サキュバス、黄鶴楼にて上司の恋路に之くを送りました4
……気を取り直してゴス美の件に着手しよう。
どうしよっかな。奮発して有名ホテルのテストランでも予約してみようか。再来週だけど大丈夫かな。ちょっと調べてみるか。タップタップ……お、いけるっぽい……しかしなんだこのチェック項目。利用目的まで入力するとか本気か? それぞれにマッチしたサービス提供してくれるって事? はぁんさすが一流店。違いますなぁ。とりあえず入力しよう日付と、目的は……デート、接待、記念日、その他……その他だな。よし。後は氏名と電話番号と……OK準備完了。あ、これ値段書いてないわ。個別に見なきゃいけないっぽいやつだわ。しゃあない。店舗情報からコース料理と……お、あったあった。え~~~~っと五万円……
五万……? 五万……五万!?
嘘やろ!? 二人で十万やんけ!? ちょっといいコートとかが買えてまう金額やないか!? マジでか~~~~~お前……マジか~~~~~……どないしょ……あ、でも指定の料理抜くと安くなるのか。なになに? 海に咲く真紅の薔薇と、オマールサファイアのリソーレ・ソーテルヌとフヌイユの芳香・爪・腕肉を異なった調理法なしだとお値打ちになるんだ。へぇ。名前から全然想像できねぇや。どんな料理だ。
う~ん……知らない料理だし別になくても俺的には全然いいんだけど、せっかくだしなぁ……でも十万かぁ……いや、ワイン代入れたらもっとするな……十二万くらい? 月給の半分以上やんけ。家賃より高いぞ。うーん……まぁいいや。とりあえず予約直前の画面までいっておいて、後でどうするか決めよう。いつまでも玄関で突っ立てるわけにもいかないしな……
「あ、ピカ太さん」
「おわ! っと、なんだ課長か」
「なんだとはご挨拶じゃありませんか」
「あぁすまん。ところで、何か用か?」
「ご飯ができたのですが、どうなさいますか? 先にお風呂に入りますか?」
「いや、せっかく作ってくれたんだ。食事を先にいただこうかな」
「了解です。今日はカニ鍋です。路上有花葵を用意してありますので、お楽しみに」
「あぁありがとう」
路上有花葵が何か知らんが恐らく日本酒かなんかだろう。きっと高いんだろうな。まったく、さっきの妙なコース料理といい、どうにも庶民のレベルには届かないネーミングをお付けになるものだ。牡蠣小屋で安い焼酎と取り立ての海鮮を焼いて突いていた方が俺にはお似合いだよ。というか行きたいな海辺の牡蠣小屋。わざわざ冬のクソ寒い日にドラム缶の焚火を囲みながら脂の乗った魚や貝類をパチパチと炙っていきたいわ。あぁもうこれ冬は日本海側か四国中国地方だな。今の内に金貯めて旅行の準備しとこ。と、いう事はこんなところで金をじゃぶじゃぶ使うわけにはいかん。ゴス美には悪いがお値段据え置きのハーフコースメニューで……
ご予約ありがとうございます。
ご来店を心よりお待ちしております。
は?
え? なに? なんなんこの画像? え? ご予約? ありがとうございます? ご来店を? 心より? お待ちしております? 誤タップで成立してしまった? ゴス美が来たときに!? 咄嗟にスマフォしまったあの瞬間に!? 誤ってタップしてご予約が完了してしまったのかぁ!?
え~~~~知らん知らん!? しとらんご予約! ありがとうございますじゃないよしてないんだからさぁ! 予約してないから心よりお待ちしてなくたっていいよ! ちょ、ま、キャ、キャンセル! キャンセルしますキャンセル! どこで! どこでキャンセルすんの!? ねぇ!?
「ピカ太さん」
「ギャ!」
「ど、どうされたんですか……」
「あ、あぁすまん課長。ところで、何か用か?」
「えぇ……あの……」
なんだ!? 早くしてくれ! 俺はさっさとあのコースをキャンセルしなければならないんだ!
「あ、やはり大丈夫です。すみません。なんでもありません」
そ、そうかなんでもないのか! ならよかった! これでキャンセルの申し込みを……
……いや、何か様子が変だな。できればさっさと処理してしまいたいが、まぁまだ何とかなるだろう。ここは話を聞いてみるのが人の道というもの。伺ってやるとしようか。
「なんでもないって事はないだろう。何でも言ってみてくれ」
力になるぞ。俺に解決できる内容なら。
「いえ……その、本当になんでもないんです……」
え? そう? 追求しない方がいい感じ? そっか! なら仕方ないな! ではここは「分かった!」と男らしく受け入れてやるかぁ! 言いたくないんだからどうしようもないよねこれは!
「課長……言っちゃいましょうよ。”お食事の件、私ならいつでも空いてます。予定も股もガバガバです。早く誘ってください”ってえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ナイスショット! 課長のソバットがムー子に炸裂し飛翔!
ところでムー子まだいたんだな。てっきりゴミが転がっているのかと思ったよ。
それにしても足で救い上げてから一撃入れるとか格ゲーみたいなムーブでよくあれだけ吹っ飛ばしたな。俺の九頭竜より飛距離があるぞ。ハイスコア更新だ。
「馬鹿な事言わない! そんな厚かましい事をこの私が思っているわけが……わけが……」
あ、泣いてる……え? 本当にその事だったの? ちょ、マジで? そこまで? そこまで思い詰めていた感じ?
「すみませんピカ太さん……お見苦しいところを……見せてしまい……うぅ……」
あぁ……座り込んでしまった。これはまずい。心が痛い……どうしよ……え? どうすればいいの本当に? ねぇ? 俺はどうすればいいのこれ? 教えて! 誰かこのシチュエーションの正解を教えて! どうすればいいんだ! どうすれば……
……どうしようもなにも、もうやるしかねぇよなぁこれじゃあさぁ。
「課長」
「……はい」
「オマールサファイアのリソーレ・ソーテルヌとフヌイユの芳香・爪・腕肉を異なった調理法、好き?」
「……? はい。好物ですが……」
知ってんのかい。いや、まぁ好きならいいや……
「ならよかった」
「?」
「これを見てくて課長」
「……え? これって……」
そうだ。予約画面だ。
お前のために予約した、フルコースのな……!
「ピ、ピカ太さん……」
「どうした」
「私……私……嬉しいです……!」
「そうか。まぁ日頃の労いだ。存分に楽しんでくれ」
「……はい! はい! ありがとう……ありがとうございます……!」
……これでよかったんだ。これで。
さようなら、冬の牡蠣小屋……魚介の網焼き……安い焼酎……
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