サキュバス、白球を追いました2
どうする? この場でデ・シャンを有害悪魔認定して悪霊退散に踏み切るか? だがやれるのだろうか? 俺の練度の低い退魔の力で……!(なんかカッコいい台詞がスラッと出た!)いやしかしそんな目に見えないものをあてにするよりここは物理で殴った方が退治できる可能性は高いのではないだろうか? 如何に悪霊といえども奴には実態があるし、そもそも俺は何度もムー子の関節を破壊している。であればサブミッションも有効に違いない。やはり暴力……!! 暴力は全てを解決する……!!
「そんな怖い顔で見ないでくださいよぉ……ちょっと洗脳しただけですからぁ」
悪鬼確定! やはり
「おや? 凄い汗ですが? 大丈夫ですか? アイスティー飲みます?」
この期に及んでまだ飲み物をすすめてくる! やだ! こいつ怖い! え? どうしようどうしよう! もうやっちゃう!? 怖いからやっちゃう!? やるしかない? 全然関係ないけどやるしかないと葛飾北斎って似てるよね? 似てない?
キュイ。
うん? 扉が開いた? 誰だ? まさか、増援!? 頭の中でスパロボFの(あるいは第四次の)BGMが流れる!
「ぺー。一旦戻りました。あ、ピカ太様もご一緒なのですか。おはようございます。プラン・ラ・トモシヒです」
「あ、お兄ちゃんいるの? おはよーお兄ちゃん!」
マリにプラン……なんだ? 何用だ?……
「おや、どうしたんだいプラン? もうホームシックかい?」
「いいえペー。本日、マリさんとそのお友達で一緒にベースボールを行う事となりましたので、バットとグラブを取りに参りました」
「それとね! ワンちゃん見せてもらいたいなって!」
野球? ワンちゃん?
「マリちゃん犬好きだねぇ」
「うん! おじさんに色々教えてもらって、ワンちゃんの事好きになっちゃった!」
「そうかい。じゃ、裏庭に行こうか。あ、輝さんもよろしければどうぞ」
「え? あぁ、うん」
ワンちゃん? 裏庭? なんだ? 何を言っているんだ? いったい何が始まろうとしているんだ? 分からん! 分からんからともかくついていこう! 相変わらず廊下が広いな! 部屋も多いし! 部屋が多い……大丈夫か? なんかヤバイ一室とかあるんじゃないか? 気を抜いたらそこへ監禁されて改造手術とかされるんじゃないか? 嫌だー!? ショッカーの怪人は嫌だー! どうしてもというなら地獄サンダーにしてくれぇ! 本当は狼男がいいけどあれはゾル大佐あってのものだから今回は地獄サンダーあたりでぇ!
「さ、裏庭です」
普通に裏庭きちゃったわ。
「わんわん」
「ワワん」
「ワんわンん」
えーなにこれ? スゲー犬がいっぱいいる。
「実は私、ブリーダー業もやっているんですよ。いやぁ犬はいいですよねぇ。人類最古の友ですよ。まぁ私はインキュバスなんですが」
なんだそのクソみたいなジョークは。お前フランス被れなんだからもっとエスプリの効いた事言えや。
「お兄ちゃん! 私ね、ここでプランちゃんと会ったんだよ? まだ幽霊だったころからお邪魔してて、そこで仲良くなったの」
「へぇ。存外付き合い長いんだな」
「プランは同世代、と言っていいのかどうかは分かりませんが、ともかく近い精神年齢の友達がいないものでしたから、マリちゃんと出会えて本当に良かったと思っていますよ」
「私も、マリさんと友達になれてよかったと思います」
ほほえましい事だ。いいよね友達同士で友情を確認するのって。どうせ数年で忘れちゃうんだけどねそういうの。
「あ、ケネディ! 元気だった!? リンカーンにルーズベルトも! アイゼンハワーは少し太ったんじゃない?」
「……なんで全部歴代アメリカ大統領の名前なんだ?」
「最初にニクソンと名付けてしまったので、規則性があった方がいいかなと思いまして」
「そうか」
「ちなみにニクソンは魔界産の雄なんですが、
「……聞きたくない」
「MIXの強さを持つ純血の犬ができ上がってもうバリバリ稼ぎ放題だって事ですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「聞きたくないっつってんだろ!」
なんて倫理観皆無なブリード! アニマルライツの観点からして到底許されるべき事案ではない! これは通報! 通報です! いやしかし警察にどう説明するんだ? 「悪魔がねぇ? 犬を無理やり交配させてねぇ? 違法に儲けてるんですよぉ?」なんて言おうものなら完全に頭のおかしい奴認定されるに決まっている……あと考えてもみると、犬にしてみれば強い個体が産まれるのはむしろ望むところなんじゃないだろうか? それにそもそも倫理とか言い出すとペットとかブリーダーなんてもの自体……いや、いい。もういいや。考えるのは止めよう。色々ややこしくなる。
「まぁ私が犬好きなのは確かですよ輝さん。それはマリさんも保証してくれると思います」
「マリが? なんで?」
「そりゃあもう。霊体の時からここに来る度に犬がどれほど素晴らしいか延々説明してきましたから。その甲斐あって彼女はもうすっかり愛犬家です。いいですねぇ。布教活動が実を結ぶってのは」
何故だろう。健全な話なので凄く禍々しく聞こえる。うん? 待てよ?
「もしかして、さっき言ってた洗脳ってのは……」
「はい。その通りです。愛犬家に仕向けるための教育です」
紛らわしいわ! 言い方考えろ!
「しかしマリちゃん、身体が手に入ったら犬を飼うと言い出すもんですから、どうしたものかなぁと思ったんですよね」
「なぜ? 動物を愛でるなんていい事じゃないか。人間都合の価値観だけど」
「いやぁ、やっぱり命を育てるって大変なんですよ。ブリーダーやっといて言うのもなんですが、安易な気持ちで迎えるというのはやはり大反対でして。でも、犬を好きな気持ちは痛い程分かりますから、なんと答えようか迷いましてねぇ」
「お前悪魔の癖にそういうとこはしっかりしてんだな」
「魔界にも動物はいますからね。まぁそれで、私はこう言ったんです。ちゃんと犬が住める環境を整えて、ずっと面倒をみられるような収入があれば飼ってみるといいよ。ただ、最初は難しいから、その時はニクソンを少しの間貸してあげる。って」
動物を貸すってのはなんかちょっと引っかかる言い方だな……ちょいちょい価値観がおかしいから普段見せる常識や良識が怪しく感じる。まぁその辺は悪魔だからと目を瞑ろう。それより。
「だからマリは犬小屋を作ってなんてねだってきたのか。なんだ、それならそうと正直に言えばいいのに」
「あれ? 理由言わなかったんですかマリちゃん」
「あぁ。おかげで無用の長物を作っているのかと鬱になりかけたよ」
「そうですか。もしかしたら、きっと、そのあたりに付け込む気だったのかもしれませんね?」
「え?」
「せっかく作ったのなら有効活用したいと思う人間の心理を利用して、飼う許可が得られる可能性を高める作戦だったのかもしれません」
「いやいや、そんな馬鹿な……まさかそんな……うん……いや、いやいやいやいや……」
否定したいが、しきれない自分がいる。
そうなんだよ。マリの奴、腹黒くて計算高いんだよな……
「まぁ、あくまで
「……そうだな」
「あぁ、これが悪魔の囁きってやつですね! いやぁ! 生まれて初めてやっちゃいましたよ! どうです!? 囁かれた感想は!?」
ホントこいつうるさいな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます