サキュバス、一肌脱ぎました15

 電車でガッタンゴットンUターンして着きました自宅近くの最寄り駅。これにて小旅行は終わり後は〆の酒宴だけ。酒が俺を待ってるぜ!




 ……しんどい。いや、しんどい。




 六十分の移動って結構ね。くるのよ。腰膝肩首。そして精神に。特に帰り。復路でガツーンと。

 もうやっばい。「あぁ! 遊んだ!」って楽しい気持ちが帰路っていく度にゲンナリ消沈してく苦行。せっかく楽しい休日が帰りの長時間移動でプラマイゼロになるとかお前それどんなゼロサムゲームだよと公共交通機関に突っ込まざるを得ない。昔はまぁ堪えられたけど加齢とともに本当に、本当にしんどく、朝ばっちり目覚めても外出を躊躇してしまうくらいには本当の本当に辛い。さらに最近ではコンビニへ行くのすら億劫な具合で、まず外着になるのが面倒くさく、帰宅後に部屋着に戻るのが面倒くさい。もう面倒事だらけ。人生面倒ばかりよ。ドラマとかで父親が休日に家でゴロゴロしている場面を見て「ははは駄目だなぁこいつ」なんて笑っていたが今では俺がドンピシャでそうなってしまったしばっちり心も分かってしまってなんだか目頭から熱いものが込み上げてきそうな勢い。世のお父さん方、お疲れ様です。家では肩身が狭くとも僕は貴方達の味方でいたい。

 ただしクソ実父おやじ! テメーは駄目だ! 地獄の底の更に底へ落ちて無限に続く苦しみを味わい久遠の絶叫を響かせるがいい! わーははははははは!



 ははははっと。いかんいかん。クソの事は忘れよう。まったく、血の繋がりがあるというだけでどうしてこうも不愉快な思いをせねばならんのだ。あーあどっかで死んでてくれねーかなーあいつ。




「ピカ太さん。お店は決まってるんですか?」



 そうだそうだ。今優先すべきはお疲れ会の会場だ。



「今から電話する」



 確か駅裏にいい感じの小料理屋があったな。あそこの小上がりを借りよう。予約できるといいが……



「あ、もしよかったら、私の一推しの店でもいいですか?」



 うん? 行きたいとこあんの? いや、まぁそれはいいけどムー子。お前……



「お前、グループで飲める場所知ってるの? 友達いないくせに」



 ボッチが飲める店ってカウンターしかないこだわりの店とかじゃないの? 違う?



「一言~~~~~~一言が余計~~~~~~どうして!? なんで!? いったいぜんたい如何なる理由があってピカ太さんは私のハートに言葉のナイフを突き立てるんですかぁ~~~~~~!?」


「いやぁ気になってつい」


「気になってつい~~~~~~~? なんたるデリカシーなし~~~~~~~何度も言うがお前は絶対にモテない~~~~~~~モテるわけがない~~~~~~~だいたい友達いないのはピカ太さんだって同じじゃないですか! この富岡義勇!」


「ははは! 確かに」


「ノーダメ! もう! ほんとにもう! 駄目! こいつはもう駄目過ぎる! メーシャちゃん! こんな男にだけは引っかかっちゃ駄目ですからね!」


 

 ……


 ふむ。恋愛を連想させるムー子の台詞であるが、果たして。土羅さんは先のように平常でいられるだろうか。これでなんともないのであれば……



「でも、輝さんって本当に裏表がなくって、面白い方だと思いますよ?」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? メーシャちゃん……駄目だよぉぉぉぉぉぉぉぉ駄目過ぎるよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ完全に引っかかるやつ! でも確かに裏表はない! ピカ太さんは表裏クズですよクズ!」

 

 

 ムー子は後で殺すとして、土羅さん、なんともなかった! これはやはり、彼女の心境になにかしらの変化があったのだろうか。でもこんな簡単に治るか? いや、現に善くなっているのだ。その点は深く考えずとも、結果のみで判断してもいいだろう。土羅さんは完治に向かっている。これに尽き申す。いやぁしかし……とはいっても……ニントモカントモ……



「どうしたんです? ピカ太さん」


「……あぁすまん。ちょっと忍者ハットリくんについて考えていた。それよりムー子。お前の一推しってのはどこにあるんだ?」


「すぐ近くですよ。ほら。こっちこっち」


 

 どっち? あぁあっちか。えーっと、駅ビル群方面? 確かにそっちは飲み屋街だが……なんか嫌な予感がするな。



「ピカ太さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! 早くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! こっちですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」



 ……しょうがない。ここは奴に任せるとするか。

 歩道を渡って雑居ビル。エレベーターに乗って四階を押下。到着。さて、どんな店だろうか……







「いらっしゃいませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」



 ラッシャアセェェェェェェェェェェェェェェェェェ!



 ……ちょ、え? 絶叫? なにこれ痛い。耳が痛い。物理的に



「三人ですけど大丈夫ですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「ウェーカムでございまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁす! はいご新規様三名いらっしゃいましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! D席ご案内おなしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっす!」


「かしかぁりゃしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ャァァァァァァァァァァァァァァァァァシャタァァァァァァァァァァァァァァァ!



 ……ムー子なんだここ。なんだここムー子。



「……ムー子」


「どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉしゃしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「……なんだここ」


「ここはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 全力全開居酒屋ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 一踏ん張りぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! 店員が常に絶叫しているぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! 気合いの入ったお店でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっす!」



 うるさ! 叫ぶな! 



「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっす! その通りでございまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっす!」 


「ちょ、うるさ……なんだあんた」


「失礼いたしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 自分んんんんんんんんんんんんんん! 本日接客を担当させていただきますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! 五仁余ごによと申しますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! どうぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉよろしくお願い致しますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」



 うるさい! なに!? なにこれ!? 嫌! 嫌だ俺この店! 苦手なタイプ! ここ完全に面倒くさい社訓とかある店! 帰りたい! いかん! 精神上よくないぞこれは! ムー子! 店変えよ!



「おいムー子……ちょっとここは……(ボソボソ)」



「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? ピカ太さんなんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」



「いや……だから……(ボソボソ)」



「お席ご案内いたしまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっす!」



 ゴアンアァァァァァァァァァァァァァァァァョォォォォォォォォォォォォォォシクゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!




 あぁくそ! 声が掻き消えて伝わらん! というかムー子お前叫ぶ必要ないだろこらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! あ、いかん。伝染うつった。というかお前こんな店、土羅さんだって……



「楽しいお店ですね! 輝さん!」


「え? あ、そ、そうかな?」


「はい! とっても!」



 楽しそうだわ。全然問題なくフスマイルだわ。

 ……まぁ、主役の土羅さんが楽しんでいるならいいか……仕方がない。付き合おう。

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