サキュバス、一肌脱ぎました17

「おませしまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ビール二丁にウーロンハイ氷少なめ一丁ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! お通しとおしぼりでございますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


「はい。ありがとさん。ついでに注文よろしく。出汁巻きと餃子とアボカドサラダと鶏肉の塩こうじ焼き。あと生ハムとチーズのセットね」


「うわぁピカ太さん。統一感がまるでない……なんですかその多国籍軍的なオーダーは。悪魔的暴挙ですよ」


「いいんだよ居酒屋なんだからこれくらい雑多に頼んでも。それより、お前は頼まないの?」


「あ、そうすでね。じゃ、私焼き鳥盛り合わせとチョリソーとカットステーキください」



 肉しか頼まねぇなこいつ。



「メーシャちゃんは? なにか食べる?」


「私梅キュウリと梅水晶と唐揚げください」


「はい。じゃあ以上で」


「かしこまりましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 唐揚げは六つのテイストからお選びいただけますが如何なさいますかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「え? どれ? どの味が選べるんですか? あ、メニューに書いてありますね。えっと……プレーン、ハニーレモン、ガーリック&ペッパー、スパイシーホット、あまダレ、ウマ梅……ウマ梅で!」


「かしこまぁぁぁぁぁぁぁいやぁしとぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! それではお持ちいたしますのでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 少々お待ちくださいませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」



 土羅さんも梅味しか頼まねぇな。

 まぁ好きにすればいいとは思うんだが、それにしたって色々メニューに書いてあるんだから色々試してみればいいのに。あれ? そういえば上長とか不破付さんとかと飲みに行った時も、セクション事に注文する種類を統一していた気がする。

 ……これ、ひょっとして俺がおかしいの? なにかしらのコンセプトをもってオーダーすべきなの? それじゃ俺の頼み方って。デリカシーの欠片もない田舎者特有な野蛮極まるオーダーだったって事なの? えぇ~~~~~しんど! しんどみが過ぎる! なにそれ! ちょ、え? ちょ冷静に考えさせてくれ。本当に? 本当に駄目なの俺の注文? だっていっぱいあるんだよメニューに? 目についたものとりあえず注文したくなる仕様じゃん? みんなそうならないの? それともワクワク感を押し殺してかっこよくスマートに注文してるだけなの? かっこよくスマートってお前ここ居酒屋やぞ! 大衆店にカッコもスマートあるかい! なんやねん腹立つ! なんで俺がこんな思いをせんといかんねん! いいじゃねーか好きなもの頼んだって! なに? 「私の流派は初手香の物からですが、そちらは?」とか披露して腹の読み合いしつつ戦い合ってんの? いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁカッコいいですねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! バッカじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? 普通に食べろ普通に! 



「ピカ太さんピカ太さん」


「あ? なんだ殺すぞボケェ」


「え? なん? え? どうして……? 私、乾杯の音頭を取ろうとしただけなのに」



 あ、そうだった。そういえば飲みにきてるんだった。いやぁ俺とした事が妄想の中で憤慨し世界中の人間に敵意を向けてしまっていたわ。失敗失敗。すまんなムー子。全然申し訳なくはないけど。しかし最近やはり攻撃的になっている気もする。疲れとかストレスとか、休日が潰れたりしている影響かもしれん。ちょっとセルフコントロールしないといけないな。今度有給取ろ。


 それはともかく、まずは飲み始めんとな。


「じゃ、気を取り直して、乾杯」


「え? そういうのって、取り直した人が言うもんじゃないんです? 私今めっちゃショックうけてて餌取られたモルモットみたいな感じになってるんですけど」


「そっか! よかったじゃん!」


「そっか!? よかった!? なんにもそっくしてないしよくないんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ本当にお前はそういうとこ~~~~~~~~! そういうところがある~~~~~~~~~~!」


「あ、土羅さんお疲れ。乾杯」


「あ、はい。乾杯……」


「無視~~~~~~~~~二人で乾杯~~~~~~~~~ハブ~~~~~~~~私だけハブ~~~~~~~~~~~! なんこれ!? これなん!? なんで!? どうして!? 被害者である私が一方的に傷つけられそれで終わり!? はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ日本終わってる~~~~~~~~~尊厳の尊重や社会権といった基本的人権意識が欠如している~~~~~~~~これはもう駄目ですね。私は海外に亡命します」


「おう。達者でな」


「こいつ~~~~~~~~! ほんっ……ま、ちょ……あ、なんか疲れてきた。疲れ果ててきた。はいはい。疲れすぎてやるせなくなってきた。えぇ~~~~~落ち込む~~~~~~~落ち込み度カンスト~~~~~~~~~はいはい私なんかどうせいらない子ですよ。死ねばいいんですね死ねば」


「よく分かってんじゃん! あ、飲まないならビール貰うな?」


「あげません! もう! 本当にピカ太さんは私の事をもうちょっと……」



 ガラガラ。



「お待たせしやしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! こちら梅キュウリと梅水晶とぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! サラダと生ハムチーズセットでございぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


「ありがとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! でもタイミング悪いよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


「失礼しやしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 慣れてくると面白いなこれ。お? 土羅さんも笑っているぞ。よかったよかった。

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