サキュバス、白球を追いました16

 ツイーツイー。ポチ! よし! 予約完了! これで届くぞキングジョー! さ、次は野球だ! ベンチで打倒ムー子の策を伝えるぞ!



「というわけで、この試合、打者はプランの指示に従ってもらう。サインはグーチョキパーの組み合わせ。詳細はプランから」


「はい最初は打つか打たないか。グーならヒッティング。パーなら待ち。次、グーなら内角、チョキなら真ん中、パーなら外角。最後に高さ。グーは高め、チョキは真ん中、パーは低めという風に分けたいと思います」



 なるほど。シンプルで分かりやすい。短期戦ならこれで十分だろう。しかし、問題はある。



「……」


「……」



 やはりな。そう易々と「ナイスアイディア!」と賛同はされんか。プランは今日は初めてチームに入ったばかりの新顔。それに野球未経験でバットも満足に触れない有様。そんな人間の提言など聞けるわけが……



「……面白いじゃん! やってみよ!」


「どの道他に手はないんだ! やってみる価値はありますぜ!」


「よぉし! 点を取るぞ!」



 そんな事なかったわ。みんなすごいやる気になってるわ。

 なんだこいつら凄いな。偏見とか差別とかもなく、ひとまずやってみようっていう精神がある。これがこの学校で培われてきた人間力だろうか。いい時代になったもんだな。



「よし! じゃあ早速僕の打席から試してみよう!」


「おう! 頼んだよ都仁須君!」


「都仁須君? このチーム、都仁須君二人いるの?」


「そうだよお兄ちゃん。実況してるオラン君がお兄ちゃん。で、今から打席に入る方が弟のメラン君」


「へぇ。でも顔似てないな」


「二卵性双生児だからね。でも、二人とも凄く野球が上手いんだ。オラン君はちょっと変わっててあんまりプレイヤーとしては参加しないんだけど」


「ふぅん」


「メラン君は前シーズン打率五割で最優秀選手に選ばれたんだって」


「凄いなメラン君。二回に一回は打てるのか」



 ダブルチャンス打線後半の主時期、いわば三番バッター任されているわけだからそりゃ優良な選手か。こいつが出塁れば、次は一番三田君。実際のバッティングは見ていないから何とも言えんが、一番を任されているのと、盗塁時に見せたあの身体能力を考えれば、安打となる可能性も十分にある。問題はプランのデータがどこまで有効かだが、そこはもう、祈るしかないな。



 プレイ!



 さぁ始まった三回表の攻撃。初球のサインは……


 パー。



 ットラーイ!


 一球目は見送り。まぁ当然か。さて、次は……



 パー。



 ットラーイトゥ!


 

 二球目も見送り。おいおい大丈夫か? ツーストライクだぞ? 追い込まれてんぞ? コース分かってても打てるかどうか分からないんだから、無理にでも振った方が……いや、ここはプランと皆を信じよう。野球はチームのスポーツ。ここは見守る。一旦見守りの姿勢を取る。それが大人としての、チームの一員としての役割! さぁ三球目だ。ここは当然……


 パー


「なんでやねん」


「? どうかなされましたかピカ太様」


「いや、三球目連続待ちはちょっと……追い込まれてるし、ここはアウト覚悟で打ちにいった方がいいんじゃないのか?」


「外角外れてボール」


「なに?」


「次の配球でございます。ストライクゾーンすれすれのところをスライダーで外して三振を狙ってきます。よしんば当たってもバットの先でゴロ。アウト確約の基本的な戦術です」


「しかし……」


「ピカ太様。私を信じてください」


「……」



プラン、いい眼をしよる……



「……分かった」



 そこまで言うなら、もはや承知するしかあるまい。はてさて、どう出るか……




 ボール!




「ね?」


「……素晴らしいな!



 外角高めのボール球。予測通りのコース。的中率八割は伊達じゃないな! よろしい! ではもはや疑うのは止めだ! ここはどっしりと構えて心中する気持ちで……



 パー。



「ちょいちょいちょい! また!? また見送るの!?」


「大丈夫です大丈夫です。次も外してきますので。あ、でもあまりに打つ気がなくて不振に思われるかもしれないので、ちょっと応援ヤジでも飛ばしていただけるといいかもしれません」



 ……本当にいいのか? さすがに四球連続見送りはちょっと怖いぞ? いや、いやいや。信じるって決めたじゃないか。何を今更迷っているのだ。よし。信じる。信じるぞ! そしてヤジろう!



「メラン君! 打ちにいこう打ちに!(打つなよ!? 絶対に打つなよ!)」


「……」


「ほら! アウト覚悟で振りにいって! 当たって砕けろ! 玉砕覚悟でいこう!(打者一人も無駄にしたくないからマジで振るなよ?)」


「……」


「さぁくるよ! ボールくるよ! はいきた! 打てる球だよ!(分かってるよな!? 見逃せよここは!? プランを信じてサインに従えよ!? いいか!? 絶対だぞ!?)」



 ボール!



「ナイス選球眼! だけど振っていこう! 手に持ったバット振っていこう! そうしないと始まらないから! 野球ってそういうものだから! ね!? 次はお願いね! (よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉしよく見た! ナイス判断! 俺はお前を信じていたぞ都仁須君!)」



「こんな感じでいいか?」


「十分でございます。ありがとうございます。さて、ではそろそろ……」



 グー。パー。グー。



 ヒッティング指示!……コースは真ん中高め。よし、打てよ都仁須君!

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