サキュバス、犬とロリがやってきました6

 そんな事より犬小屋だ。さぁトンテンカンテン……





 月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり。





 ヨシ!

 おっと無我夢中で作っていたらもうこんな時間だ。予定より少し遅れたが、立派な犬小屋を建築したぞ! いやぁ嫌々やってはいたが、いざ完成するとそれなりに愛着も湧くものだ。とくにこのロココ調の支柱。曲線がなんとも妖美。俺が削ったわけではないが、いい味を出している。実にポストバロック。愛の戦士ヘッドロココだ。



「あ、終わったんですか小屋作り乙でーす」



 そしてせっかく余韻に浸っていたところにムー子のダル絡みである。うざい。あ、いかん、スープレックス決めたい。なんでこいつこんなに暴力的欲求を刺激するんだろう。不思議だ。このままでは客前で成人指定Gなライブリークショーが始まりかねん。なるべく近づかないように追っ払おう。


「おいムー子。お前ちょっとうざいから喋るな。あっちへ行け」


「うわ……普通に暴言……もっと、こう、あるやろ? 言葉が」


「生憎と俺は語彙が少なく適切な発言を存じ上げないんだが、例えばどんな風に罵倒すればいいかご教示願えないだろうか」


「豚は豚小屋へ行け」


 なるほど納得のハートフルワード。でも修正されそうなのでNGだ。これに近い感じでより適切に相手を遠ざける言葉を作ってみよう(三点)。


「豚と話す気はない」


「あ、いいですね~コミック版の台詞~ちなみに私は文庫で読みましたよ北斗の拳」


「そうか。今度ファミコンジャンプ買ってきてやるよ」


 俺は絶対にプレイしないが。


「ならファミコン出さないとですね! 私、持ってるんで居間に置いておきます! 楽しみだなぁ。ジョジョ呼ばわりされる承太郎」


 それはⅡの方だ。




 

「ただいま帰りました~っと、あれ? お客さんですか?」



 お、ゴス美が帰ってきたか。おかえりだ。犬小屋も完成した事だし、ゆっくりとデ・シャンがの処遇を決める事ができる。もし詐欺師だったらただじゃおかねぇ。



「おーい課長―」


「あ、ピカ太さ……」




 ヒュン!




 !? なんだ? 影が俺の横をすり抜けていったような……いや、影じゃない。あれは、デ・シャン……デ・シャンだ! デ・シャンが気体になって俺を追い越したんだ! ちょっと待って。なにこれどういう事? いや、分かる。俺は知っているぞ奴のこの気配。この不愉快かつ甘ったるい、粘つくような感覚は……



「どうも鳥栖さん。進捗どうですか?」


「せ、専務! ど、どうしてこちらに!?」





 やはりそうか! 奴は淫魔! それも男! 男の淫魔! つなりはインキュバス! ムー子やゴス美と同じく! 魔の物だったのだ!



「いやぁ、信じて送り出した君が全っ然帰ってこないから、心配になってねぇ。ところで、いいスーツを着ているね? オートクチュールかい?」


「つ、吊るしの、大量生産品です……」



 その生地と織り方で吊るしのスーツはないだろう。しかし、どうしてそんな嘘を……



「うーん? 本当かーい? それは、本当の事かーい?」


「……銀座で特注したハイブランドスーツです……」


「へーなんで? なんで嘘ついたのかなー? 気になるなー? ねぇ? なんでかなー?」


「も、申し訳ありません」


「違ぁぁぁぁう。違う違う違ぁぁぁぁぁぁう。僕はねぇ。謝罪が聞きたいんじゃないんだよぉ? どうして、嘘を、吐いたのか? この理由をねぇ? 聞きたいんだよぉ? 分かるかい? 分かるだろう? 優秀な君ならぁ? 分からないはずないだろうぉぉぉぉ? ねぇ?」


「……し、叱責を受けると思い……我が身可愛さに虚偽を申しました……」


「叱責? 僕が、君にって事かい?」


「仰る通りです……」


「なんで? 何で僕が、部下がスーツ着ている事を怒らなきゃいけないんだい? どうしてそう思ったんだい? ねぇ? 」


「……」


「だんまり? だんまりかぁぁぁぁぁい? いけないいけないいけないいけないいけないいけないいけないなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいけないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ鳥栖さぁぁぁぁぁぁぁん。嘘はよくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい。違うだろぉぉぉぉぉぉぉ? 君が恐れているのはぁぁぁぁぁ職務放棄しながら人間界こっちで金儲けしてるのが露見ばれる事だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ? 違うかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい? 違わなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい。君は職務怠慢の烙印を捺されるのを怖がっているんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ? そうだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?」



「……そ、そうです……その通りです……わた、私……んっぐ……鳥栖ゴス美は……人間界で……自分の仕事を全うできず……のうのうと生きている事を知られたくなく……虚偽を申し上げました……」



 ゴス美が泣いてる……あのゴス美が涙を落としている!? さすが上位重役クラスの悪魔だ! 圧が半端ない! ゴス美がパワータイプのハラスメント使いだとしたらこいつはトラップタイプだな。対象者を追い込んで追い込んで、一気に狩る奴だ。どっちもどっちだが、こっちの方が相手したくない。



「はい、よく言えました。でもね。いいんだよ? そんな事怖がらなくたって。誰にだってミスはあるんだ。優秀な君を、私は見捨てたりしないよ?」


「あ、ありがとうございますぅぅぅぅぅぅぅぅ……」



 なんという飴と鞭。いや、角砂糖と禁鞭。やり口が完全に洗脳のそれ。悪魔は恐ろしいのぉ。



「ピカ太さぁぁぁぁぁん。ファミコン持ってきましたよぉぉぉぉぉぉぉ!? っと、あれ、ゴス美課長? なんで泣いてるんです? デ・シャンさん、何かしました?」


「ひぃ!?」



 あ、ゴス美が幽霊見た時みたいな声を挙げたぞ? 凄いストレスかかったな今。



「いやぁ何でもないですよぉ。ところでムー子さん、ファミコン持ってきたんですか? それなら魔界村やりませんか? 実は私、いつも懐に忍ばせてまして……」


「はっはっは! おいおーい! お前はファミコンロッキーに出てくる敵キャラかーい!」



 バシバシ!



「あ! ……あぁ……あぁ……っ!? ふぅ……」



 哀れゴス美、ノックダウン。自分の部下が自分の上司に無礼講かましてるシーンなど想像しただけで死ねるな。



「あれ? 課長どうしたんですか?」


「仕事で疲れて眠っちゃったみたいですよ。それよりほら、魔界村やりましょうよ」


「いいですよ! 死んだら交代ですからね!」


「……」



 ムー子がデ・シャンの正体を知ったららどうなるのだろうか。見たい気もするが、見たくもない気がする。ただ、その時が近づいているのは事実だ。どうなるのかはさておき、今は、ゴス美をゆっくり休ませてやろう。この後ストレスで死ななきゃいいけど……

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