サキュバス、合コンって言葉が死語になりつつあるって事に時代の流れを感じざるを得ませんでした5

「では、こちらへ……」


 先陣を切る阿賀ヘルの後ろについて男四人でゾロゾロゾロゾロ。なんかドラクエⅢの逆ハーレムプレイみたいだな。人数一人多いけど。

 ドラクエⅢか。懐かしいなぁ。勇戦戦武の脳筋パーティーでごり押ししたっけ……やまたのおろちとかバラモスとかが辛いのなんの……フバーハスクルトバイキルト使えないってかなりの縛りだよな。レベルを上げて殴ればいいだけだから時間さえかければクリアはできるけど、いやぁそれにしても無駄な時間だったなあれ。でも世の中には勇者一人旅とか平気な顔してやってる奴もいるしそういうマゾプレイしてる人間よりはまだ建設的な時間だったかもしれん。どっちもどっち? それはそう。でもひたすら最速のプレイを目指すってのも狂気じみてるよな。なんだっけ。ドラクエⅢの最速攻略法。ホットプレート使ってロムのバグに再現性を持たせるとかいうやつ。発見した経緯とか見たけどあいつら研究者かってくらい仮定と実験繰り返してるよな。凄いインテリジェンスだ。人類の発展になんら寄与してないけど、全員が全員地球や人類のためを思って動く必要もないし別にいいよね。シャアなんてアクシズ地球に落とそうとしてたし。



「このビルの四階です」



 あ、着いてしまった。やっべぇここまで一言も話してないわ。思い返すと皆なにかしら会話を交わしていた気がする。しまったなぁ。なんか共有事項があったら後で教えてもらうか。お、エレベーター到着。早いな。うん? このエレベーター。五人で乗るには少し……



「狭いですね。二手に分かれましょうか」



 そうなるか。というか五人で店員オーバーになるエレベーター使ってるとか、団体来たらどうすんだよ。怠すぎるだろ。

 ……いや待て。よく見たらこのエレベーター。四人は行けるな。男が多いからやや無理しなくてはならんが、やってやれない事はない。隣には非常階段。ご丁寧に、"こちらからでも各階ご来店できます"との案内。ふむ。



「あ、俺階段で行くから、皆は一緒にエレベーターに……」



 ガシリ。


 手首を掴まれる感覚。



「私とピカちゃんは後で参りますので、皆様はお先にどうぞ。入口に椅子がございますので、そちらで待っていただけると」


「いや、俺は階段で」


「どうぞ! 皆様! お先に! お上がりになってください!」


「……」



 なんという力強い気配りだろうか。見ろ、男連中が若干引き気味の笑顔を浮かべているぞ。まさかこんなおもてなしを受けるとは思ってもみなかったろうに。可愛そうな事だ。


 ……他人事じゃねーぞ!?


 なんで俺が阿賀ヘルと一緒に待たなあかんねん。い~~~~~や~~~~~だ~~~~~! 俺こいつ苦手なんだよぉ~~~~~~何考えてるか分からないし、何しでかすかはもっと分かんねぇんだよぉ~~~!? だいたいお前、普通幹事が先に行かない? なんでお見送りしてんの? おかしいやろ。



「じゃ、じゃ僕ら、先に行きますんで……」


「待ってま~す……」


「悲しいけどこれ、順番なのよね……」


「……」



 ……あいつら颯爽と乗り込みやがった。なんたる薄情! 血も涙もないのか! この人でなしども!



「……」


「……」



 登っていくエレベーター。待ち時間の沈黙。しんどい。




「……」


「……」


「……」


「……二人っきりになっちゃいましたね?」



 なっちゃいましたね? じゃない。明らかに作為的な、仕組まれた二人きりだ。



「ピカちゃん。二人で抜け出しちゃおっか」



 それ中盤で言うやつ~~~~~~~いい感じで酔っぱらってきて何とく意気投合した男女が一歩先行く事で優越感と背徳感を得るやつ~~~~~~全部違う~~~~~タイミングから使用方法までまったくの的外れ~~~~~~~あと俺には無効なんだけど、仮に同意したとしたら上に残してきた連中どうするつもりだお前。入り口前でたむろってる男も先に待機してる女も唖然としてしまうぞ。多分合流はできると思うけど、「あれ? 幹事がこないぞ?」って状態になるぞ? 混乱の最中淀んだ空気が支配する客席で始まる初対面同士の飲み会とか地獄以外に何と評したらいいのか。しかも男サイドにはあの店長がいる。良くも悪くも空気を読まないガノタトークにより一瞬で場をヒエヒエにする事間違いなし。双方にとって色々なダメージが残るだけの極悪な酒宴となろう。そんなアポカリプスをお前を引き起こそうとしているというのか。この魔女め! よ~し! ここは俺が、そうは問屋が卸さないって事を教えてやるぞ!



「ヘルさん」


「なぁにピカちゃん」


「これは友人の話なんですが、深夜、マンションのエレベーターに乗ると八階のボタンが点滅したそうなんです。最初はなんとなしにそれを見ていたんですが、ハッとして二階、三階、四階とボタンを押していき、四階で止まったエレベーターから急いで外に出て、非常階段から外に出ると朝までコンビニで過ごしたそうです。それ以来、深夜のエレベーターの使用を控えるようになったと言っていました」


「……それはいったい、なんのお話しですか?」


「エレベーターはねぇ……中から押さないとボタンは光らないんですよぉ!?」


「……あぁ、幽霊的な話です? だったら大丈夫です。私、それくらいの幽霊だったら除霊できますので」


「あ、そうですか」



 チーン。



「ヘルさん。着きましたよエレベーター。さ、乗りましょう」



 ミッションコンプリート。さ、行こうか、皆が待つお店へ。



「……ピカちゃん」


「なんですか?」


「エレベーターって凄い安全に配慮して設計されてるってご存知ですか?」


「……? まぁ、そうでしょうけど……」


「例えば強い衝撃が加わると、停止しちゃうんです」


「……」


「私、霊気で衝撃波を出す事ができるんですよね」


「……」


「さ、乗りましょうか。エレベーター」


「……ヘルさん」


「なんでしょうか?」


「俺、やっぱり階段で……」


「……え~い」



 ぐわぁ! し、心臓が痛い……



「さ、行きましょうね~」



 ひ、引きずられていく……助けて……助けて……

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