サキュバス、白球を追いました21

 ピンチとチャンスは紙一重というが、できる事ならピンチを迎えずチャンスにありつきたいものである。

 プランの第二打席。策は授けたがやはり不安だ。都仁須君がアウトにさえならなければもっと簡単に得点のチャンスが巡ってきたかもしれないというのに、おのれムー子。だが、そうなってしまったからには何をいっても無益。勝負できる手があるだけ救いだと思う事にしよう。



「あれーーーー? 代打出さないんですねぇーーーー!? ずぶの素人なんて簡単にアウトとれちゃいますけどいいんですかぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」




 ……ムー子め。プランの性格を知っているのかプレッシャーをかけてきやがる。相変わらず卑怯なやつ。ここは一喝して、その後にプランのフォローを……




「ちょっとお姉さんうるさいよ!? いい加減にして!」



 マリ……




「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃwwwwwwww怖い怖いwwwwww」



「プラン。ちゃーーーーん! 大丈夫だからねーーーー!」



「マリさん……」



「みんなプランちゃんの事仲間だと思ってるからぁぁぁぁぁぁぁ! チームだからねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」



「……うん! ありがとうございます! マリさん!」



 Good! プランめ、ええ顔しよる。この打席、あいつに精神的動揺によるミスはないと思っていいだろう。完璧だ。よし、ここで決めてやるぞムー子!(俺は戦線離脱してるけど)



 とはいえ。



 ットラーイ!



 一球目は見送り。ムー子はともかく、白君は油断できん。この作戦、捕手に警戒されたままでは途端に成功率が下がってしまうからな。まずは油断をさせないと。しかし、ただ突っ立ってるだけじゃ怪しまれそうなんだよなぁ……どうしたもんか……ん? なんだプランこっちを見て。もしかしてまだ不安がある? うーーんどうしよう……なにかハートに響くような言葉でもかけられればいいんだが……駄目だ。ラッパーでもない俺には何も思いつかない。ヒプノシスマイクを履修しておけばよかった……おっと、そんな事しているうちにピッチャー投球モーション。プランもマウンドを向いている。すまんな。俺はお前に何も……




 カキーン!



 え!? う、打った!? 嘘だろ!?



 ファール!



 よかった……マジでアウトにならなくてよかった……はっ!


「へ、へーーーい! プランいいよーーーー! ナイスバッティンナイスバッティン! ほら、皆も声かけて」


「そうですね! プランさぁぁぁぁぁぁぁぁん! ナイスファイトォォォォォォォォ!」


「打ちにいこーーーーー! 打ってこ打ってこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」



 よし! これで相手に打ち気があると思わせられただろう! ナイスフェイント! プランめ、これを狙ってのスイングだったのか? ともするとさっきこちらを向いていたのは振るのを伝えるためか。なるほどすまん。何一つ分からなかった。




「へいへいへーい! まぐれで一球当てたからって騒ぎ過ぎでしょーーーーー! うるさいーーーー! うるさみの極みーーーーー! 次の一球で黙らせてやっからなーーーーー! 覚悟せぇよお前らーーーーーーー!」



 一番うるさいのはお前だ。

 しかし、ツーストライクでボールはなし。確かにプランの第一打席を考えればここでストライクを放ってもおかしくない。如何にツーアウトといえど満塁。さっさと切り上げて確実なる安心を買いたいところだろう。だが……



 ボール!



 やはりな。ここは多分外してくると思った。よく見たぞプラン。だが心臓に悪い! こんな緊張感は納期当日に存在を思い出した資料を作成して以来だ。いやぁあれよく間に合わせたよなぁ俺。結局差し戻し喰らって三日後再送付になったけど。上長めっちゃ怒られてたから申し訳なかったなぁ……まぁそれもいい思い出。仕事のミスは酒の肴だ。そんな事より今は勝負の行方。ツーストライクワンボール。カウント的にも状況的にも、恐らく次は入れてくるだろう。動くなら今しかない。




 サインサイン




「……!」


「……っ」


「……」




 ランナー確認。これでよし。頼むぞプラン。



「さぁ! いきますよプランちゃん! この試合、私達が勝ったらお父様に是非とも執成しをお願いします! 給料アップで私はプチプラを卒業したい! よろしくハイブランドの化粧品達! 私の肌は君たちをまっているぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!」



 投げた! 勢いのわりに球速は遅い! やはりあの変化球か!? しかし返って好都合よ! 何故ならば!


「……!」




 コン。




「ゲェ! スクイズ! ランナー走ってるじゃん! というかプランちゃん足早!」



 その通りだムー子! プランの走力は超一級! 動体視力と身体能力の高さも守備の際に確認済みよ! 技術もクソもないただ当てるだけのバントとなったがそれで充分! 初手でのセーフティはまず間違いなく成功すると踏んでいたのさ! ただまぁ満塁だから送球先は本塁になるだろうけど!




「サード! 処理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」




 ダダダダダダダダ! パシ! シュン!




 あ、上手い! あのサード、流れるように捌いて投げたぞ!? 判断も対応も的確過ぎる! 間に合うかこれ!?





 ズサァァァァァァッァ!

 

 バシィ!




 ほぼ同時! くそぉ際どい!




「どっちだ! アウト! セーフ!?」


「審判! 早く!」




 ……セーフ! セーフセーフ!




「セーフだ!」


「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「プランちゃんナイスプレイ!」




 よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉし! セーフ! これで得点! 勝ちが見えたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!





「そんな馬鹿な!? ちょっと! ちゃんと見てよ! ギリアウトでしょこれ! ビデオ判定! ビデオ判定を要求します!」



 うわ、ムー子が審判に食って掛かってる……



「聞いてんの!? ビデオ判定! ビ・デ・オ・は・ん・て・い! 分かる!? ドゥゥゥゥゥユゥゥゥゥゥゥゥゥアンダァァァァァァァァァァスタァァァァァァァァァァン!?」


 セーフ!



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? チャレンジ制度をご存じないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!? こっちは勝負かかっとんのやぞ!? えぇのかそんないい加減な事でボケコラカスゥゥゥゥゥゥ!」


 

 タイジョー!




「は!? た、退場!? 退場だって!? 私が!? 退場!? ふざけてんのかゴラァ!?」


「おいうっさいぞおばさん! さっさと引っ込め!」


「あとは攻撃だけだから引っ込んでいいよ。帰ってよし! さよなら!」


「だとてめぇら! ざっけんなよ!? 誰のおかげでここまでこれたと思てんねん!」


「黙れ下衆!」


「!?」


「勝負はお互いを尊重し合って始めて成立するんじゃ! お前みたいな劣悪野郎はお呼びじゃない! 即刻グラウンドから出ていけ! それとも自分の足では出ていけないか!?」



 スゲー事言うなあの子供。ロイエンタールか? 



「く、クソガキめ! 覚えてろよ!」



 ……大人しく引き下がったな。哀れムー子。そのままいっそ人間の世界からも退場してくれ。


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