サキュバス、犬とロリがやってきました5

 切って組み立てて釘打って、繰り返される単純作業。つまらん。

 同じ作るでもガンプラはいいよ。製作途中でも部分部分のディテールでわくわくするし。でもお前、犬小屋て。俺は別に建築関係に造詣が深いわけでもないし興味もないのだ。こだわるところもなく、完成に近づいていっても「小屋、ですね」としか思わん。当初はズムシティを再現してやろうと意気込んではみたがその気も失せた。実際にやってみようと超めんどくさい。あんなモニュメント製図する意欲も湧かない。さっさとスタンダードなドッグハウスを建築してお終いとしよう。それでも凝るところは凝ってまうんだがな……しゃちほこみたくザクレロ置いたり狛犬代わりにバウンドドックとムットゥー置いたり。どうせなら色も塗りたかったがさすがにそれは断念。真っ黒にして松本城みたくしたかったけどね。いいよね松本城。小さいけど重厚で趣がある構造は質実剛健的で男の子だ。烏城なんていう別名も実にいかす。もっとも、文献には『烏城』と呼ばれた記録がないらしいけど。まぁ、どっちだっていいんだが。



「ピカ太さーんお腹空きましたーなんかないですかー」


「あ、すみませーん私にも何かいただければー」



 遠慮なしの物乞いコール。

 ムー子はともかくお前は駄目だろデ・シャン。赤の他人の家で物をねだるなどお茶漬けぶっかけられても何も言えない図々しさだぞ。まぁ、外人だから許すが……



「冷蔵庫にマリの作ってくれたおにぎりあるからそれ出して食べてろ」


「わーい! ムー子! おにぎり大好き! 具材はなんですかー!?」


「タピオカ」


「タピオカ」






 一間ひとま

 食べようかどうか考えているな? まぁ最初はそうだ。俺だって前もって具がタピオカだと聞かされたら、とてもじゃないが食べる気にはなれない。だが、食ってみな? 飛ぶぞ。新たな一歩を踏み出した時、お前の人生に新たなるスタンダードが加わる事だろう。




 ドタバタ。




 行ったな……っ! 挑戦チャレンジするか……っ! タピ握りに……っ!




 バタドタ。




「さ、デ・シャンさん。おにぎりですよー遠慮しないで食べてくださいねー」


「ムー子さん、正気ですか? それ、タピオカ。キャッサバの茎なんですよね? チャーイとかに入れて、映える~映えるゼブブ~とか言いながら呑み込むあれでしょ? いやぁちょっとトライしてみる勇気湧かないなぁ」


「そうですか。じゃ、私は食べますね」


「本当に食べるんですか?」


「ま、駄目なときは駄目なときですよ! 女は度胸! なんでも試してみるもんです! では、ムー子! タピオカ握りいっきまーす!」


「……」


「……」


「……」


「……」


「ど、どうなんですか? ムー子さん……」


「デ……」


「デ?」


「デ……」


「デ?」


「デリィィィィィィィィシャッス! タピオカおにぎり! これはマジヤバいっすねぇ! いやぁなんというか、得た。っていう気分になります。これはもう新食感。おにぎりの革命児! いうなればブラボー! ハラショー! ファンタスティック! デ・シャンさん。これは食べなきゃ損ですよ!?」


「本当ですか~? 俄かには信じ難いですが……」


「ま、結婚詐欺にでも遭ったと思って食べてみてくださいよ。さ、バクッと」


「うーん……気は進みませんが、据え膳食わぬは男の恥とも言いますからねぇ」



 その慣用句は少し違うぞデ・シャン。



「えぇい! いったれ! ……あ、なにこれ、おっいし。普通にいけますわ。なんだぁこれぇ。不思議ぃ。不思議握り」


「でっしょう!? いやぁ思わぬ発見ですよこれは。もうノーベルおにぎり賞あげたいくらいですね」



 賞賛の嵐。拍手喝采。ふふ。

 ムー子にデシャン。どうやらうぬら二人、開けたようだな。タピの門を。

よかっただろう? 感動しただろう? そして分かっただろう? 先入観や固定概念を捨て、新たな道を進んでみる勇気を、神は祝福するのだ。お前達は今、料理の神の寵愛を受けたのだ! 

 いやぁなんでもやってみるもんだよね正直。俺もまさかタピでオカるとは思わなかったよ。しかし、新製品なんてのはそんなもんかもしれんな。シーチキンマヨ然り、エビマヨ然り、唐揚げしかり、コンビーフ然り。当初変わり種、邪道と言われた具であっても、その味わいに多くの人間が心惹かれ、次第に市民権を得ていったのだ。タピオカもいつしかきっと、世のコンビニに並ぶようになるかもしれない。



「デ・シャンさん。乾杯しましょう乾杯。はい、KP~」


「KP~」


 あったなそんな言葉。流行りそうで流行らなかったというか、流行らせる事ができなかったというか……うちで管理してるメディアサイトでも取り扱った事があったが反響あんまりよくなかったんだよなぁ。そもそも『乾杯』なんて習慣が古臭い気がするな。時は令和。騒ぐのが尊ばれる風潮でもなし。小さく静かに杯を掲げつつ、「お疲れ」くらいの挨拶で丁度いいだろう。ジョッキガッシャン! ワーッハッハッハッハ! おかわりワンモア!なんて飲み方してちゃいかんな。というかだ。おにぎりで乾杯すんな。


「デ・シャンさんデ・シャンさん。タピ三昧やりましょうよタピ三昧!」


「お! いいですね! では行きますよ……ターピー!」


「ターピー!」


「……」


「おや? おやおや? ノリが? あ、ノリが悪い人が一人? タピ三昧は三人でやるもんですよピカ太さん! さ、一緒に? ターピー? ターピー? ターピーざ? ターピーざん? ん? 」


「はいはい分かった。そらよ! ダークネスバスター!」


「ダビィィィィィィぃィィィィ!」


 あ、しまった。ついノリで致命傷確定の技やっちまった。


「え、ちょっと輝さん。それ、やりすぎなんじゃ……」


「……大丈夫。大丈夫です! ムー子は丈夫なんで! なぁ!? そうだろう!?」


「ふぁい……どっこい生きてまふ……」


「そ、そうですか……」



 あまりにしつこいためつい危険な技を人前でかけてしまったが、何とかなったから良し。あまり気にしないようにしよう。

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