サキュバス、狙ってる男の妹と同居しました14

  これはいかん。ピチウに値段交渉させると絶対買い叩かれる。ここは兄としてなんとしてもいい感じの料金で請け負わなくては。

 しかしながら悲しい事に相場が分からんのだよなぁこの手の商売。霊媒師とか祈祷師って一件いくらでやってんだろ? ちょっと調べてみるか。え~っと、お祓い、料金。検索検索……うわ……除霊の料金安すぎ……こんな値段でやってんの悪霊退散。グッズ展開(お守りとか珠数とか聖水とか)とかでプラスアルファの稼ぎがあるんだろうけど、それにしたってこれはない。うぅむ……こういう時は……



「ちょっとトイレ」


「はい。いってらっしゃい」



 ガチャリ。




 ……よし、抜け出した。スマフォをタップタップ。



 プププ。プププ。プッ……トゥルルルル。トゥルルルル。トゥルル……



「はいもしもし。どうしましたかピカ太さん」


「あ? 課長? ちょっと聞きたいんだけどさぁ。悪魔祓いって幾らくらいかかるの?」


「なんですか急に……は!? もしやピカ太さん……今朝の約束が煩わしくなり、私を消そうと……! 亡き者にして約定の履行を無効にしようと、そういう算段ですか!?」



 飛躍しすぎだろ……



「そうなんですか!? そうなんですね!? そんな……私はただピカ太さんからお誘いを受けて嬉しいなって……どんな服を聞いていこうかなとか、美容院にも行っといたほうがいいかなって思って……楽しみに……楽しみにして……だから釘を刺しただけなのに……なのに……なのに……よよよ……」



「あ、知らないなら切るぞ?」



「教会が安価でやってくれますがだいたいおまじない程度の効果しかございません。ガチのデビルハンターは最低でも三十。上は天井知らずです」


「ならるほど。参考になったありがとう。ちなみに中の中くらいの悪魔だったらどれくらいかかるんだ?」


「状況にもよりますが、まぁ余裕を持って三百といったところでしょうか」


「へぇ。結構いい値段するんだな」


「そうは言いますが、中の中ってそこそこですよ? ドラゴンボールでいったらセルジュニアくらい強いです」



 当時のベジータカカロットクラスじゃねーか。



「上位は貴族だったり、それこそ魔王レベルですからね。格が違いますよ格が。中堅といったらバリバリ前線で実働してるエースや主力です。それを考えれば妥当なところでしょう」


「なるほどなぁ。どの世界も構造はそんなに変わらないんだなぁ……そういえば、デ・シャンってどのくらいの悪魔なの?」


「あの方は名門貴族かつ一族の筆頭であらせられますので、名実ともに相当な実力者ですね。完全に上位の存在です」


「え? そんなに凄いのあいつ?」


「そりゃあもう……あの方が名字を名乗らないのは、それが呪文の効果すら持ってしまうためです。氏は一族代々より受け継がれた魂を象徴するものですからね」


「へぇ……あれ? でもプランは普通にフルネーム名乗ってるぞ?」



「あの子はまだ器が未完成なので。先ほど、名字が呪文となると言いましたが、個人は魔力を含んだ媒体です。行使できる条件が整っていなければ名は単なる対象を識別するための記号に過ぎません」


「なにやらファンタジーめいてきたな……個人的に大変興味深い話だが、今は時間がないので次の機会に……食事に行った時にでも聞かせてくれ」


「は、はい! もちろんです! よかった! 私を殺すためにエクソシストを雇うって話じゃないんですね!?」


「まぁ今のところ……」


「え? 今の? 今の? え? なに? 今のところと仰いましたか? え? じゃあなんですか? 何かあれば、え? 駆除? 私を駆除しようって事ですか?」



 うわ怖。声にドスが効き始めた。これはいけないやつだわ。さっさと電話切ろ。



「助かった! 大変に有意義だった! 感謝感謝! じゃ、時間ないから、オタッシャデ!」


「ちょっと! ねぇ待ってください! 結局なんだったんですかこの電話!? ピカ太さん! ピカ……」



 ブッ。ティロリン……



 ……さて、相場も知れたしここからは値段交渉だ。まずは格上価格の三百を提示して、値切ってきたら銭闘開始。どこまで粘れるかが勝負の肝だが……話を聞く限り下の中なら八十から百二十あたりが適正価格といったところかな。であれば、最低でも百七十を割らないようにはしたい。仮に三百で一発で引き受けたら少しばかり温情を見せてやるか……甘いなぁ俺も……




 ガチャリ。




「ただいまピカお兄ちゃん。今報酬が決まったところだよ?」


「……は?」


 え? ちょっと、おま……え?


「この店に売ってる家具、なんでも好きなもの選んでいいって!」



 ちょ、ま、なん? なんなん? なんでそうなったん?



「いやぁ当百貨店はお値段以上の商品を揃えておりますので、出血大サービスでございます」



 丸! お前か!? お前が俺のいない間に誑かしたのか!? テメェコノヤロウバカヤロウ! なにがお値段以上だ! それは売る時に初めて効果が出るコピーだろうが! 報酬説明に使っていい文句じゃねぇ!



「おっま、まじふっざけ……」


「まぁまぁ。いいじゃないピカお兄ちゃん。お金貰ったってどうせ物買うために使うんだよ? だったら現物で貰った方が手間が省けるじゃない」


「お前は~!? 現金の価値を~!? 日本円の信用をなんだと思っているんだ馬鹿者~!? 公民の授業で何を学んだのだ~!?」


「え? 公民? う~~~~~~ん……相互扶助と社会福祉の重要性? かな?」


「……」



 ……何も言えねぇわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る