サキュバス、一肌脱ぎました10
その前に目の前のイージスをちゃちゃっと組んでしまおう。パーツを切り取りはめ込みはめ込み……うーん……つなぎ目が気になる。気になるが消している時間はない。今日は軽めの作業なれば、細かな点は無視。無視。無視……したいけどやはり目には留まる。ちょっとくらいヤスっても……いいや駄目だ! 一度ペーパーで磨き始めたら最後、どんどんどんどんと数字が大きくなっていき目が細かくなってしまってキリがない。断腸の思いだが、今日のところはぐっと堪え、綺麗に組み立てる事に専念しよう。パチパチパチと……
「あ、これ切っていいのかなぁ……まぁいいや! やっちゃえ! バーサーカー!」
「……」
「あっれー? これどっから付けんだー? 設計図が分かり難い~~いいや! 感じ感じ!」
「……」
「あれ? おっかしぃなぁこのパーツさっき使ったんだけどなぁ……誤植かな? しょうがないなぁまったくもぉ~~~」
「……」
「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇなにこれ硬いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃはまらないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃう~~~~~~~~~んえい! やぁ! とう!」
パチィ!!!
「はまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁやったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「……お前、まじいい加減にしとけよ?」
「え? なんですか急にピカ太さん。私、何か間違ってます?」
「間違いだらけ過ぎて逆に面白いわ。なんでちゃんと手順通りに作らないんだよ。ちゃんと設計図あんだろ。千年パズルじゃないんだぞ」
「いやぁなんか、書いてある内容が細かくって……ずっと見てると目がいーってなるんですよ」
「なんだよそれ。もう完全に歳寄りのそれじゃん」
「ちょっと! まだ若いですよ私は! 訂正! 訂正してください!」
「ちゃんと完成させたら認めてやるよ」
「だからぁぁぁぁぁぁぁぁぁ目がねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃってなるって言ってんでしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
うるさいな……店で怒鳴るな。
まぁ若いからといってプラモを上手く作れるわけでもないんだが。どっちかというと、性格の方が出るんだよなぁ。適当な奴は本当に気にしない。平気でバリ残すし。まぁムー子の事なんだけど。まったくこいつホント、マジで雑にやってやがる。何故ニッパーの根本使わないんだ。ちゃんとやれちゃんと。それに引き換え……
「皇帝さんいいですねぇ。素人とは思えないゲート処理です」
「ありがとうございます! 面白いかもしれませんこれ!」
土羅さんは器用だな。店長が仕込んでいるとはいえ、デザインナイフまで使って……やっぱり向き不向きって出るよなぁ。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇどうしよ……パーツがない……これ完全に詰んだ……」
……見ちゃおれん。
「偲びないんだわ。適当に作られるマスターガンダムが偲びなくてしょうがないんだわ」
「そんな事言ったってこうなっちゃったものは仕方ないじゃないですかぁ」
「ちょっと貸せそれ」
あまりやりたくなかったが、こうなったら直接介入し作り直しだ。俺の手でこいつを復活させてやる!
「いいですけど、既にハメちゃったパーツどうするんですか? かなり硬いですよそれ」
「案ずるな。こんな事もあろうかと、ちゃんと用意はしてある」
ガソゴソ。
はい! 出ました!
「なんですかその栓抜きのでき損ないみたいな薄い板」
「これはセパレートツールといって、一度組付けたパーツを引きはがす事ができる道具だ。まぁ、テコの原理使って無理やりこじ開けるだけなんだけど」
「へぇ。便利なものがありますね。でもそれ、いつも持ち歩いてるんですか?」
「これだけじゃないぞ? ニッパーにピンセット。ヤスリも常に携帯している。キットさえあればいつでもプラモが作れる状態で俺はいつも過ごしているよ」
「……ピカ太さん。そんなものより、もっと有用なものを持ち歩きましょうよ。香水とかコンパクトミラーとか」
「そんなものとはなんだ。香水や鏡でどうやってプラモ作るってんだ」
「もういいです……」
なんだ失礼な奴だな。だがまぁいい。今はムー子よりマスターガンダムだ。パーツ全部を分解して…のバリを取り……組み立て直すと……
「おら! できたぞ! HGマスターガンダム! ダークネスフィンガーのギミックがカッコいいぞ! しかしこう見るとやはりブラックオックス感が強いな! カッコいいからいいけど!」
「もうできたんですか? 早いですねピカ太さん」
「そりゃお前、何年プラモ作ってると思ってんだ。組むだけならこんなもんよ」
本当は色々手を加えたいところだが、先にも言った通り今回はお手軽モード。これからイージスも作らねばならないし、これで我慢してやろう。
「というわけで、ほい。大切にしろよ?」
「え?」
「あ? なんだよ」
「いや、くれるんですか? これ」
「そりゃお前、俺が買ったわけじゃないし」
「でも、作ったのはピカ太さんですよ?」
「最近は代行とかもあるし、別におかしなことじゃないぞ」
「……」
「……」
なんだ。気持ち悪いぞ。そんな目で見るな。
「私、初めてかもしれません」
「なにが?」
「あ、いえ、なんでもないです。大切にしますね! これ!」
「お前の金で買ったんだからそりゃ大切にした方がいいだろうよ」
「そういう意味じゃないんですが……ともかく、ありがとうございます!」
「……あぁ」
なんだ気持ち悪いぞ。お前がそんな態度だと、調子が狂うな……
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