サキュバス、狙ってる男の妹と同居しました27

 ないものねだりをしても勝てん。なんとか打開の策を考えねば。しかし、温いなんて言ったが奴の実力は本物。初手で奴が慢心しまくった状態だからこそ回避できたようなものの二撃目を捌ける自信はないし、自信があっても多分必中。あのタックルはつまりそういう類の攻撃だ。どうしようもない。改めて考えるとエグいな……fateのランサーみたいだ……え? 俺、サーヴァントクラスの相手とやり合わないといけないの? 死〜〜〜!



「どうしちゃったのかしらぁ!? 動きが止まってるようだけどぉ!?」



 いかん! 距離詰めてきやがった! 逃げろ逃げろ! 移動射撃キャンセル移動射撃キャンセル!



「逃がさないわよぉ!? はい! ステップステップ!」



 駄目だ! やはり現実ではガンパレの無限移動バグは使えん! クソォあと少しで相手の射程圏内! ヤバイ! マジでヤバイ! マ・ポッチャのパンチとは比べるまでもない確殺の一撃がくる! 食らったら死ぬ! なんとか! なんとかせねば! 



「なんともなりませんでした! アンタの人生これで終わり! 死ななくとも後遺症は残るからね! 諦めてね!」



 笑顔で怖い事言ってくるー! でもマジだから本当にもう無理! 畜生! かくなる上は差し違えてでも一矢報いてやる! タックル入った瞬間にグッと堪えて頸椎に手刀を……



 ガシっ!



「あら?」



 !? オカマのバランスが崩れた! 奴の足絡む白い手指! あれは!



「ピチウ!」



 何やってんだお前! オカマの足首なんか掴んで危ないだろ!



「……ピカお兄ちゃん、逃げて……」



「馬鹿! そんなわけにいくか! というか何やってんだ! 大人しくしてろ! じゃないと……」


「そうよ? 触らぬ神に祟りなし。藪を突くと……」


「きゃ!」


「蛇が出てきて蹴られちゃうんだからね!」



 ピチウ! てめぇ……蹴りやがったなこの野郎! 


 ……! 


 なんだ……頭が……痛い……






「……さい」



 声が聞こえる……



「……あげないさい」



 誰だ? なんだ? なんだこれは……



「守ってあげなさい」



 声がはっきりとする度に……暗転していく……視界が……閉じる……






 ……


 …………


 ………………


 …………


 ……







「……ちゃん」


「……」


「ピカ……ちゃん」


「……」


「ピカ兄ちゃん」


「……! はっ!」



 無事かピチウ! よかった! え? 無事? 俺も? 意識なかったけど生きているのか俺は……あ、いってぇ……なんだこれ? 体中がバキバキになってるような感覚……なんか覚えあるなこれ。そうだ、鬼を倒した後と同じだ。全身の使っちゃいけない筋肉をフル稼働して機能が一時停止している状態。なんとか動けそうだが、これはキツイな……電車に乗って帰れるだろうか……

 

 ……


 違うだろぉ!?

 なんで俺生きてるんだって話だろぉ!? あの殺人タックル喰らって傷一つないの俺!? いや体中は完全にオーバーヒートしてるけども! それでも五体満足でいられるのってこれお前、奇跡よ!? 奇跡だわよ!? 「起こらないから奇跡って言うんですよ」なんて達観してる人達~~~~!? 俺! 起こしちゃいましたミラクル~~~~~ぶっ倒れてるけど~~~~~~!



 そうだよなんで倒れてんだよ俺! そもそもあいつは!? あのオカマの幽霊はどこいったよ! おい! え? まさか見逃してくれた!? 存外優しい! いやぁ助かった! 話の分かる奴でよか……



「しくしくしくしく……」



 ……



「しくしくしくしく……」


 

 ……



「しくしくしくしく……」



 すすり泣く声。わざとらしい、如何にもな声。

 これわざと聞こえるように泣いてない? というかこれ、口で「しくしく」っていってない? 



「しくしくしくしくしくさんじゅうろく……」



 ほらーやっぱり口で「しくしく」って言ってるー! だってそうじゃーん普通泣くときにしくしくなんて効果音しないじゃーん!? スンスンって鼻をすする音とかじゃーん!? それをお前しくしくって、昭和かぁ~~~? おまけに最後ガマグチへびみたいな事言いくさりやがって~~~後なんかアニメ週刊DX!みいファぷーでも聞いたような気がするぞ~~~? 



 呑気な事を考えている場合じゃない! この野太い啜り声は間違いなく! 奴だ!



「ピ、ぐお! ……ピチウ……」



 喋るだけで身体が痛い! どうすんだこれクソ! だが慣れるしかあるまい……でなければ何も解決しないのだから……



「どうしたのピカお兄ちゃん?」


「あいつは……あのオカマの幽霊はどうなったんだ? なにがあった!?」


「それは……」



 言い淀むか……何故? いったい何が……



「酷い! あんな事しておいて”どうなったんだ?”ですって!? このけだもの! 人でなし! アンタの血は何色よ!」 



 部屋の隅っこの方から罵倒が聞こえる……寝ていてよく分からんがこの反響具合から察するに多分角の所で体育座りしてるな。丁度いい。無視しよう。



「何があったんだ、ピチウ」


「……ピカお兄ちゃんが、倒した」



 ……この状況。なんとなくそうだろうとは思っていた。いいだろう。それは受け入れる。だが……



「……どうやって?」

 


 そう。それが問題。

 俺は気を失っていたのだ。ただでさえ実力差のある相手だったんだぞ。失神状態でどうやって倒したというのだ。帝国の動きと同じくらいに、これがワカラナイ。



「なんか、ばー! ってやって、すん! どん! ぐしゃぁ……って感じで……」


「……擬音じゃなくてさ」


「ごめんピカお兄ちゃん。私もよく分からなくて……」


「……」


「本当! 本当だよ!? なんか知らない間に色々あって……」



 本当かこいつ? なぁんか怪しいなぁ……

 でもまぁ……



「……お前が無事なら問題ない」



「……うん。ありがとう。ピカお兄ちゃん」



 大きな怪我がなければそれでよし。

 状況はよく分からんが、ともかくこれで幽霊は無効化。後は成仏させるだけだな。

 


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