サキュバス、犬とロリがやってきました14
いや、待てよ? 確かうちのグループ企業にEコマースの運営サポート会社があったな。設計からカスタマーまでカバーしてたはず。よし、ここをゴス美に紹介してやるか。俺が間に入ればある程度融通が効くし、何よりリサーチの時間は減る。仮に意に沿わなくとも指標の一つとして役には立つだろう。こういうお節介は大きなお世話に繋がるから普段はやりたくないんだが、相手がゴス美であれば問題ないだろう。情に絆され選択を誤るなんて事をやらかす心配は恐らくない。うん。考えれば考える程いい案だぞこれは。是非とも実行しよう。そうと決まれば早速リマインド。帰ったら資料を用意して送付の旨入力。OK完了。これで少しでも手助けになればいいんだが……
「あ、課長! 私も何かお手伝いしましょうか!? なんでもやりますよ! 難しい事以外は!」
なんだムー子もやる気だな。はっきりいって何もしない方がありがたい存在であるように思えるが、部下がやる気を出した以上はそれを使ってやれねば上司失格。さてゴス美はどう出るか。お手並み拝見といこう。
「そう。じゃあアイテムの叩きよろしく。誤表記一つにつき
「え……」
「始業は九時。残業上等。当然動画制作も抜かりがないように」
「……」
「返事は!?」
「はい!」
「声が小さい!」
「は、はいぃぃ!」
「そんなもんなのかい!? テメェのやる気はその程度なのかい!?」
「そんなことなでぇぇぇぇぇぇぇぇすぅぅぅぅ!!!」
「本当かぁぁぁぁぁぁぁぁ!? やれんのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? あぁ!?」
「やれまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁす!」
「よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉし! 決定! 根性いれろよぉ!?」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいいいいいいいい!」
……凄まじい体育会系。これは完全なブラック。絶対入社したくねぇ。本当にうちの系列企業紹介して大丈夫か? いや、でも相手がムー子だからってのもあるだろうしな。いいや。なんとかなるやろ。
「お兄ちゃん」
「うん? なんだマリ」
「働くってこんな感じなの?」
「……」
「お兄ちゃんも、こんな感じで働いてるの?」
「……」
「働くって、辛くない?」
「……」
どうしよう。否定したいけど否定できない。いやうちの会社もさすがにここまで酷くないが、労働条件でいえばまぁ大概だ。最近は色々あって好き放題やってるけどそれでも結構グレーな線を行ったり来たり(三六協定とはなんなのか)。はっきりいって仕事はクソだが、ありのままを伝えるのも気が引ける。が、かといって今日日の子供に「仕事は楽しいよ」なんて虚偽は通じないだろう。うまい事中間をとっていい塩梅でお話をしなければ……うーん……よし。誤魔化そう。
「マリ」
「なぁに?」
「仕事は辛いけど、職業選択の自由は保障されているし、嫌なら辞める権利が労働者にはあるんだ」
「うん」
「ムー子は自ら選んで仕事について、自らの意思で仕事を辞めていないんだよ。あいつが辛いかどうかは知らないけど、全ては自分で決定しているという事を忘れないでほしい」
「……なんか微妙に論点ずれてない?」
「マリ」
「なぁに?」
「頑張って勉強しような?」
「? うん。分かった」
ミッションコンプリート。上手く誤魔化せた。
しかし、学業優秀であれば選択肢が増えるし業務の幅も増える。マリには是非ともドホワイトな企業に就いて人間らしい一生を歩んでほしい。人造人間だけど。
「いやぁ~目標に向かって一丸となる姿というのは美しいもんです。いい光景ですね輝さん」
デ・シャン。
あのハラスメントショーが美しく見えるのであればこいつは完全に犯罪者の類だ。というかお前、自分の子供がいるんだぞ。よくこんな光景平気で見せられるな。将来プランが似たような企業に入社したらどうするんだ。あぁでも悪魔の世界ならこれくらいは普通なのかも……うん? そういえば、なんで人間相手に商売する必要があるんだこいつら。ちょっと気になるな。
「なぁ、聞いてもいいか?」
「はい。なんでしょう」
「なんでわざわざ人間相手に商売する必要があるんだ?」
「なんでって、そりゃあ勿論、私達がこっちの世界で生活するためですよ」
「生活?」
「そうです。私達は人間界に淫魔を派遣して精を採取しているんですが、何処の誰から摂るかちゃんと選定しているんです。それで、場合によっては長期計画になる時もありますから、そのために必要な資金を稼がなきゃいけないんですよ。結構大変なんですよ? 住居の他、生活用品やPC。スマートフォンなんかも支給しなくちゃいけないんですから」
「え? わざわざ買って支給してんの? なんか魔法的な力で出してるんじゃなく」
「いやですねぇ。人間さんってのはすぐ夢を見たがる。そんな便利な事ができるのであればもっといい生活してますよ。少なくとも、わざわざ会社を興して組織的に人間界に出張ってくるなんて事はないでしょうね」
「言われてみれば確かにそうだな。なんだ。悪魔ってのも存外不便なんだな」
「ま、人間より多少長生きで少し不思議な真似ができるくらいですね。それ以外は大差ないですよ。上級クラスになるとまた違ってきますが」
「ふぅん。すると、あんたは違うってわけだ」
「どうでしょうかね。まぁそこそこの組織でそれなりの地位に立てるくらいでしょうか」
「そうか。毎日お疲れ様です」
「え? あぁはい。いや。労ってくれるんですね?」
「そりゃお前、専務職なんてクソ面倒だろう。社長の顔色は気にしなきゃいけないわ部下の面倒は見なきゃいけないわ不始末は全部おっ被らなきゃいけなわ責任は放棄できないわで気苦労ばかりだろうに。まぁ金とステータスは手に入るだろうが、俺の価値観でいえば釣り合わん。あんたみたいに上で動ける人間がいるから木っ端の労働者は気楽に働けるんだから、罵倒はできんよ」
「そうですか……なんかありがとうございます……あ、お酌しますね」
「あ、どうも。おっとっと」
ここは酒の席。話せば案外分かり合えるもんだ。まぁこいつの下では働きたくないけど。
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