サキュバス、白球を追いました11

 そう思うとつくづく俺は親にはなれないと思うな。終始子供のためを考え言動にも気をつけないといけないってのは結構な縛りだ。とてもできそうにない。まぁ親父はそんな事知ったこっちゃないと好き放題やっていたんだが。あいつ今何してるんだろう。くたばってるといいな。



「さぁチェンジですグレート。ブルードラゴンズの先発は戸田選手。小学生ながら速球は百三十キロ。緩急とカットボールを武器にしている選手です。普段は打たせて取るスタイルですが、ここぞという時には三振で打者を退けるクレバーな選手です。趣味は遊戯王カード。休みの日は毒田君といつもいっしょに決闘デュエルしております。口癖は、おい、〇〇しろよ」


「完全に遊星に毒されてますね」


「そもそも私達のクラスで遊戯王が流行ったきっかけがファイブディーズでしたからね。ちなみにクラス目標は、みんなで楽しくサティスファクション。です」


「数年後黒歴史にならない事を祈ります」



 俺が小学生の時にいたな。クラス目標を「カリカリモフモフにしてください」って担当に訴えてる馬鹿。目標が擬音てお前、どういう事やねん。当然却下されたけど。



「対するレッドカープの一番バッターはなんと島選手。しかも左打席です。四番でエースというのはよく聞きますが、一番というのは珍しいですね。とはいえ、インニング数は三回までなので、彼女が強打者であれば合理的な判断ではありますが」


「え? 三回しかないの?」


「小学生の草野球ですからね。 それ以上やると肘や肩に過度の負担がかかってよくないんですよ」


「なるほど」



 確かに人間の腕は物を投げるような構造ではないと聞いた事はある。そもそも物を投げるような身体ってどんなだろうな。獣の巨人みたいな感じだろうか。

 そういえば進撃の巨人、最終回のラストだけ見たけど結局あんな感じになっちゃうんだな。なんというか、切ないというか、やるせないというか……終わり方としてはまぁ綺麗だったなと思うけど、もうちょっとエレンが救われてもよかったなぁと思わなくもない。いや、もしかしたらあれでよかったって感じなのかもしれない。なにせ本当に最後のページを確認しただけだから、そこに至るまでの経緯を知れば感想が変わる可能性もある。うぅむこうなったらアニメは全話視聴しないとな。テレビアニメ進撃の巨人 The Final Season! 令和四年一月公開!



「ピッチャー、一球目、投げました! あ! 」


 ゴン……



「バント! バントです! 一球目からセーフティ……おや? どうしたんでしょうか。島選手の様子がおかしいですね」


「多分バントした瞬間指にボールが当たったんでしょう。間抜けですね。抜刀時、自分の足を斬る未熟者と同じです」


 アーウ!


「アウトになってしまいました島選手。さぁベンチから皆が走ってやってきます。大丈夫でしょうか。先ほどの一球、ストレートでした。時速は計測器で百二十五キロをマークしております。骨折の疑いもありますが」


「まぁ折れていてもすぐに回復するでしょう」


「そんなわけ……ん? マウンドがざわついていますね」




「大丈夫ですかムー子さん!」


「だ、大丈夫……テーピングを……」


「いや! 無理ですよ! 今日の所は一旦病院行きましょう!?」


「テーピング……テーピングで大丈夫だから……」


「骨に異常が出てるかもしれない!」


「いいからテーピングだ!」


「!?」


「骨が折れてもいい……指が使えなくなってもいい……! やっと掴んだチャンスなんだ!」


「ムー子さん……!」





「島選手、テーピングで試合を続行するようです」


「いっそ頭に当てて意識飛ばしてくれればよかったんですけどね。そうすればこんな茶番見なくてすんだんですが」


「でも、実際折れているかもしれないですよ?」


「大丈夫です。私が逆関節側に九十度曲げた時、奴は数分完治しました。まったく問題ありません」


「そんな馬鹿な……」





「あ……ムー子さんの指が……」


「どうした保保ぽぽ君!」


「治っていく……どんどん腫れが引いていく……!」


「なんてミラクル! いったい何が起こったというんだ!?」


「きっと、野球の神様が、魅せられちまったのさ……私のガッツに……」


「ムー子さん、正気ですか? もしや脳に異常が?」


「いや、ムー子さんの言う通りかもしれん」


「確かに……そうでもなければこんな事は起きない……」


「という事は、俺達、野球の神様に加護まもられてるって事じゃん!」


「勝った! 完全に勝ったぞこれは! 我が方の勝利だ!」





「俄かに盛り上がっておりますレッドカープ側。どうやら島選手は無事らしいです。グレートの言う通りでした」


「奴の関節や健を何度も破壊している私が言うんです。間違いはありません」


「……あの、グレート、ホント、マジでそういう発言はやめてください。これライブ配信なんですよ? 今だって百六十万人も……ひやく!? ひゃくろくじゅう!? 視聴者数百六十!? なんで? 最高数の五倍!? どうして!?」


「世の中何がウケるかわかりませんねぇ。さ、ツーアウトランナーなしで二番バッターが打席に立ちましたよ? 彼の情報を教えてください」


「……取り乱した。皆さま、どうぞ楽しんでこの放送をご覧ください。えーレッドカープの二番バッターは、ショートの保保君です。趣味は日光浴。以上です。いやぁしかし、百六十……グレート、私、変な事言ってませんでしたでしょうか?」


「ムー子に対しての発言以外は大丈夫だったかなと」


「あれが一番やばい! どうしましょう! 内申とかに響きませんかねこれ!? ちょっと今からレール外れるのは非常にまずいんですが!」


「大丈夫大丈夫、もしもの時はウチの会社来なよ。中卒でも仕事さえできれば雇うよ。出世もできるよ?」


「!? 確かグレートのお勤め先は代理店でしたね? 今度、社会見学行ってもいいですか?」


「それは駄目。流せない情報もあるから」


「なるほど……さすがに厳しいですね」


「まぁね」



 そりゃお前、会社で寝泊まりしてる人間とか、休日記載のないカレンダーとか見せられないよ。



 

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