サキュバス、一肌脱ぎました7

「そういえば課長も対面時M開脚だったけどなんか作法とかあんのか?」


「ないですよそんなもの。多分、課長もAIの指示通りに対応したんだと思います」


「AI?」


「はい、うちの会社、ターゲットへ接近する前にAIが傾向と趣向を解析して適切な攻略パターンをはじき出すんです」


「……なんでそれで俺の攻略法がM字開脚になるんだ」


「好きじゃないんですか? グラビア界の黒船とか」


「好きじゃねーよ! むしろ嫌悪すら覚えるわ!」


「おかしいですねぇ。あれ、結構有能なはずなのに……」


「データの入力ミスとかじゃないのか?」


「それはないですよ。だって、課長も同じ事やったんですよ?」


「言われてみればそうか……じゃあ単純な不具合とか」


「それも考え難いですねー複数のAIで同時演算してるはずなんで」


 MAGIみたいなシステムだな。進んでるなぁサキュバスの会社は。なんでそんな技術あるのにやる事が男の物色なんだよ、もったいないな。

 しかしそうなると途端に気になる俺の趣向。店の前で立ち話するのもあれだが(土羅さんも先に行っちゃったし)、これを解かん事には気になってしょうがない。プラモ作りどころではないぞ。



「そのAIのロジックってどうなってんの?」


「さぁ……あぁでも、観てるテレビとか集めてるものとか、あと直近一週間で一番親しんでいたコンテンツとかを参考にしたりするみたいです」


「ふぅん……」



 ますます謎が深まる。テレビはアニメくらいしか観ないし、webも情報収集するか漫画読むかだし。集めているものといったらプラモか模型くらいだ。直近一ヵ月の親しんだコンテンツも同じ。確かあの時はイージスをくみ上げて稼働領域に感嘆していたくらいしかしていない。SEED系はあまり手を出さなかったけど、最近作り始めて良さが分かったんだよなぁ……あれはいい物だよ、うん。うん? イージス?



「なるほど」


「え? どうかしたんですか?」


「謎は全て解けた」


「謎? 何の話ですか?」


「俺がM字開脚好きだとの誤解を受けた謎だ。その答えを、このガンプラカフェで証明してやる」


「あ、はい……じゃ、入りましょうか。メーシャちゃん先に行っちゃいましたし」


「……なんだその、"興味ねぇな"みたいな反応は」


「だって、正直どうでもいいといいますか、別にピカ太さんがM字開脚が好きだろうが嫌いだろうが、それは個人の趣向であって私の立ち入る領域じゃないなって」


「そういうところドライだよなお前」



 正論だが釈然としないな。 なんか暖簾に腕押しというか肩透かしというか……あれ? なんで俺ムー子に期待なんかしちゃってるの? 俺はこいつの事嫌い……とまではいかないが、まぁ面倒くさい奴だって思ってるじゃん。駄目駄目。駄目だ。絆されかけてる。こいつの毒気に侵されかけている。いかん。このままではいかん。やはり今一度一人暮らしをすべきだなと改めて再認識。絶対物件探そ。





「あのぉ……ムー子さん、輝さん。入らないんですか?」



 そうだった。土羅さんを一人先行させていたんだった。すまんすまん。



「あ、ごめんねメーシャちゃん! すぐ行くすぐ行く!」


「すみません。お願いします。私、テンション高いまま入店して、お店の人に”お一人ですか?”って声かけられて、えって思って後ろ振り返ったら二人ともいなくて、店主の人も男の人で、また過呼吸になっちゃって、息も絶え絶えで説明しようとしても声が上手くでなくて、なんだかわけの分からないままお店を出てちょっとそこのベンチで休憩して、ようやく今、ここにいるわけなんですが、これってあれですか? もしかして私、避けられてますか? 実際に会ってみたらなんか違ったから空気が変になっちゃうっていうオフ会あるあるですか? すみません……私、駄目な人間でごめんなさい……玉川上水で入水します……うっぐえっぐ……ヴェェ……」



 太宰かお前は。



「メーシャちゃん!? 大丈夫だから! 大丈夫だからね! 全然変な空気じゃないから! ただちょっとピカ太さんがM字開脚についてわけの分からない事言い始めてどうしようかってなってただけだから! ね!?」


「M字……M字開脚……? そんな……輝さんは性に興味がないはずじゃ……あ、もしかしてあれですか? 安心させておいて後ろから刺す感じのあれですか? 薄い本によくある、"ごめんね~~でも、こんなところにノコノコ来る方が悪いんだよwwwいやぁ馬鹿で助かったわwwww"みたいな感じになって、最終的にイケナイおクスリでアヘ顔ダブルピースになっちゃう展開ですかぁ!? ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇどうしましょうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ私ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃとんでもないところに来てしまいましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「大丈夫大丈夫メーシャちゃん! 怖いのは最初だけだから! あとはもう快楽の海に溺れて何も考えられなくなるから! すぐ慣れるから! ね!?」


「やっぱりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃこのままだと私快楽オチでENDしちゃうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ実家にビデオレターが届けられちゃうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」


「お父さんとお母さんに大きくなったお腹見てもらおうね?」


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ赤ちゃん生みたくないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」




 往来でなに口走ってんだこいつら。というか半笑いじゃねーか。絶対面白がってるだろ。



「あの、お客さん。お店の前でそういうプレイはちょっと……」


「あ、すみませんすぐやめさせますんで……っと、店長じゃないか。元気」


「ピカ太さん。なんですか女連れですか? 最近ご無沙汰だと思ったら、やる事やってんじゃないですか。女なんか興味ないなんて言ってたくせに。この裏切り者!」


「こいつらはただのアホだから気にしないでくれ。ところで三人入れる」


「大丈夫ですよ。百二十分パックでいいですか?」


「あぁ、それで」


 ようやく入店だ。長かったなここまで。



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