サキュバス、一肌脱ぎました9

「はい、というわけで今回俺が組み立てるのはこちら。HG イージスガンダム。作中ではガンダムなんて言われてないけどプラモのパッケージにはしっかりガンダムと書いてあります。不思議ですね」



 次回予告でマリューラミアスが「飛べガンダム!」なんて言ってるがストライクもガンダムなんて呼称じゃないんだよな。



「なんですかピカ太さん。その黎明期のYouTubeみたいな口上は」


「いや、せっかく作るなら作品の紹介などもかねようかと……」


「なるほど。それはいい心がけですね。黎明期とは言いましたが、最近でも同じような感じで進行していく人もいますからどんどん使っちゃっていいと思います。完成されたフォーマットをあえて崩すのは余程計算されたプロットがないとリスクしかありませんからね」


「う、うん……」



 ……急に恥ずかしくなってきた。でもまぁやっちまったものは仕方がない。別にwebで配信されるわけでもなし。堂々としていよう。っと、あれ?



「土羅さんは?」



 姿が見えない。しまったな。プラモ探すので忘れていた。



「メーシャちゃんは今、店長とプラモ選んでますよ。お邪魔虫な私は退散というわけです」


「おいおい大丈夫かそれ? 仮にも男と二人きりだろう。いや、周りに客はいるが……」


「なんか普通に話してたんで問題ないと思いますよ? あの店長、大分奥手でしょうし」



 確かに下ネタは聞くが生々しい話になると急に黙るんだよな店長。中学生みたいだな。



「土羅さんは分かった。で、お前は何作るの?」


「気になります? 気になりますかピカ太さぁん!?」


「いや、別に」


「やっぱりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ? 気になっちゃいますよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ私が選んだプラモデルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅガンダムのプラモデルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ通称ガンプラはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? なんでしょおかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 

 なんでこいつ人に聞くくせに自分の想定したストーリー通りに会話を進めていくんだろう。



「私が選んだのはこれ! はい! HGFC マスターガンダム!」


「うっそお前、そんなのあったの? しまったぁ……ちゃんと見ればよかったぁ……」



 ダムベーですら売り切れる人気キットがあったとは……見落としていた……だが、なんでマスターガンダムなんだお前。



「プロヴィデンスじゃないんだな。好きなんだろ? クルーゼと関」


「実はそっちはもう持ってるんで。昔観ててカッコいいと思ったやつを選びました。でもピカ太さん。よく私がラウル・クルーゼというか、ラウルクルーゼの中の人が好きだって知ってましたね」


「まぁな……」


 

 別にゴス美から聞いたと教えてもよかったがなんか「陰でお前の話ししてたんだよ」とか言うのは嫌な感じがするので黙っておくことにする。それにしても俺もマスター欲しかったなぁ……



「お待たせしましたぁ! 黒マン皇帝! ただいま戻りましたぁ!」



 あ、帰ってきた。お帰り。でかい声でその名前叫ぶの止めような?



「え? 黒マン? え? ちょっと、なんですかそれれれれれ」



 ほら、店長がお前のV名聞いて凄い動揺してるじゃん。



「あ、すみません。私、黒マント皇帝っていう名前でVチューバーやってて、略して黒マン皇帝なんて呼ばれてるんですよ。もしよろしければ動画観てください」


「え、え、え、あ、あぁ、はい……み、観ます……」



 下ネタ大好きなくせになんでこういうのは駄目なんだろうな店長。不思議だ。



「メーシャちゃん、プラモ何選んだんだの? キュリオス?」


「いいえ。今回は店長が選んでくれたこれにしました!」



 へぇどれどれ……なんだGN-Xじゃないか。いや、確かにプロポーションかっこいいけど、地味じゃないか?


「組み立てやすく、またシンプル故にパチ組みしただけでも映えるヒロイックな機体を選ばせていただきました。ダブルオーも視聴していたようですし、ちょうどいいかと」



 なるほど。モデラーらしい理由だ。当の本人はGN-X覚えてなかったみたいだけど。



「アレルヤのガンダムは上手く作れるようになってからにしましょうって、店長と話したんです」


「好きなモビルスーツを作るのが一番ですが、好きだからこそ、時間を置きたいという気持ちもありますからね」


「そうか」




 なんかいい話に聞こえるな。ま、どうでもいいけど。それよりもさっさと作ってしまおう。時間がもったいない。



「じゃああとは各自で作成という事で。分かんない事あったら聞いてくれ。といっても、ガンプラなんざ説明書見れば誰でも組めるが」



 ガンプラは誰でも組める親切設計が売りだ。接着剤なしでも作れるなんて最高だよな。



「ピカ太さん。早速問題が発生しました」


「あ? なんだ?」


「パーツを落としてしまって見当たりません……」


「不器用にも程があるだろ……こういうのは箱をひっくり返してパーツを置いとくんだよ。というかお前、なんでいきなりランナーからパーツ全部切り取ってんだ」


「私、ステーキとか最初に一口大に切り分けるタイプなんですよね」


「……パーツ番号が振ってあるの、見えるか?」


「あ! こんなところに目印があったんですね!? こりゃ便利!」


「そんなんでよくプロヴィデンス作れたな……」


「え? 私、作ってないですよ?」


「え?」


「買っただけです。そのまま倉庫の肥やしになってます」


「……」



 作れや。

 そう言いたかったが、部屋に積んである幾つかものプラモを思い出したので何も言えない。くそ、今度の休日こそ絶対崩すぞ!

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