サキュバス、犬とロリがやってきました13

「税金を払わなくいい方法を模索するより、さっさと謝ってクビを回避する方向にシフトした方が建設的なんじゃないか?」



 といっても損害が出たわけでもないし、職務規定に反するようなもんでもないだろうから懲戒はまずあり得ないだろうけど。



「それもそうですね。じゃ、ちょっと行ってきます。善はダッシュ!」


「あ、おい……」



 お前、今のタイミングは……



「それで、ご用件とはいったい……」


「うん。それはねぇ……」


「あのぉ……お話し中すみません……」


「すみませんじゃないんだよテメェ。なに話に割ってきてんだ殺すぞ」


「ひぃ!? も、申し訳ございません……」



 ほら見ろ。上司同士が会話してる時なんて余程の事じゃなければ突撃しない方が無難。とりあえず一段落して酒入ってから頭下げればよかったのに、馬鹿な奴だな。



「いいよいいよ鳥栖さん。ムー子さんの話聞いてあげようよ」


「……専務が仰るのであれば」


「あ、ありがとうございます」



 デ・シャンに助けられたなムー子。が、あいつの方も建前では許しているけど、内心は分かったもんじゃない。上役って面倒なんだよなぁ。立場的上、下っ端には寛容じゃないといけないから表面上は物腰柔らかだけど、絶対査定考慮してくるんだから。



「で、どうしたのかな?」


「はい……あの、私、これまで散々専務様に失礼を働きまして、その謝罪をしたく……」



 専務様はないだろ専務様は……



「あぁそんな事? いいよいいよ気にしなくて。お互い知らなかったわけだし、仕方ないよ」


「ほ、本当ですかぁ!?」


「うん。でも、もう知っちゃったからねぇ。次からは気を付けて物を言ってほしいなぁ。ねぇ? 鳥栖さん」


「は! はい! 申し訳ございません! 今後は社内教育を実施し! 国内外問わず役職を持つ方のお名前とお顔を把握させます!」


「そう? ま、無理だと思うけど頑張ってね?」


「はい! 現状の案件を終えましたら必ず……!」


「そうそう。その現状の案件で思い出したんだけど、輝さんは重度の勃起不全でも患ってるのかい? サキュバスが二人もいて、かつ秘儀を使ってまで手籠めにできなってのは、ちょっと前代未聞なんだけれど」



 子供の前で勃起とか言うな前。そんなもの二瓶鉄造くらしか許されないぞ。



「それは……」


「それは?」


「……」



 答えるのに窮している。俺に気を遣ってるのか? 仕方ない。助け船を出してやるか。



「それについては俺から話そう。単に俺が女に興味がないだけだ」


「ほぉ。では男ならイケると」


「……訂正する。性的欲求や恋愛感情が湧かんだけだ」


「えぇそんな中学生みたいな事言っちゃっていいんですか輝さん。後で絶対自分の首を絞めますよその設定」


「設定でもなんでもなく事実だ。あと中学生とか言うな。要らん事を思い出す」


「? まぁいいです。しかし、なるほど。その話が事実であれば、確かに性欲を弄び精を搾取するサキュバスではちょっと荷が重いですね。もしマーラがいたらブチ切れですよ。悟り開けるんじゃないですか?」


「さすがに釈迦と同列に語られるのは恐れ多いが、ともかくそういう感じだ。あんた、上司ならこいつら帰してやってくれよ」


 少しばかり情が湧いていない事もないが出会いがあれば別れもあるのだ。さようならとなっても俺は一向にかまわん。あ、でもそうするとマリの面倒見る奴がいなくなるのか……どうしよ。お母さんにでも預けるか? いやぁ拒否しそうだな。「自分で面倒みなさい」って絶対いうよ。うーん仮に男だったらなんとかなったろうが、男手一つで女児の面倒見るのは色々難易度が高いなぁ。月一のものとかメイクとか下着選びとかどう教えればいいんだ。というか血の繋がりがない成人男性と女児がひとつ屋根の下ってそれだけで案件じゃないか? どうしよう。児童ポルノで捕まってしまう……



「いやぁオープンユアハートは強制契約を交わす技ですからちょっと厳しいですねぇ。ご存知かもしれまんせが、我々悪魔の類において契約は絶対。過去に破棄した例もない事もないんですが、些か難易度が高いので現実的ではありません。一応、調べてはおきます」


「そうか」



 あ、いかん。少しホッとしてしまった。なんか人としてあまり褒められない性格してるな俺。



「ピカ太さんが発情してくれればすむ話なんですよぉ? 専務! 何かマジックアイテムありませんでしょうか!? 理性が消し飛ぶような媚薬とか!」


「ない事はないけど、多分効かないと思うよ? こういう言い方は誤解を招くかもしれなけど、輝さんの場合、多分律己とかじゃなくて生物としての基本的な部分が欠落しているんだろうから、理性吹っ飛ばしてもね」


「そうなんですね! 勉強になります! 今後もご指導ご鞭撻! 何卒よろしくお願い致します!」



 露骨に媚び始めたけど返ってウザいからやめた方がいいぞそれ。



「ま、今回の事は僕の方で会社に説明しておくから、ちょっと気長に対応よろしく鳥栖さん。一応進捗だけ知らせてね。はい、これ僕の電話番号。ライン登録もしておいて」


「かしこまりました」



 どうやって電話契約したんだろう。聞いてみたいが聞かない方がいいような気がする。



「それから、人間界こっちで輸入業やる事になったから、ちょっと鳥栖さんに手伝ってもらいたいなって。実はこれが本題なんだよね」


「かしこまりました。具体的には何を行えば?」


「ECサイトの設計とSEO対策。後で資料送るから、可能な限り予算内で。あ、人使うならフリーランスはできる限り控えてほしいな。まだ固まってなくて結構処理件数多いと思うから、ノウハウあって集団で動ける企業にお願いしてもらえると」


「かしこまりました」


 


 結構な案件っぽいな。それも、できればやりたくない類の。こんな仕事にアサインさせられるなんてゴス美も災難だなぁ。

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