サキュバス、一肌脱ぎました8

 はい、まずドリンクを注文。プラモを作る時はコーヒーとかよりコーラが合う。なぜだか知らんがコーラがいいのだ。故にコーラを注文。モデルガンとか弄ってる時はステンレスマグカップでホットコーヒーを飲むと美味いんだよなぁ。理由は分からん。



「俺コーラね」


「私紅茶で」


「私もホットで紅茶をください」



 ムー子と土羅さんは紅茶か。いいけどここ、午後ティーだぞ? 茶葉から淹れた逸品とかじゃないから文句言うなよ? ま、午後ティー美味しいけどね。俺はレモンティーが好きだよ。



「はい。コーラに紅茶二つ。うち一つがホットね。じゃ、ブースAで。個室だけど、変な事しないでね輝さん」


「しないよ……」


「本当に? 本当に本当にしない? 神に誓って言える? 念書に判捺せる?」


「あらゆる宗教の神仏に誓っていかがわしい事はしないし実印でも血判でもなんでも捺してやるよ」


「またまた~~~そんな事言って~~~本当はするんでしょ~~~~? こっそり合体変形しちゃうんでしょ~~~~~? 店長知ってるよ?」


「やらねぇよ。これからもこの先もそんな予定はねぇよ」


「えぇ~~~~~~? 本当にでござるか~~~~~~~?」


「しつこいんだよ店長。なんであんた女の話題の時だけこんなに疑り深くなるんだよ」


 

 いつもは人当たりがよくホスタビリティ溢れる接客で気持ちのいい時間を提供してくれるというのになんだ今日は。何があったんだ。



「いやぁ? どうもこの歳で彼女いない歴=年齢になってくると、カップルとか見るだけでどんどん気分が沈むんですよねぇ。もうあらゆるシーズンで一人だって実感してしまう孤独感。例えばクリスマスにポケ戦流しながら営業している中ふと外を見ると、そこからしろにカップルが溢れているんですよ。幸せな聖夜を過ごす二人。かたや私はカサカサな手でザクⅡ改を組み立てるばかり。毎年毎年作って、昨年二十体の大台に突入しました。いつの間にかよわいは三十四。嘘だと言ってよバーニィ。そんな僕が両手に花状態の輝さんを見て思うところないはずがなく、裏切られたという気持ちがもんもんとせりあがってくるのです。分かってください輝さん。貴方の今の姿は私の夢。私の望み。私の業。いや、私ばかりではない。見れば誰もが思うはずです。貴方の様になりたいと、貴方の様でありたいと。男とはどこまでもどこまでも……救い難い生き物ですね!」



 知らんがな。唐突にクルーゼになるの止めろや。あとお前今年三十五やろ。なに地味に鯖読んどんねん。だいたい……



「分かります……分かりますその気持ち!」


「え?」



 ……土羅さん?



「私もカップルとか見てて羨ましいなぁって思っちゃうんです! 私にはアレルヤがいるんですが、ちょっと一緒にはいられないので、ずっと一人で、それで毎夜寝る時に溜息なんかついちゃったりして、寒くもないのに肩を抱いたりして、自分以外の体温が恋しくなったりして、苦しくなったりします!」


「そ、そうですか! そうですよね! 私も好きでガンプラ屋はじめたはいいんですが、中々理解のある彼女ちゃんがいなくて、これから先ずっと一人で、老後も寂しく震える指で老眼鏡をかけながら最新のキットを作成する未来を想像すると涙が出てきて……いやぁ。いい! お客さん、貴女素敵な人だ! よーし! プラモ奢っちゃお! 好きなもの選んでいいよ!」


「本当ですか!?」


「勿論さ! でもMGフルアーマーZZとかは駄目よ? HGUCとかにしてね?」


「よく分かりませんが分かりました! ありがとうございます!」



「……いいのか、これ」


「いいんじゃないですか? メーシャちゃんも過呼吸にならず会話できる男の友達ができたみたいだし」


「とはいっても店長、めっちゃ下心ありそうなんだが」


「そこはまぁ、彼のモラルと理性を信じましょう」


「不安だな……一応人の道を踏み外すような真似はしないとは思うが……まぁ、連絡先交換したりもしてないし、大丈夫か」


「ピカ太さんって、割と人の事気にしますよね」


「あ?」


「いやぁ、普通なら関係ないって突っぱねるような事でも、結構面倒見てたりしてるなぁって」


「そらお前、人としての義務というか、良心というか……」


「そんなもの持ってるなら私にも優しくしてくださいよ!」


「お前がいらない事ばかりやるから悪いんだろうが!」


 

 だいたいお前悪魔の類だろ! そんな奴に優しくする人間なんてどこにいるんだ! 



「お、なんですか輝さん。痴話喧嘩ですか? 羨ましいですなぁあっはっは。でも何故かそんなに腹は立たなくなっています。これが女性と話せるようになった男の余裕というやつですかね?」



 ちょっと会話したくらいでなんで彼女ができた中学生男子みたいな万能感に満ち溢れてるんだお前は。めんどくせぇなぁ。ちゃっちゃと席に行こう。



「もういいから、早くコーラと紅茶くれよ店長」


「はいはい……はい、コーラと紅茶。あと、どうぞ、ホットティーです。お熱くなっておりますのでお気をつけて。それとこれ、チョコボール。よろしければお茶請けにどうぞ」


「わぁありがとうございます!」


 

 露骨な過剰サービスぅ! 完全に浮足立ってるぅ! 個人の勝手だけど何かムカつく!



「ちなみにお客さんはガンダム知ってますか?」


「はい! ダブルオーなら!」


「ダブルオーですか! GN-Xかっこいいですよね!」


「じん……くす?」


「え?」



 なにやら噛み合わない会話が行われている。土羅さん、本当にアレルヤ以外興味ないんだな……なんか疲れてきた。さっさとプラモを選ぼう。といっても、組み立てるものはもう決まっているんだが。

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