サキュバス、犬とロリがやってきました15

 そうだ。せっかく酒の席についたんだ。以前は考えないようにしていたが、俺がムー子に狙われた理由を聞いてみよう。あの時は俺はどうしようもないクソだと認定された結果なのではないかと忸怩たる思いで好奇心に蓋をしていたが、今考えれば別にそうであってもなんという事はなく、仮にそうであっても逆によくそれで社会人頑張ってるなと自分で自分を褒めてやりたい気持ちになるような予感がする。存外は俺は図太く楽観的だし、そもそもこいつらの尺度で測られたところでそんなにダメージはないなという今更ながらの気付きも実は少し前からあった。ならば、もうこの機会に色々と聞いてしまった方がかすっきりする事うけあいだろう。よぉし。丁度二人酌を傾ける位置関係。話のネタとして振ってみようか。



「時にデ・シャン」


「あ、はいなんでございましょうか」


「先ほどの話を聞くと、お前らは狙う人間を選定しているんだよな?」


「左様でございます」


「という事は。俺も何らかの理由があってムー子に狙われたという事だな?」


「まぁ、そういう事になりますね」


「その理由を知りたいんだが」


「あぁすみませぇん。その辺は機密扱いでしてぇ。口外厳禁なんですよぉ」


「いいじゃないか。どうせここは身内しかいないんだから、聞かれたところでどうという事はないだろう」


「と、いいましてもぉ~規則は規則ですからぁ~」


「そこを何とか。な? いいだろう? だいたい、俺が知ったところでそれを誰に話すというんだ。これこれこういう理由があって、今現在サキュバスと同居中なんです。ウィンドウズ用アダルトゲームソフト。俺とサキュバス。絶賛発売中。君は、刻の涙をみる。なんて事を誰かに喋ってみろ。重要危険人物認定されて、非現実の王国で in Japan を執筆しながら生涯を閉じる羽目になるんだぞ。誰が言えるかそんなもの」


「ヘンリーダーガー好きですけどね私。あの特異な色使い。特に黄金の施し方が素晴らしいじゃありませんか。大変象徴的ですよ」


「俺は少年少女よりメカやロボに心惹かれるから賛同しかねる。Zのラストで百式が大破してるとことかマジンガーZ最終回でマジンガーZがボロボロになるシーンとかマクロスプラスでYF-21が手足捥いで超加速するとことかアカ地雷ガマ戦で負けてバラバラになったキカイダーとか最高じゃないか? 最高だろう? イェイイェイ。メカロボ最高。メカロボ最高。お前もメカロボ最高と叫びなさい」


「嫌です」


「……過去最悪な態度だぞオマエ!」



 と、言いつつも趣味や好みは十人十色。分かり合えないのは仕方がない。みんな違ってみんないい。私と小鳥と鈴と蟷螂。おう夏だぜ。俺は生きてるぜ。いかん。酔ってきた。曖昧にならないうちに理由を聞いておこう。



「で、なんで俺を狙ったんだ?」


「太陽が眩しかったからですかね」


「あぁ異邦人。いいよね牢屋からパトカーの音聞きながら達観したような事考えるの。俺も捕まったら似たようなセリフ吐きながら看守に関節技かけてやるって決めてんだ。全員ぶち殺してやる」


「ピカ太さん。貴方、悪魔になりません? 丁度牛頭馬頭に欠員が出てるらしいんですよね」



 牛頭馬頭を悪魔に分類して果たしていいのだろかと疑問に思うところだが、和洋の差はあれ似たようなものかもしれん。一節によると悪魔も試練を与える神の従者であるみたいな話を聞いた事があるようなないような。そう考えれば獄卒も悪魔もさほど……そうじゃないだろう! なんで! こいつらは! 俺を狙っているのか! 聞きたいんだよ! くそ、さっきからのらりくらりと躱しやがって、もう頭きた。こうなれば意地でも口を割らしてその内容をYouTubeにアップロードしてやる! ガキが...舐めてると潰すぞ……

 そういや最近この手の文字を張り付けたサムネイル見ないな。代わりにクロスレビューみたいな画像をスライドさせていくタイプが流行ってるけどあれムカつくよね! 



「あ、専務、ピカ太さん。どうぞ、お酌を」


 

 酌か。タイミング悪いなゴス美。



「あ、鳥栖さん悪いね。いただくよ」


「俺は手酌でいいよ。そんな気を遣われても逆に困る」


「何を仰るんですかピカ太さん。こういう場面では互いに酌をしあって親交を深めていくんですよ。さ、お注ぎしますから、お猪口に残ってる分をグッといってください。グッと」


「……うん」


 なんというアルハラ一直線。完全に時代に逆行する昭和な理念だが、拒否したり咎める程でもないか。実際に昭和から脳をアップデートしていない中高も多いしな。ま、今回はゴス美の顔を立てて付き合ってやる事にしよう。



「あ、お酌―? お酌ってやつー? マリもやっていいーねーお兄ちゃーん私も次ぎたーい。まぁまぁまぁまぁってやりたーい」



 どこで拾ってきたんだその知識。



「ね? プランちゃんもやりたいよね? まぁまぁまぁまぁって」


「Ces humains. Je vais te donner à boire aussi. Voulez-vous boire rapidement? Fissure. Le dos est bouché. Faisons-le rapidement.ma,ma,ma」


「なんて?」



 なんでや。いきなりフランス語入ってきたぞこいつ。どういう事や。



「あ、プラン飲んだね? まったく、ほどほどにしときなさいよ?」


「ちょっと待て。未成年飲酒は駄目だろ」


「あ、大丈夫です。悪魔は長寿族なので問題ないです。こんななりですがプランは齢百歳。完全に成人。オールオッケーです」


「人間基準で何歳なんだよそれは」


「Allez?」


「フランス語で逃げようとするんじゃない!」


「お兄ちゃーん! 早くぅ。まぁまぁまぁまぁ」


「Dépêchez-vous. Je vais te tuer.ma,ma,ma,ma」



 あーうっとうしい! 



「あぁもう! 分かったよ! 飲めばいいんだろ飲めば! はい! 一献くれまいか!?」


「百万石の酒ぞ? さ、まぁまぁまぁまぁ」


「おっとっとっとっと!」


 グイ!


「まぁまぁまぁまぁ」


「おっとっとっとっと!」


 グイ!


「まぁまぁまぁまぁ」


「おっとっとっとっと!」


 グイ!


「まぁまぁまぁまぁ」


「おっとっとっとっと!」


 グイ!


「まぁまぁまぁまぁ」


「おっとっとっとっと!」


 グイ!


「まぁまぁまぁまぁ」


「おっとっとっとっと!」



 あ、いかん、飲み過ぎだこれ……



「まぁまぁま……あ、お兄ちゃんが寝てる! おーいお兄ちゃーん! 大丈夫―!?」



 大丈夫じゃない。問題だ。



「ちょっと何やってんのマリ!? ピカ太さん! 大丈夫ですか!? ピカ太さぁん!」




 意識が遠のいていく……これあかんわ……完全に明日二日酔いだわ……

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