サキュバス、狙ってる男の妹と同居しました13
タン。タン。タン。
プププ。プププ。プ……トゥルルルルルルルルルル……トゥルルルルルルルルルル……
ピチウの奴、現代知識に疎いくせにスマフォのタップ捌きは手馴れているな。といっても指で押すだけなんだから慣れもなにもないんだが。
トゥルルルル、ブッ。
「はい、もしもし。貴女の母ですが」
なんでスピーカーモードやねん。
「あ、お母さん? 無事ついたよ~」
「昨日メッセージをいただいたのですから存じております」
「そうだよね~それでね? 今ジャス……じゃなかった。え~っと……ピカお兄ちゃ~ん。このお店なんて名前だっけ~?」
「……特急百貨店」
「ありがと……今、特急百貨店? ってとこにいるんだけど、なんか除霊的な? 退魔的な? ともかくそんな感じの依頼されちゃって……これ、引き受けても大丈夫?」
「対象の力量は?」
「はっきりとは分からないけど、下の中って感じ」
「そう。では好きになさい。ただし、くれぐれも安い金額で働かないように。吹っ掛け過ぎもだめですよ?」
「はい! 了解です!」
「よろしい。くれぐれくも無理のないように……あ、それと、ピカ太さんに代わってください」
「は~い……ピカお兄ちゃん。お母さんが代わってだって」
「聞こえてるよスピーカーなんだから……今いないって言っといて」
「分かった! お母さん? ピカお兄ちゃんがね? 声も聴きたくねぇよバカヤロウコノヤロウ! サンズリバーの五文銭投げつけんぞコノヤロウバカヤロウって……」
「はいお電話代わりました貴女の息子ピカ太でございま~す!」
「ピカ太さん?」
「はい。なんでございましょうか」
「随分とお元気そうですが、あまり母をお舐めになりますと、相応の対応をせざるを得ませんので、そこのところ、よっっっっっっっっっっく! お心得になってくださいませ」
「……はい」
「以後、気を付けるように。それよりも、ゴス美さんはお元気?」
「まあ、うん。元気だと思うよ? 仕事で多忙のようだけれども」
「そうですか。忙しい事は良き事です。貴方もしっかり手伝ってあげうように」
「はい」
「それとピチウさんについてですが、都会慣れしておりませんので、こちも抜かりなく手引きをする事」
「はい」
「あと風邪などを引かぬように気をつけなさい。彼方、ただでさえ生活が不規則なんですからね。そもそもですね。いい加減お勤めの会社退職なさったらどうです? あんな昼も夜もないようなところにいつまでもいるものじゃありませんよ?」
「考えておきます」
ゴス美の労働は賞賛する癖に俺の職場にはケチつけるんかい。まぁ経営者と従業員で立場も責務も違うんだが、もうちょっと「毎日頑張って偉い!」と肯定ペンギンよろしく褒めたたえてくれてもいいのにな。
「それと、何度も言いますが年末には帰るように。毎年毎年仕事仕事と言って逃げておりますが、今度こそちゃんとするのですよ? 親戚への挨拶もありますし、それに……」
「あ、すみません。お母さん。急に電波が……もしもし? もしもーし? もしの助~?」
タンッ!
……プっ! テェロレン……
「はい、というわけで従業員の方。この仕事、お引き受けいたします」
「あ、はい」
込み入った話を聞いてしまったからか気まずそうな顔をしているなあんた。いいんだよ気にしなくて。
「で、ピチウ、幾らで引き受けるつもりだ?」
「そだねー。力自体はそこまで強くなさそうだけど、情報が分からないうえ道具もない状態だからねぇ」
なるほど。緊急費用がかかるわけか。これは高くつくかもしれんな。
「あの、大変申し訳ないのですが、昨今ではお客様の百貨店離れが進んでおり、週次、月次と赤字となる事も珍しくありません……それ故に懐事情が厳しく……どうかその点、ご留意いただければと……」
お? なんだこいつ? 値切るつもりか?
……面白い。代理店で身に着けた請求テクニックをここで披露してやろう!
「ほぉ。そちら、自社で対処できない問題を頼むにあたって、正当な報酬を払わないと仰るおつもりで?」
「あ、いえ、決してそんなつもりじゃ……」
「ではどんなおつもりでそんな話をしたのか。相手は女子供だし、適当な事言っておけば言いくるめられると思ったのではないですか?」
「そ、それはない! 心外です!」
「そうですか……では、その件につきましては謝罪しましょう、申し訳ありません。が」
「な、なんですか?」
「貴方、経営が赤字続きと仰られましたが、それは覚えていらっしゃいますか?」
「……」
「どっちなんです? 覚えているのかいないのか!?」
「お、覚えてますよ……」
「よろしい! それを踏まえて……失礼、そちら、お名前は?」
「丸です」
「丸さん。貴方、この特急百貨店の売上高をご存知ですか?」
「さ、さぁ……」
「お勤めになられているのにご存じないと?」
「……」
「まぁ、それはいいでしょう。サラリーマンというのは確かに組織の全貌を解していないものですからね。なので、代わりに私がお教えいたしましょう。特急百貨店の去年の売り上げは、約二千八百億円。前年比より三割増となっております。これのどこが赤字なのか……」
「わ、私が言いたかったのは、百貨店全体についてであり……」
「何故特急百貨店が出す金について説明するのに業界全体の傾向を述べる必要があるのか、客観的かつ論理的に説明を願います」
「そ、それは……」
「できますか? できないんですか?」
「……」
「黙っていたら分かりません。どうぞ、はっきりとお答えください」
「わ、分かった! 分かりましたよ! もう!」
「何がお分かりになったんですか?」
「お金を払います! こちらが全面的に間違っておりました! すみません!」
「結構!」
馬鹿め。従業員の貴様は知らぬだろうが、俺は弊社における特急百貨店の案件を抱えているのだ! 実際に現場で働く貴様らよりも内部の情報に詳しいぞ!?
「と、いうわけでピチウ。言い値で請求していいぞ?」
「……ピカお兄ちゃん」
「なんだ?」
見直したか?
行きたくもない契約の詰めで培われたテクニック、頼りになろう。
「がめつくなったねぇ……」
「交渉が上手いと言ってくれ!」
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