サキュバス、白球を追いました17
振りかぶって……投げた! コースは内角高めだが、この軌道は……
カキーン!
フェア!
一塁線にライナー! ベースを踏んでセーフ! ナイス都仁須君! 欲をいえば長打がほしかったところだが多くは望むまい。なにせあのスライダーを打ったというのは大きな実績。士気も上がる事だろう。そして次は一番三田君。さぁいけ三田君! お前の快速見せてやれ! そして! 第一球は……
パー。
見送り。
ットラーイ!
二球目。
パー。
ボール!
「……?」
「うん? どうしたプラン。何かあったか?」
「いえ、ちょっと……」
なんだ? 何かあったのか? 不穏だなぁ……
パー。
次も見送り。まぁカウント的になくはないが……
ボール!
よし! ボール先行! なんならこのまま四球で歩かせてくれ!
「ピカ太様。タイムを」
「え? あ、うん。分かった。タイム! タイムよろしく!」
ターイム!
「取ったぞタイム。で、何があったんだ?」
お、三田君が戻ってきた。さわやかだねどうも。
しかしいったい何があったのだろうか。いや、なんとなく察しはついてる。プランから伝えられるのは、恐らくであるが、十中八九……
「皆様すみません。配球が変わりました」
……やっぱり。
「相手側のキャッチャーの方、恐らく、都仁須様の打席でこちらがコースを読んでいる事に勘付いたのでしょう。完全にパターンが変わっています。こうなってはもう私の予測もあてになりません」
得点の芽が出てきたところでこれか。精神的にくるものがあるな。如何にノーアウト一塁とはいえ、攻略の糸口が立ち消えたとあってはまたも五里霧中。選手のプレッシャーを考えると気が重い。これは推測だが、きっとこうなる事を予期してあえて一定パターンの配球をしてきたのだろう。やるな白君。
「申し訳ございません……私……肝心のところでお役に立てず……」
あ、泣いてしまった。そんなに責任感じなくてもいいのに……というかどうしよう。これじゃますます雰囲気が……
「大丈夫大丈夫! プランさんのおかけで出塁できたんだからスゲー功績だよ! なぁみんな!」
「そうだよ! 今のこのチャンスは君がいたからこそできたものなんだよ! 誇ろう!」
「感謝! 圧倒的感謝!」
「皆様……」
「プランちゃん。このチームは、仲間だよ!」
「マリさん……!」
……なんと美しい。お互いを讃え合い、尊重し合うチームの輪。素晴らしいではないか! いやぁいいよね友情って。俺はこんな経験ないから分からないけどきっと皆心がほっこりとしているはずだ。羨ましいなぁ。俺も友達ほしかったなぁ。学生の頃なんて机に突っ伏してたか本読んでたかだからなぁ。まぁ運動なんて微塵もする気も起きなかったけど。だいたい身体を酷使して何が楽しいのやら。やるなら関節技が……ん? なんだ? なんか相手ベンチが騒がしいな。
「島ムー子が命じる! この試合、絶対に勝て!」
「イエス! ユアオーナー!」
……サブスクでギアス観たなあいつ。まったく、小学生を取り込んで自身を崇めさせるとは、プライドがないのか。そもそも強制力を用いた人心掌握など下衆の一言。割と最悪な部類の所業だぞ。劇中で似たような事やってるからあんまり好きになれないんだよなルルーシュ。どちらかというとスザクの方に感情移入してしまう。どっちも覚悟決まり切ってない感じするから観ていて歯がゆいところもあるんだけど、心の内にある矛盾と甘さを考えるとまぁ納得できなくはない。そのコードギアスの特別再放送が十月一日から放送されるから皆観ような!
試合再開。
バッターは依然三田君。もはやサインもなし。ここは彼のセンスに賭けるしかないが、どうなる。さぁ、投げるぞ……投げた!
カキーン!
打った! 右中間に落ちた! ヒット! ヒットだ! 完全に捉えてやがったあいつ! 凄いな!
「これでノーアウト一、二塁だよお兄ちゃん!」
「そうだな。よくやってくれたよ三田君は。これで二番の子がいい感じにライト方向に打ってくれればアウトでも三塁、下手すればホームに届く。是非とも頑張ってもらいたいが……」
さて、その二番の子、名前すら聞いていなかったが大丈夫だろうか。第一打席は三振だったが……
「キング君! 頑張れ! 君ならできる! 大丈夫だ! 自信を持て!」
「そうだぞキング君! さぁ行ってこい! 誇りを胸に!」
「う、うん……やってみるね……」
……駄目っぽいなありゃ。そもそもキングってなんだ? あだ名か? それにしちゃ随分そぐわないというか、名前負け感があるんだが……
「キング君はね。牛丼屋さんでキングサイズを食べきったからキングって呼ばれてるんだよ?」
「へぇ。野球はどうなの?」
「普通」
「普通?」
「うん。普通」
「……もっとこう、あるやろ」
「だって普通なんだもん。上手いんだけど、いまひとつ特徴がないんだよね。打率は二割八分くらい。足はまぁまぁ早いけど盗塁数は少なめ。安打を意識しているから長打率は低いけどたまにスタンドへ放り込む時があるよ」
「ひっともうつけどほーむらんもうつよ」
「なにそれ?」
「ほるひすだよ」
「お兄ちゃん、たまに皆知ってる前提で話をするけど、そういうのは止めた方がいいと思うな」
「すまん……」
こんなところで駄目出しされてしまった。しかと胸に刻み、ほるひす……じゃなかったキング君の打席を見守ろう。
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