三
サキュバス、白球を追いました1
当座の問題として解決しなくてはならない事象に対しては先延ばしせずさっさと手を打つべきである。
べべー!
お、こいつぁ高級なブザーだな。アニメとかで聞いた事のある濁音のやつ。ピンポンなんて貧乏ったらしい電子音じゃない、本物の響きだ。いいですねぇこれ。
「はい、どなたでしょう」
しかもマイク付きとは。ハイテク万歳だな。
「輝だが」
「あぁ輝さん。昨日はどうも。どうなさいましたか本日は」
「話がある。扉を開けろデ・シャン」
「えぇ~? アポなしはちょっと困ると言いますかぁ。まだ朝食も済んでませんしぃ」
「……」
燃やす、殺す、潰す、詰めるなどの暴言を迂闊に吐くと脅迫罪が適用される可能性がある。現実での使用は当然控えるべきだし、最近ではweb上でも盛んに誹謗中傷や暴言への法的処置がとられるようになっている事から、今後はバーチャル案件での訴訟も当たり前となっていくだろう。このままでは、web本来の目的である自由と平等という絶対的な理念が阻害され、将来、厳しい規制が敷かれる事となる。嫌な世界だ。そうならないためにも、SNSなどで安易に口汚く煽ったりする事は絶対に止めよう。悪口一秒、前科一生。みんなで守ろうネチケット!
ま、知ったこっちゃないんだが。
「いいから入れろ。さもないとお前が立ち上げようとしている企業の悪評を電子の海にばら撒く」
webのリスクは逆にパワーにもなる。一度拡散した悪評は中々消えず、サジェスト汚染は止められない。今は誰もがwwwに接続できる時代、深刻な風評ダメージは避けたかろう。
「分かりましたよぉ。今、遣いの者を送りますので、しばらくお待ちください」
召使までいるのか。随分いい身分だな。まぁこの広い屋敷であれば納得だ。いやぁしかし、凄いなこの規模。
ギィ。
お、開門だ。軋み音も心なしか高級に聞こえるな。ムカつく。
「お待たせいたしました。私、トモシヒ家に仕えております、ファン・アンテと申します」
「あ、どうも。輝です」
「主人からお話は伺っております。さ、どうぞこちらへ……」
うーむ。なんとも紳士な執事だ。物腰が柔らかいのにどこか威厳があって、会話に緊張感が生まれる。おまけに渋い。白く整った髭と自然に固められた髪が控えめかつ印象的なダンディズムを演出している。これは一部の女子にバカ受けですわ。げんしけんの大野さんみたいな腐女子は大喜びだろうな。ところでジンバ・ラルとランバ・ラルのカップリングなんていう地獄みたいな八〇一本をこの前見かけたんだがアレ買う人いんのかな。「父親の尻中で父親を忘れた」なんて台詞が目を引いてドン引きしたぞ。
「なにかございましたか?」
「あ、すみません。大きな屋敷だなと」
「左様でございますか」
ふぅ、危ない危ない。BLの事考えてたら置いて行かれるところだった。BLは一旦忘れよう。しかし広い。広すぎる。なんだこれ。廊下の幅も広い。まるで高級ホテルに来たようだ。こんな家に住んだら逆に疲れそうだな。人間なんて起きて半畳寝て一畳あれば十分だろうに。随分欲深な事だ。羨ましい。
「こちらです。主人は今食事中でございますので、失礼ながら、どうぞご配慮いただくよう、よろしくお願いいたします」
「あ、はい」
コンコン。
「失礼いたします。輝様をお連れ致しました」
「あぁ、入っていいよ」
キュイ。
お、部屋の扉は小気味いい音が鳴るな。ベジータの同僚の名前みたいな響きがしたぞ。
「どうも輝さん。食事の途中で申し訳ございません」
「いや、こちらこそ朝早くに押しかけて少し申し訳なく思っている」
建前だ。本当はちっとも申し訳なくなんて思ってない。
「いかがです? お召し上がりますか?」
「結構だ。それより話をしたい」
「左様でございますか」
着席。あぁ、椅子もいい硬さだ。これなら腰痛にもならんだろうな。あ、お茶ですか。これはどうも。
「で、お話しというのは」
「決まっている。プランの事だ」
「あの子が何か? 粗相などしないよう躾けているつもりですが……」
「粗相はない。それどころかまったくでき過ぎなくらいだ。今日など、朝早くから家の掃除をしていて感心したものだよ」
「そうですか。いやぁ、普段から言って聞かせているんですよぉ。一夜の恩は一度で返せ。借りは作るな貸し作れって」
なんだか借金取りみたいな教えだな……
「それで、わざわざプランの様子をお報せに来たてくれたわけですか?」
「そんなわけあるか。俺だって暇じゃないんだ。本当はここに来る時間だって惜しいくらいだったんだからな」
この時間があればSDサイズのガンプラ一個作れたんだからな。
「では、いったいどのようなご用件で?」
「分からんか? 本当に分からんのかお前は」
「はい。まったく、皆目、全然、これっぽっちも」
「……そうか、なら大きな声で聞かせてやるから、耳をノイキャンしてよっぉっく聞け……」
コォォォォォォォォ……ッ!(呼吸法)
「なんで! どうして! お前の娘を! うちで! 面倒! みなきゃ! ならんのだ! おまけに! 犬まで! 俺は! 一言も! 承諾した! 覚えが! ない! 今日! 返しに! また来る! だから! そこのとこ! よろしくぅ! デ・シャン! この馬鹿野郎!」
あぁスッキリした。言いたい事を大声でいうと爽快だな。人を褒める時は大きな声で。悪口を言う時はより大きな声で。いい言葉だ。今後はこれを我が家の家訓としよう。男系は俺で末代だが。
「えぇ? なぜですかぁ? 輝さん宅、今大所帯ですよねぇ? いいじゃないですかぁ今更子供の一人や二人増えたってぇ。そんな変わりないでしょぉ?」
「人間はカブトムシじゃないんだぞ。そんな気軽にポンポン増やして堪るか!」
「やだなぁピカ太さん。プランはサキュバスですよぉ? 人じゃありませぇん」
「そういう事じゃな! ……はぁ~~~もう……いいや。ともかく、うちじゃ引き取れません! 親の彼方が責任もって育ててください」
「えぇ? せっかくニクソンの小屋まで作ったのにぃ?」
「アレはあの妙に愛嬌のある犬のために用意したんじゃ……」
待て。どうしてマリは急に犬小屋を作ってほしいなんて言い出したんだ? 秘密基地とかブランコとかなら分かるが、犬小屋? 普通順序があるんじゃないか? 犬が欲しいから犬小屋を作ってというべきなんじゃないか? それがどうして犬小屋先行? おかしい。何かあったのか? 何か、何か……
「駅の近くにワンちゃんのお家があって、いっつもそこ見ていくんだ」」
思い出される過去のワンシーン。何か嫌な予感がする。こいつ、もしかして……
「……お前、マリに何かしたか?」
「察しがいいですねぇ。輝さん。そう、その通り。彼方のお察しの通りです」
こいつ! やはり悪魔!
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