サキュバス、白球を追いました10
ガチャリ。
「失礼、ただいま戻りました」
「お、早かったな。今ハンガリー舞曲を流していたところだ」
「あ、そうですか。しかしなぜブラームスを」
「高橋邦子が作ったゲームで使用されたクラシック楽曲を調査していた際、音源をスマフォに入れていた事を思い出してな」
「よく分かりませんが、ともかくもう大丈夫ですので、準備をお願いします」
「毒田君大丈夫だったの?」
「はい黄金卿エルドリッチで手を打ちました」
「買収したんかい……」
「交渉と言ってください。それより、終わりましよハンガリー舞曲」
「……」
どうにも都仁須君は下衆いというか、世間ずれしているところがある。どうしてこんな正確になってしまったのか家庭環境が気になるところだが、他人様のドメスティックな点に首を突っ込むのは趣味じゃない。彼のバックグラウンドについては考えないようにしよう。さぁ、タイム終了。試合再開だ
「長らくお待たせ板いました。一回表からの中断が終わり、ようやく再開です。今一度状況を確認していきましょう。ランナーは三塁に三田選手。デッドボールで出塁し、現在得点圏。しかし、二番三番と立て続けにアウトとなりツーアウト。その中で、バッターボックスには四番、ベーブ事マリ選手が今、入ろうとしています」
「ところで、マリはそんなに凄いんでしょうか?」
「その質問についてはデータで解説した方が早いでしょう。マリ選手は現在までに十五試合に出場しておりますが、打率は八割。長打率も八と驚異の数値を叩き出しております。まさに不動の四番。不沈の主砲。創設がら十年経ちますが、もはや彼女なくしてブルードラゴンズの歴史は語れないでしょう。生ける伝説とはまさにこの事。私を含めチームメイト達は皆、同じ時代、同じ場所に集えてよかったと思っております」
「ふぅん」
まぁ人造人間だしそりゃあ打つわな。
「さぁバッターボックスに立ちましたマリ選手。今日も快音を響かせてくれるのか、本日注目の第一打席。さぁ島選手、第一球、投げ……ない! 投げない! 島選手! ボールを投げません! これは……」
「敬遠しまーす」
「申告敬遠! 申告敬遠です! 島選手! マリ選手との勝負を回避しました!」
「小学生に相手に逃げの一手とか恥ずかしくないんですかね」
「卑怯者!」
「マリ選手、吐き捨てるようにして罵倒し一塁へ向かいます。いやぁ、しかし敬遠ですかぁ。確かに相手は八割バッター。塁が空いているなら歩かせるのも確かにという考えは理解できますがしかし、釈然としません」
「恐らく、今後あいつは全打席敬遠してくるでしょうね」
「なるほど。一九九二年の甲子園第二回戦の再現といったところでしょうか」
「そうですねぇ」
知らないけど。
「島選手、納得いかないと言った様子で進み現在一、三塁。尚もチャンスが続きますが、続く五番バッターはプラン選手。こちら、本日初出場の初打席となっております。選手データによりますと、年端十歳(仮)。趣味は犬と遊ぶ事と城巡り。最近、竜馬がゆくを読み幕末にも興味が湧いているとの事。野球経験はバッティングセンターに行ったことがある程度。なお、全球かすりもしなかったそうです」
「なぜそこまで分かっていてプランを五番に据えたんですか?」
「ダブルチャンス打線です」
「は?」
「ですから、ダブルチャンス打線です。ご存じない? ミスターフルスイングで使われた作戦で、好打者を前半後半で分断する事により、途切れることなく攻め続ける事が可能であるといわれている作戦です」
「いや、その理屈はおかしい。だいたい作中でもボロボロだったじゃねーか」
「論より証拠ですよグレート。仰る通りこのダブルチャンス打線はセイバーマトリクスをはじめとした様々な理論により否定されているものです。しかし、実際に運用したチームを私は知りません。試してもいないのにこれは駄目だと決めつけるのは人間の進歩を阻む思考だと考えます。プリチャンで桃山みらいちゃんも言っていました。やってみなくちゃ分からない。分からないならやってみよう。これです。この精神です。我々はこうした前のめりの心意気を大切にしていきたいのです。ご理解いただけますでしょうか?」
「そうですか。ありがとうございます。よく分かりました」
確かに都仁須君の言には一理ある。なんでもかんでもやる前から否定するというのはあまり褒められたものではない。しかし、しかしだ。世の中には、蓋然性の伴わない、所謂必然というものが存在する。そう、コーラを飲んだらゲップが出るっていうくらい確実な事が、火を見るより明らかといったような事が。
「ピッチャー振りかぶって、投げました」
ットラーイ!
「一球目ストライク。例の高速スライダーです。さて、二球目」
ットラーイトゥ!
「これもストライク! 連続で取りに来ました。外角低めいっぱい。これはピッチャーも凄いですが、捕球するキャッチャーの技巧も光ります。レッドカープの正捕手、
「漫画とかにいたら人気出そうですね。なんとなくハイキューの北さんみたいな感じがします」
「そうですね。実際、大変尊敬できる先輩で僕も慕っております。ただ、中々同年代の女子にはウケが悪いようで、バレンタインなどのイベントには縁がないようですね」
「男の価値が分からん奴らは放っておきましょう。白君。俺は応援しているぞ!」
「グレートの声援に答えられるか、さぁ第三球、投げた!」
ットラーイ! バッアーウ! チェンジ!
「三振ですプラン選手。そして白選手も外角高めギリギリを見事に捌きました」
ムー子が活躍すると面白くないな……野次を飛ばしてやりたいが、教育上の問題により控えねばなるまい。保護者役ってのは、ままならないなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます