サキュバス、ヤベー女がやってきました2

 カランコロン。


 お、今の時代ドアベルが鳴る店があるのか。なんとなく嬉しいな。


 

「いらっしゃいませ~二名様でしょうか~?」


「はい。私とこの方の二人です」



 わざわざ強調するな恥ずかしい。



「かしこまりました~ではお好きな席へどうぞ~」



 お好きな席ね……それなりに空席もあるし、適当なテーブル席に座ろう。できれば入口近くがいいな。もしもの時逃げやすいから。



「輝さん。カップルシートなんてものがございますよ? いかがですか?」


「あ、断固拒否でお願いします」



 しまった。つい飾りのない本音の言葉が出てしまった。疲れてんのかな俺。いや、確実に疲れてるんだわ。そりゃお前、買い物に幽霊退治に失神に筋肉痛だろ? 疲れないわけねーっての! 早く帰りたい!



「ま、いいじゃないですか。座りましょう。カップルシートに」



「あ、ちょ、ちょっと!」



 強引! くそ! 裾掴まれて強制的に誘導されていく! 俺の身体が限界点だってのをいい事に好き放題しやがるこいつ!



「よっこいしょ……隣同士ですね。私達」



 そりゃカップルシートなんだから隣同士だろうよ! あぁ近い! 身体も顔も近い! やめてくれよ俺人とは距離置きたいタイプの人間なんだよ! 吐息がかかるような距離だと怖気が走るんだよ畜生息止めろ! 



「なに飲まれますか?」


「……水」


「分かりました……すみませ~ん」


「はいはい~」


「たっぷりミルクオレの二倍サイズとバケツプリン。それと水をジョッキ氷なしでお願いします」


「かしこまりました~」



 ……なんで? なんで大きいサイズ感のやつばっかり頼むの? 大は小を兼ねる的な? 過ぎたるは猶及ばざるが如しだ馬鹿~~~~! たっぷりミルクオレの二倍サイズってお前なんやねん。たっぷりにたっぷりにを重ねてまっとるやんけ。



「それにしても、暑いですねぇ。上着脱ぎますね? よいしょ……っと」



 なんで下タンクトップやねん。下タンクトップなら脱ぐなや。



「あ、最近私、痩せたんですよね。いい感じにくびれてきてまして」



 知らん知らんそんなん。お前のくびれとかめっちゃどうでもええわ。むしろなんやねんその話題は。そっからどうやってトーク広げてけばええねん。「くびれといえばバッシュザブラックナイトがいいですよねぇ。あ、今はダッカスですね」とか言っとけばいいの? そういう内容だったら大歓迎だよ俺? しかし連載中マイナーチェンジ的な感じで変わる事は結構あるけど総称から個々の名前、デザインまでまるっきり別物へと変更するってそうはないよね。俺はゴティックメード好きなんだけど、受け入れ難いって人も結構いただろうなぁ……まぁかつおやドラえもんの声が変わってもなんだかんだで馴染んでいったし、時間かければ「そういうもんだ」と皆納得はしていくだろうけどね。でも個人的にはダッカスよりバッシュの方が良かったなぁ。シュぺルターとデムザンバラはどっちも好きなんだけどね。それにしてもあの骨むき出しみたいなデザインってどういった着想からたどり着いたんだろうな。普通ロボットつったら装甲ありきのもんだから、それを取っ払っちゃうってかなりの冒険だったような気がする。とはいえ永野衛先生はいつも時代の先を行くデザイナーだから、数年後には普通の造形として広く取り入れられているかもしれん。先生が毛嫌いして描かなかったコーンバーニアも他の作品で見なくなったし。



「あの、輝さん」



 キュベレイも当時は大分叩かれたと聞いているがいつの間にか最も美しいモビルスーツだなんて掌ひっくり返されてるしな。いやぁやっぱりキュベレイはいいよね。あの流線型のシルエットに純白のカラーリングは宇宙そらに咲く花のようだ。一部の無駄もなく完成された機体は唯一無二。加減する余地のない究極の形の一つだろう(ダムドみたいな改造も嫌いじゃないけどやっぱり手を加えないのが一番だよね)。そりゃマシュマーもハマーンからもらった薔薇を後生大事に胸ポケットに入れるよね。なんかキュベレイ作りたくなってきたな。帰りに買ってくか。マークツーも合わせて三体。



「輝さん!」



「あ、すみません阿賀さん。ちょっと貂蝉ちょうせんの事考えてました」


「……」


「? 阿賀さん?」


「……」



 黙ってしまった。さすがに怒ったか? そりゃあちょうどいい。激怒激憤して席を立ち、感情の赴くままに店を出るがいいぞ阿賀。帰れ帰れ。



「輝さん、ちっとも私の事、ヘル。って呼んでくれませんね」


「……え?」



 そっち~~~~~? 呼び方の方~~~~~? 一緒にいるのに「わっり! 別の事考えてたわ!」ってのはOKな感じ~~~~? 懐深いなおい。



「分かりました。でしたら私、これから輝さんの事、ピカちゃんって呼びますね?」


「意味不明」



 ホント、全然分からない。思わず遊戯みたいに言っちゃったよ。



「二人とも名前で呼べばフェアですからね。お互い気安い関係になりましょうよ。ね? ね? ね?」


「ち、近い! 分かった! 分かったから離れて! 離れてください!」


「いいじゃないですか近い事はいい事です。だってアダムとイブは聖書に書かれたカップルなんですもの。邪な蛇も林檎も私がパーフェケーションしますから」



 やめろ急に電波を送受信するのは! くそ! 抵抗したいが全身痛くて身体が思ったように動かん! 誰か助けて~~~~~!



「お待たせいたしました~たっぷりミルクオレ二倍サイズとバケツプリンと水ジョッキ氷なしです~それと当店ではそういった行為はご遠慮ください~では~」



 ダン! ダン! ダン!



「チッ! どうも、ありがとうございます~」



 助かった……ありがとう店員さん。でも露骨に不機嫌な感じ出すのはちょっと嫌かな。テーブルの上にダン! って置くのやめよ? あと、阿賀さんも舌打ちやめようね?

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