サキュバス、狙ってる男の妹と同居しました26

 どうしよう。もう向こうは戦闘モードだけど俺の攻撃通るのかな? マ・ポッチャの時はなんとかなったけど霊体としてのレベルはこっちの方が上だろうから、下手したら物理攻撃に対して無効とか反射属性とかありそうな気がしなくもない。やめてくれよギリメカラよろしくのテトラカーンとか。



「ピカお兄ちゃん……」



 お! ピチウ! 意識があるのか!? 起きれる? 



「私があげた……お守り、ある?」



「お守り? あぁ。あの鮒のやつ」


「そう、それ……それ握ってれば、多分攻撃殴れるから、あとよろしく……」


「え、ちょっと、そんな雑な効果の説明ある? というか、おい、待て寝るな。おい! ピチウ!」


「……」


 

 駄目だ。完全に戦闘不能状態。そんなに失恋ダメージってデカイの? 気を失うほど?  うーん分からん。分からんが、ここは俺がやるしかないか。まぁ、相手はガタイが良いだけの素人だろうしマ・ポッチャよりは容易に……あれ?



「死ねぇ! 乙女のボンバー・タックル!」


 !



 ッぶねぇ! 一瞬姿消したと思ったら潜り込んでタックルしてきやがった! 



「あら、やるじゃない。私のボンバー・タックルを回避したのは、アンタで二人目よ?」



 知らねーよ。なんで吏将の必殺技から拝借してんだよ。だいたいあれショルダータックルだったろお前のテイクダウン狙いのガチなやつじゃねーか。

 そうじゃない! そんな事はどうでもいい! それよりもこいつの動きと技のキレは素人のそれじゃないぞ! 



「お前、レスリング出の総合経験者だな?」


「ご明察。今の一撃そこまで分かっちゃうなんて、中々の晴眼じゃない。少し見直したわ」



 膝を合わせられてもいいように両椀を狭めてのタックルは打撃ありのルールで培われた技術だろうが、それ以上に特筆すべきは奴のフィジカルコントロールだ。あの瞬発力とパワーを自在に操れるボディバランス。天賦もさることながら、鍛錬なしには成し得ない領域。ただものじゃないぞ。



「ご褒美に抱きしめてキスしてあげちゃう。嬉しいでしょう?」


 ……余裕綽綽の笑み、かなりの自信家と見た。やだねぇ。それだけの実績があるって事じゃないか。こりゃグラップリングも計算に入れなきゃいけない分、マ・ポッチャよりも手ごわい相手になりそうだ。



「どっちもごめんだな……」



 ともあれ背中を見せたらやられる。こちらの迎撃の用意をせねば……!



「ふぅん。中々いい構えじゃない。でもま、アマチュアレベルね。それじゃあ私には勝てないわよ」


「言ってくれるじゃねーの。そういうアンタはプロフェッショナルだっていうのかい」


「一応ね。といっても、裏の方だけど」


「裏?」



 しめた! 素性を探れるぞ! 



「アンタは知らないと思うけど、スポーツには裏と表の顔があるの。陽の光が浴びるような場所……例えばオリンピックなんかが表の代表。私がいたところはその真逆。殺し合いが是とされる完全なる闇の舞台だったわ。尋常じゃないレベルの人間と日夜命の取り合いをするような、そんな世界で生きてきたってわけ。アンタとは格が違うわね」



 まるでケンガンアシュラの世界観。俄かには信じ難い話だ。だが……



「……ローズミッションか」


「!? 驚いたわね……その名前を知ってるなんて……」



 ローズミッション。

 二十の国家から結成された闇の組織。加盟国それぞれ十名の格闘家を選出し争わせ、その結果によって世界的な情勢が決まるというバイオレンスな世界があると聞いていたが、まさか関係者に出会えるとは思わなかった。



「ダークウェブなんてレベルじゃないくらいに深層に秘匿された情報なのに、どうしてアンタが知ってるの?」


「……ちょっとな」


「……まぁ、いいわ。それだけの知識があれば、私がどれだけ強いか分かるでしょ? ルールありのお遊びなんかじゃない。マジの戦いをしてきたって。プロの世界で命の取り合いをしてきた私に、のほほんと生きてきたような人間が勝てるもんですか。そこで寝てる子らを連れて大人しく帰りなさい」


「……」



 確かにこいつの言う通りだ。見逃してくれるというのであれば、大人しくトンズラかました方が賢い選択だろう。俺だって無暗やたらに争いたいわけじゃないし、避けられる戦いは避けたいところである。


 でもなぁ……





 一度受けた仕事は最後までやり遂げなきゃ。





 妹がそう言ったんだ。守ってやるのが兄の務めだろう





「お前、引退して何年くらい経ってんだ?」


「さぁ……十年以上は前になるかしらね」


「なるほど。通りで、な……」


「……?」



「さっきの一発。全盛期のお前なら間違いなく決めていただろう。テイクダウンして絞めるも殴るもよし。恐らく高速タックルからのコンボがお前の必殺だったはずだ。だが、それを外した」


「……何が言いたいの?」


「温いってんだよ。今のお前は。元裏の人間だかなんだか知らないが、アマチュアレベルの人間に必殺の一撃を躱される程衰えてんだ。怖くねぇな。これじゃあ……!」



 いい啖呵を切った! 読んでてよかった格闘漫画!



「……あんた、中々面白いじゃない。気に入ったわ」


「……!」



 あ、やばい。この殺気は尋常じゃない……あっ!



 ドドン!



 入口の奥から異音がする……これは、閉じ込められた……!



「もう、逃げられないから。全身の骨がボキボキになってもその減らず口が叩けるかどうか、試してあげるわ……」



 挑発し過ぎた……どうしよ……勝てるかな……いや、無理臭い……くそ、せめてムー子かゴス美かいれば身体能力強化のバフがかかったんだが……

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