなせる狂気の労働によりとうとう俺は定時退社を決める事が可能となった。本来であれば仕事全部他の人におっかぶせたかったけどさすがに居た堪れなかったのと上長が死にそうなので断念したのは胸に秘めておく事にする。

 というかさぁ~~~~~~繁忙期と閑散期が読めねんだわこの業界~~~~~~~だいたいは分かるんだけど急に仕事きたりするから~~~~~~~ちょっと前まで暇だったのに急に忙しなくなるなんてザラでさぁ~~~~~~~~先週今週がまさにそれだったんだけどマジもう無理。わけの分からん宣材を取ったり付けたり半ばボケた頭でコピー考えたりしてお前もう本当、死ぬぞ? しかも挙句に「あ、すみませんやっぱりデザイナーとライターに頼む事になりました」ってなんで~~~~~~~? なら最初からそうしとけやボケ~~~~~~こちとらお前らんとこから受注してる別業務も請け負っとんのやぞ? 忙しい知って分かるやろ? なぁ? しかも没になった弊社作成の広告については「使わせていただきますけど展開はしないんで三割カットで」とか本当に! 殺す。



「輝さん。どうしましたか? めっちゃ怖い顔してますけど」


「あ、不破付さん。いえね? ちょっと例の突発案件について考えてたら殺意が」


「あぁアレ。だから言ったじゃないですか輝さん。あそこはどうせ二転三転するから適当でいいですよって」



 確かに聞いたし俺も知っているんだけど止む終えぬ事情があるのだと説明したのに覚えてないのかなぁ不破付さん! お前本当に人の話し全然まったく聞く耳もたねーよなぁ! 言ったよ俺はぁ!? この日に予定があるから万が一のために用意しておかなきゃいけないってさぁ! それをお前ほんと……そういうとこやぞ!?



「ところで輝さん。僕、女の子と付き合う事になったんですけどぉ」


「聞いたよそれは」



 もう何十回……いや、何百回もな! お前人の話し聞かないどころか自分の言った事すら覚えてねーんだなぁ! いい加減にしとけよ!?



「いいじゃないです。夫婦喧嘩は犬も食わないといいますけど、惚気話は猫の大好物ですよ? まぁまぁショートブレイクと思って僕のラブトークに付き合ってください。この間ね? その子と食事行ったんですよ。イタ飯ですイタ飯。駅前のあそこ。あそこのねぇ。チーズフォンデュが結構いけるんですけど、まぁ二人して食べたんです。で、チーズフォンデュで白ワイン入れるじゃないですかぁ。あの子、結構酒強いからあんまり酔わせられなかったんですけどぉ。その日はもうチーズフォンデュにワインマシマシにしつつ、”これがバッサーノの風の味だよ?”とかいってグラッパをガバガバ飲ませてね? もうグダグダにしちゃったんですよ。そこまできたらもう勝負の一発。酔った勢いに任せて許可を得て、タクシー乗り込みお城へGOです。あ、お城っていうのは……」


「あ、もういいです分かりました。結構ですのでお引き取りください」



 これ以上インモラルなエピソードは沢山だ。



「えぇ? 聞かないんですかぁ? 乙女の花が散っていった様子を……」



「大丈夫です! 帰ってください!」



 下衆! 現代のロイエンタールかお前は!



「輝さんって本当に潔癖ですよねぇ。そんなんじゃこの汚れ切った世界で生きていけませんよ?」


「生憎ですが汚れ切っているのは不破付さんとその周りだけですので、どうか僕に瘴気を浴びせかけないでください」


「酷い言われようですねぇ。心外だなぁ」



 なにが心外なものか。真理じゃボケ。



「そうは言っても輝さん、あのビック・ボインと今日お食事でしょう?」


「……鳥栖さんの事ですか?」


「そうそう! あの女社長!」



 やめてくれ。突然金色のガッシュに出てくる、アニメオリジナルじゃそこそこの出番貰えてそれなりの人気が出たキャラクターに例えるのは。あとお前しっかり俺が話した事覚えとるやんけ! 殺すぞ~~~~~~サブチャネルで土下座させるぞ?



「僕の見立てだとあのボイン。輝さんに気がありますよ? これを機に上っちゃいましょうよぉ大人の階段をぉ。だいたぃ、輝さんにその気がなくとも向こうが違ったらどうするんですかぁ?」


「生憎ですが不破付さん。僕はそういった事に興味がなく、また、相手方ともそういう関係にはなりませんので」


「いいじゃないですかいいじゃないですか。夢がありますよ」


「二作目宇宙刑事のOPみたいなリズムで言われてもないものはないです。ないですないですあり得ません」


「え~~~~~~~~~~~~? シンジラレナーイ!!!」



 なにが「シンジラレナーイ!!!」だ。ケフカかお前は。



「ともかく僕と鳥栖さんはビジネスの関係でしかありません。無駄話はここまで。さ、仕事しましょう」


「まったく堅物ですなぁ。歳ってから発情期きてもしりませんよ?」



 うるせぇ大きなお世話だ。くそ、いらん話をしたせいで仕事が押したぞ面倒くさい。








 ……しかし、今日、もしゴス美とそういう雰囲気になったら、俺はどうすればいいんだ? 相手がそのつもりで迫ってきた俺は断れるのか? いや反応はしないんだが、申し訳なく……




 馬鹿か俺は。

 何を考えているんだ気持ち悪い。ゴス美にも失礼だ。

 いかん、不破付馬鹿のせいで馬鹿な事を考えてしまった。仕事しよ仕事。

 




 

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