サキュバス、白球を追いました18

 ットラーイ!


 ……


 ットラーイトゥ!


 ……


 ットラーイスリー! バッアーウ!



「ドンマイドンマイキング君!」


「ナイスチャレンジキング君! 切り替えてこ!」



 駄目だったかキング君。だが、その屍は俺が拾ってやる。っと、その前に。



「なぁ、誰か都仁須オラン君と連絡取れない?」


「放送席ならそこの電話で二番を推せば繋がりますよ。ちなみに一番が職員室。三番がブルペンです」


「あ、そう。ありがとう」



 ガチャリ。ポチ。ジリリリリリリン。ジリリリリリリリン。



「はいこちら放送席」


「もしもし? 都仁須君? 俺俺。輝だけど」


「グレートですか? なんですか急に。今放送中ですよ?」


「すまんすまん。あの、次、俺の打席なんだよね」


「はい。存じています」


「で、申し訳ないんだけど、入場曲でトルコ行進曲流してほしいんだ。ついでにオーロラビジョンにあの目玉みたいなやつを映してほしくって」


「え? うーん……」


「なんだ? 駄目か?」


「一応、スピーカーとビジョンを使用する際は先生の許可が必要なんですが……分かりました。他ならぬグレートの頼みです。お引き受けしましょう」


「そうか。すまんな。校長には俺からも言っておくから、よろしく」



 ガチャリ。



 さ、これで準備は整った。後は打つのみ。ムー子め。偽りの信奉もこれで最後。全員の誘惑を解き、四面楚歌となった状態で惨めに敗れるがいい。



 デレデレデン。デレデレデン。デレデレデレデレデレデン。デデデレデレデレデレデレデレデン。


 

 お、もう流れたぞ。仕事が早いな都仁須君。しかし意外と音がいいな、オーロラビジョンの画質も綺麗。いい設備だなぁまったく。お、あっちのチームが気付いてざわつき始めた。よし、これで……



「あ、なんだあれ? 目玉?」


「見た事あるあれ。確かどっかのお土産だったような……ん? なんか、清められていくような……」


「え!? ちょっと待って! やめやめ! 皆見ちゃ駄目! それは本当にやばい!」



 ムー子め。慌てているな? だがもう遅い。あのお守りを一目見れば皆、貴様の魔の手から解放されるのだ! 



「なんだろうこの感じ……何か、頭の中が整理されていくような……」


「思い出しました」


「……そうだ。あいつの、あの女に何かされて俺達は……!」



 おぉ、正気に戻っていくぞ! そしてやはり、何やら洗脳めいた事をしていたようだな!



「おい! お前俺達に何したんだ! 練習中、急に現れたと思ったら妙な真似しやがって!」


「なんで俺達がお前を出場させなきゃいけないんだよ! ふざけんなよ!」


「通報すっぞおらー!」


「やめて! そんな言葉で責めないで! 私はただ試合に! 野球の試合に出たかっただけなの!」


「だったら小学生のチームじゃなくて社会人の草野球いけや!」


「だって大人のチームじゃな無双できないじゃない! 私はね! 気持ちよく一番でいられる環境が好きなの! そうじゃなきゃヤダもん! やりたくないんだもん!」


「この女しれっとカスい事言いやがって!」


「だいたいなにが"もん"だ! いい歳して恥ずかしくないのか!」



 思っていたよりもエグイ嫌われ方してるな。なにやったんだあいつ。もしかしたら降板もあるかもしれん。だがまぁ、それならそれでOK。あのスライダーならいざ知らず、小学生の投げる球など今の俺なら……うん? なんだ? 急に手が痛く……あ、いってぇ……守備の時ボール当たった場所がなんかめっちゃ痛てぇ……なんだこれ。



「ああああああああ! 私の! 私のパワーが消えていく……魅了してドレインしていたパワーが……!」



 ……なるほどそういう事か。ムー子が通常状態になったから、契約している俺のバフ効果も消えたと。



「ムキー! もういい! こんな試合やってられるか! チームがアホやから野球ができへん! 私は帰る! それじゃ!」


「おい! なにやってんだよ! まだ試合続いてんだぞ!」


「誰も肩できあがってねーんだよ! せめてこの回は投げろ!」


「そうだそうだ! 責任を取れ責任を!」


「はー!? せきにん!? なんですかそれぇ!? 忍者の一種ですかぁ~~? 知らない言葉ですねぇぇぇぇぇぇぇ! 生憎と私には関係ないのでございますはい! 後はお前ら好きにやってろ! 私は帰る!」


「このクソヤロウ! 本当に大人かお前!」


「子供の前でみっともない姿晒してんじゃねぇーぞ!」


「知らいなでぇぇぇぇぇぇぇす! 私だって大人になりたくてなったわけじゃありませぇぇぇぇぇぇぇぇん!」


「くそう! ここまで駄目だと逆哀れになってきた! お前将来とか大丈夫か!?」


「ちゃんと生きていけるのか!? いざとなったら生活保護受けろよ!?」


 

 子供に哀れまれてる……なんだかこっちまで悲しくなってきたな。

 


「……タイム!」


 ターイム!



 ? なんだ? タイムなんか取ってどうしたマリ。うん? マウンドへ行って……?



「お姉さん」


「あ? なんですかマリちゃん? 説得しようとしても無駄ですよ? 私は雲! 私は私の意志で動……」


「……ちゃんとしよ?」


「……はい」


「じゃ、続きやろうね? すみませ~~ん。タイム大丈夫で~~~す」



 ……マリの奴、なんか凄みみたいなのが出るようになったな。ひょっとしてあいつは大物の器かもしれん。是非とも日本を背負って立ってほしいものだ。


 などとしみじみしている場合じゃない。試合再開。打者は俺だ。しゃあない。バットを持って……意外と重いな。これ振るの? 大丈夫? 遠心力で腕折れない?


「お兄ちゃん。頑張ってね?」


「……任せておけ!」



 つい見栄を張ってしまった。畜生、やめときゃいいのに俺はまた。あぁ打席に入っちまったよ。くそ、身体が死んでる。酔いも復活してきてフワフワする。おまけにこの直射日光。下手すると熱中症で死ぬぞ。大丈夫か俺。


「グレート! グレート! 頑張ってくださいグレート!」


「ピカ太様! どうぞ頑張ってくださいまし!」


「打てるよお兄ちゃん! 応援してるよぉぉぉぉぉぉ!! 一等賞だよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」



 ……そうだな。ここで撃たなきゃ男じゃねぇなぁ。


 花は桜木男は岩鬼! 打ってみせようこのチャンス! グワァラゴワガキィーンだ! 





 せめてフライになるといいな……

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