サキュバス、白球を追いました15

 ワンナウトワンナウト! キリカエテコー!


 確かにワンナウト。しかしマリが本気になったという事は即ち……



 カキーン!


 ズバババババババババ! バシィ!


 アーウ!



「スゲー! 今度は右中間まで捕りに行ったぜ!?」


「打球と同じスピードで走ってたぞ! さすがベーブだ!」



 ……そう、グラウンドすべてが守備範囲となったわけである。つまりは全球自動アウト。これでホームラン以外失点する事はないと思っていいだろう。しかし、なんというか、勝負というからには勝ってこそ意味のあるものだが、負けのない戦いというのも退屈なもんだな。まぁ、だからこそマリも今まで手加減してたんだろう。今回は相手が姑息で汚い真似をしてきたんだ。それを考えれば、致し方ない。

 



 カキーン!



 シュン! バッ!


 アーウ! チェン!



 おっと、もう守備が終わってしまった。結局失態しか見せる事ができなかったがまぁこんなもんだろう。本番はここからだ。よし、さっそくベンチに行って作戦を……




「ちょっとちょっとピカ太さん。少し話をしませんか?」


「あ?」



 なんだムー子そのニヤケ面は。



「なぁに、悪い話じゃないんです。ほんのちょっとね、取引をしたいなぁって」


「取引?」


「はぁい。そうです」



 絶対にろくでもない話だなこれ。



「ピカ太さん、ランスロット欲しいって言ってたじゃないですかぁ。ギアスのぉ」


「あぁ、転売屋に狩りつくされたあれな。それがどうした?」



 マジで売り切れまくってて買えず、通販サイト見たら見事に転売価格のみ在庫ありになってやがった。クソ共め。フレイヤ弾頭で消し炭にしてやりたい。



「あれ、買ってあげますよぉ?」


「……なに?」


「買ってあげる言ってるんですよぉ! この私がぁ! ピカ太さんにぃ! その変わり、ねぇ、分かるでしょう? ちょ~~~っとこっちに有利なプレイしてくれればいいんですよぉ。具体的に言えば、マリちゃんをなんとかす・る・と・か? そうすれば、ウチのチームは大変助かるんですよねぇぇぇぇぇぇ! どうです? 素敵な提案じゃないですかぁピカ太さぁぁぁぁん!? アンタ、こんな子供の遊びなんてどぉでもいいって思ってるでしょう? 自分のために動きましょうよぉぉぉぉぉピカ太さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」


「……ムー子」


「はぁい! なんですか!? 返答ですかぁ!? イエスですよねぇ!? そうですよねぇ!?」


「論外だ……!」


「はぁ?」


「俺はな。なにも金がないから転売屋から買わないんじゃない。あいつらが市場を乱し、いらんコストを掛けている事に怒りを感じて、儲けさせてなるものかと奥歯を噛み締め耐えているのだ。奴らの言う、欲しい人に届けるためにやっている。労働に対して対価を取るのは当然。みたいな反吐の出る台詞を言わせないようにするためにな」


「……」


「これは俺だけじゃない。全国のモデラーやコレクターが皆思い、やっている事だ。本来であれば手に入ったはずのグッズを簒奪され、金儲けのためだけにそのグッズを利用されている、世界中の人間がな。ムー子。分かるか? お前は今、そういった人間達の誇りと魂を侮辱したんだ」


「……ピカたさぁん。それは、Noと捉えてよろしいですか?」


「当然だ。考慮する余地もない。出直して来い」


「……古臭い。古臭いんですよピカ太さぁぁぁぁぁん!」


「なんだと?」


「誇り? 魂? くだらない! くだらないんですよぉそんなもの! いいですかぁ!? 日本は資本主義! 金が全てなんです! 金のためなら何をやったっていいんです! それが原理であり真理! 転売だろうとなんだろうと儲かればそれでよし! 買えればまったく問題なしなんですよぉ!?」


「……それが貴様の考え方か?」


「そうですとも! 私はねぇ! 金のために生き、金のために死ぬんです! そう、ジョージ秋山の銭ゲバのように! それこそが正解! それこそが正義! それこそが私の信じる全てでございます!」


「ならば、貴様の正しさを証明してみせるんだな。野球で」


「いいでしょう! 後で吠え面かいてもしりませんからね! 勝負に負け! 欲しい物も手に入らず! 惨めに哀れに意気消沈するがいいです! それじゃ! アデュー!」



 ……交渉決裂。まぁ当然だが。

 あとムー子。お前があれを読んで何を得たか知らんが、銭ゲバの最後はな、結局本当に欲しい物は金で手に入らなかったというか、金のために生きてきた人間が金以外の物を望んだから死んだんだぞ? 綺麗ごとを吐くつもりはないが、世の中金じゃないんだ。いいか? 世の中で本当に大切なのはぁ……






 暴力。

 そうだよなぁ。本当に必要なのは、暴力ちからだよなぁ?









  ……え?






 なんだ今のは!? なんか心の声みたいなのが聞こえた! 怖い! 



「お兄ちゃん」



 え、ちょっと! なにこれ! これなに! ホント怖いんだけど! もしかして俺ストレス溜まってる!? 会社の診断じゃ極めて良好悩みなしだったのに!



「お兄ちゃん?」



 え~~~~~どうしよ……産業医行った方がいいのかなぁ……でも、「内なる自分の声が聞こえた」なんて言ったらドン引きされない? 「やれやれ。いつまで厨二引きずってんだよ。アームズでも読んだか? カッコいいよねホワイトラビット」とか思われないかな……カッコいいよねホワイトラビット。



「お兄ちゃん!」


「えぇ!? あぁすまん。なんだマリ。大きな声を出して」


「お兄ちゃんが黙ってるからそりぁ大きな声も出すよ。それより、どうしたの? ムー子お姉さんに何か言われた?」


「……あぁ。欲しかったプラモ買ってやるから寝返れってさ」


「ふぅん。断ったんでしょ?」


「無論だ。あまり無礼なよと言っておいた」


「うん! そうだよね! お兄ちゃんはそういう人だもんね!」


「? うん、まぁ」





 よく分からんが、確かに俺はそういう人だな……!



「それじゃ! 作戦会議しよ! みんなが待ってるよ!」


「……あぁ!」



 頭の中で聞こえた声は気になるが、まぁ特に変調はないから一旦忘れよう。今やるべきことはムー子を倒し子供達の夢と平和を取り戻す事と、それと……キングジョーをカートに入れる事だ!


 っぶねー! 予約日忘れてたぜ! S.H.Figuarts 対怪獣特殊空挺機甲3号機 キングジョー ストレイジカスタム! 予約受付中!

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