サキュバス、白球を追いました12
そういえば上長、休日はさすがに家に帰ってるのかなぁ? あの人仕事以外でなにしてるんだろう? 酒以外で趣味とかあるのか。会話しててもあんまりそういうネタが出ないんだよなぁ。ひょっとしたら休みの日でも事務仕事とか雑務やってんのか? いやいやいやそんな馬鹿な……いや、そういえばうっかり上書き保存してしまったファイルが何故か月曜日に復旧していた事があったな……あの時は知らないふりしてそのまま使っていたけど、あれまさか上長が……いや、考えないようにしよう。せっかくの休みだ。仕事の事は忘れる。それがサラリーマンの賢い生き方。脳のリソースを意図的に整理しないとストレスで死ぬからな。お! 保保君が打って、三番バッターも続いた! ワンナウト一、二塁で四番! これはターニングポイントではないか?
「さぁレッドカープの四番はドミニカからの留学生ドス・ギャラ―選手です」
「え? 留学生なんているのこの学校」
「はい。曰く、日本は安全だし好きな野球も素晴らしいグラウンドでできるからと親を説得したそうです。毎朝新聞配達のアルバイトをしながら勉強を重ね、現在は学級トップの成績を収めております。白選手と並んで、私はこの人を尊敬しています」
「なんて子供だ……なんだか自分の人生に自信がなくなってきますね」」
「人生は相対的なものでありますから人と比べるのは無意味ですよグレート。万人には万人の悩みや苦しみがあります」
「深い言葉です。今後、辛い時に思い出して自分を勇気づけたいと思います」
「まぁこれも多摩校長先生の受け売りなんですけどね。それはそうと、投球モーションに入りました戸田選手、投げた! おっとバットの端に当たって三遊間。ショートマリ選手が綺麗に捌いて送球! 二塁のプラン選手取ってタッチアウト! 一塁へボールを投げまたアウト! これでスリーアウトです! ダブルプレー! ショートとセカンドの素晴らしい連携が見られました」
「打撃は駄目なのに守備は凄いですねプラン」
「そうですねぇ。昨日マリさんからチームのグループチャットに、身体能力バカ高い女子を連れていくから。とのメッセージがありました。正直女性なのであまり期待はしていなかったのですが、いやぁ凄い身体のバネです。流れるような身のこなしに天使のように跳ねる姿。捕れば天使投げれば天使。走る姿はマジ天使です。あれ? なんか胸がドキドキ動機。どうしましょうグレートこの鼓動はよもや不整脈でしょうか? 最近勉強のし過ぎで自律神経がおかしくなってきている感じはしましたがしかしこの年齢で? 長い人生、学校の勉強より苦しい事なんていくらでもあるのにもうストレスについていけなくなる兆候が出始めている? どうしよう。私はこの先生き残れるのか。社会というサバイバルの中で……」
「都仁須君。これを見て」
「なんです? スマフォ? あ、さっきの眼玉みたいな……おー? なんか心がすいと軽くなってこれは……ありがたい」
やれやれムー子の次はプランか。世話のかかる。しかし、さっきは傲慢で、今度は悲観。なんで誘惑かかって恋慕以外の感情が生まれるんだろうか。なんか特性でもあるのか? こうなるとゴス美とデ・シャンはどういう反応が出るのか気になるところだな。
「再度取り乱してしまいました。申し訳ありません。あ、ちょっと失礼CM流します……グレート、未だにプラン選手を見るとなんだか心臓を握りしめられている気分になるんですが、この気持ちは何でしょうか」
「……刷り込み形式で脳に紐付けられちゃったんじゃない?」
「なるほど。そういう事もあるかもしれませんね」
適当にぶっこいたけど、それって多分恋ってやつなんだろうな。でも俺は恋をした事がないから分からないんだよな。それに変に自覚させちゃうと今後大変そうだし、やはり黙っているのが吉だろう。
ガチャリ。
「都仁須君。大変だよ! 毒田君が帰るって!」
「えぇ!? なんで? さっき機嫌直してたじゃん!」
「なんかお母さんから電話があったみたいなんだけど、通話終わったら突然……理由聞いても答えてくれないし……」
「なんでぇ? なんか言ってなかった?」
「いやぁなんとも……あぁでも、なんかブツブツ呟いてたよ。見つかっちゃった。とかなんとか」
「……深くは掘り下げないようにしよう。あと、チームメンバーには明日以降この事に触れないように伝えてもらえる?」
「分かった! あと。一つ問題があるんだけど……」
「なんだい。まだ何かあるってのかい」
「うん。選手が足りない」
「足りない!? なんで!? 控えはまだいるだろう!? 茄子君とか福君とか!」
「それが、同接二百万いるって知って、みんな恥ずかしがっちゃって……」
「にひゃ……今二百万人も見てるの!? なに!? いったい何が起こっているの!?」
「なんかTwitterとかでバズってるみたいで……ほらこれ、トレンドにガチスライダーとかショタ野球とかショタプロとか出てるでしょ? これ全部この配信関連」
「何故……日本のツイッタラーはアホばかりなのか……」
「というわけで人が足りないんだよぉ。どうする都仁須君」
「うーん僕は実況しないとだし、今から誰か呼ぶっていうのも……あ」
なんだその目は。俺を見るなそんな目で。
「グレート」
「……俺は嫌だぞ?」
「そんな事言わず! お願いしますグレート! 貴方しかいないんです!」
「いや、酒飲んじゃったし」
「大丈夫です! 飲酒して野球をやってはならないなんて法律もありませんしルールブックにも記載されていません!」
「しかし……」
「打席に立つだけでいいですから! 守備はまぁなんとか! お願いします!」
「なんとかってなんだ。むしろ守備の方が問題だろう」
「大丈夫ですって! ほら! なんかこう、ガシ! ってやってババーン! グワーン! って感じで!」
「ミスターかお前は」
どうしよう……絶対に出たくない……だいたいお前、俺野球やった事ないんだぞ? パワプロの知識くらいしかないんだぞ? どうすんだそんな奴出して。小学生にボコボコにされる未来しか見えないじゃないか。あぁでも……くそ……こう迫られると……
「お願いしますグレート!」
「グレート! どうか!」
「……」
「グレート! グレート」
「グレート! お願いしますグレート!」
「……かしこま!」
あ、しまった。
「出た! かしこま出た! ありがとうございますグレート!」
「グレート! グレート!」
つい引き受けてしまった……どうして俺は子供のお願いに弱いんだろうか……
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