サキュバス、合コンって言葉が死語になりつつあるって事に時代の流れを感じざるを得ませんでした6

 チン!


 ……はっ!?



「ピカちゃん。到着ですよ」


「……」



 どうやら気を失っていたようだが、時計を見ると数分も経っていない事が分かる。よかった。密室ドキドキエレベーターなんて展開にはならなかったようだ。昔ドラマであったなそういえば。エレベーターに閉じ込められた仲悪い人間同士が吊り橋効果によっていい感じになるなんて茶番が。この俺に精神的動揺による間違いはないと思うが、万が一があっては困る。いや、ほんと、衝撃波起こさずにいてくれてありがとう阿賀ヘル。



「あ、来た来た! 来ましたな~~~~? この~~~遅いでござるよ輝氏~~~~? 遅刻厳禁ですぞ~~~? 分かっておいでか~~~~?」



 テンションエグイな店長。どうしたん? 話し聞こうか?



「彼、急に"緊張してきた"って言って、おもむろにスキットルを取り出して飲み始めたんです……」


「おもむろにスキットルを」


「やばいですよあいつ。何飲んでんだって聞いたらグレンファークラスつってたんで調べたら、六十度ある酒らしいですよ」


「六十度」



 バブル並の景気付けだな店長。崩壊したら何もかも失うかもしれんがいいのか店長。一か八かの大勝負になっちまったぞ店長。

 でもまぁ俺には関係ないからいっか。



「ま、なんとかなるだろう。それよりヘルさん。席へ案内していただけると」


「え? マジで言ってます輝さん」


「そりゃ……どうしようもないし」


「こいつもう置いてきましょうよ。刃牙のムエタイ使いくらい信用できないですよ」



 不破付。お前今、ジャガッタ・シャーマンを馬鹿にしたな? 勇次郎にジャガられたジャガッタ・シャーマンを!? いや、もしかしてサムワン海王の事いってる? ふ~む。それならしょうがないか。



「まぁいいじゃないですか。せっかく服も買ったんだし。それに、酔ってるなら覚ましてやれまいいんですよ。輝さん、ちょっと三さん借りていきますので、少しお待ちを」


「え? えぇ……はい……でも伊佐さん。何をするんです?」


「ちょっとね……さ、行きますよ三さん」


「はははははは! どこへ行こうというのかね~~~~~?」


「いいからいいから……」



 ……



 ドン!



「ぐえー!」



 ……



「ただいま戻りました」


「……」



 ……店長めっちゃしんどそうな顔してる。



「……なにがあったんです?」


「ちょっとした民間療法ですよ」


「……店長知ってるよ? 酔いの度合いは血中アルコールに作用されるって。胃に入った酒を吐き出させたところで覚めるわけないんですよね。店長、そういう事ちゃんと分かってるんです。ちゃんと。意味ないんですよ。どんだけ吐いたって」


「でも、すっきりしたでしょう三さん?」


「……」



 うわぁこの世の終わりみたいな顔してる。開始前だってのなんて落ち込み方してんだ店長。まるで犬がお気に入りのおもちゃを壊してしまったような顔だぞ。大丈夫か?



「まぁ、無事ジオングって正気に戻ったところで、さっさと案内していただきましょうよ。阿賀さん、お願いできますか?」


「はい。では、参りましょう」



 嘔吐する事をジオングって呼ぶの止めろよ不破付さん。俺結構ジオング好きなんだから。

 昔は嫌いだったんだけどねジオング。ライバルの最終機体のくせに格闘戦できないしほとんどMAだからガンダムと並べるといまひとつパッとしない感じがしてたし。でもね。大人になって分かった。もうこれしかないなっていう背景とデザインに。ジオングって、追い詰められて超兵器に頼るしかないジオンの虚栄としてはビグザムに次ぐ象徴的な機体だと思うんだ。未完成でオールレンジ攻撃も有線。調整も不完全。何もかも片手落ちの急ごしらえな機体で最終決戦に挑むシャアの心境といったら「マジかよ」って感じだろう。俺がア・バオア・クーでこれに乗れって言われたら多分戦闘のどさくさに紛れて逃げるか白旗上げるよ。弾幕すり抜けて白兵戦に持ち込んでくるガンダム相手にしろとか冗談じゃない。断固拒否だ。でもシャアは乗って戦ったんだよね。これってシャア自身との照らし合わせがなされている気がするんだ。志半ばで散ったダイクンの意思を継ごうとしたり、ガルマに復讐を果たすもどこか後悔しているような哀愁を見せたり、アムロのニュータイプ能力に劣等感を感じ嫉妬したり、それでも「同士になれ」とアムロを引き込もうとしたり、どれも中途半端で完全に成し遂げられないシャアの人間的な弱さと魅力がジオングの欠落と上手い具合にマッチしているんだよね。それを鑑みるともうシャアはジオングしかないなって思うし、ジオングはシャアの機体だなって思っちゃう。赤い彗星の最後の機体が灰色ってなんか寓話めいた教訓がありそうだよね。知らんけど。

 まぁそんなわけで俺の中ではシャアのジオングは物語的に最高って結論が出てるんだけど、黒騎士のガラバはちょっと納得いかなかったな……凄い単純で分かってない視聴者的な事言うけど、剣で打ちあって欲しかったよ。カッコいいけどねガラバ。でも栄光の落日で出てきたのは許さないよ……



「ピカちゃん」


「あ、はいなんでしょうか?」


「なんでしょうかじゃないですよぼぉっとして。お友達がまっていますので、早くいらしゃってください」


「あぁ、そういえばそうでしたね。今行きます」



 我に返って気怠さ百倍。めんどくせぇなぁ……

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