サキュバス、犬とロリがやってきました2

 ピンポン。


 おや、来客だ。訪ねてくる知人などいないはずだが、宗教の勧誘かなにかだろうか。無視してもいいが、庭で思いっきり犬小屋作ってるしな。回り込まれて入ってきたら面倒だし、ここはこんにちは&このやろうでお帰りいただくとしよう。まったく、休日にまでいらん手間を増やさないでほしいものだ。もっとも、犬小屋づくりにトイレの紙渡し、それにサンライズによる悪鬼退散で既にスリーアウトなわけだが。あぁ、プラモ作りたい……


 ピンポン。


 あぁうるさいな。分かってるよ。今出るよ。出ますよ。



「はいはいどちら様ですか」



 っと、玄関を開けてみたはいいものの、なんたる意外。よもやこのような来客があろうとは……



「こんにちは」


「あ、どうもこんにちは」


 歳の頃十もいかないくらいだろうか。外国籍と思われる少女が一人と犬が一匹。いや、犬? これ本当に犬? シルエットは確かにドッグなんだが、なんだか妙にやる気がないというか、くたびれたおっさんみたいな顔をしている。どうしたんだいったい。畜生風情に何があったというんだ。


「あの」


「あ、はいはい。なんでしょうか」


 いかん。妙に癖になる犬の顔をつい見入ってしまった。なんだろうなこのゆるキャラめいた絶妙な表情。面白ぞ? こいつを模したデザインならその辺のコンペ勝ち抜けそうだ。名前は、そうだな……うん、肩たたき犬。日頃会社でリストラに怯えながら仕事にしがみつく疲れ切った犬のキャラクター。娘が六歳の時にくれた肩たたき券を後生大事に持っているが、親子間の関係は冷え切っている……お? いいね! こいつはいけるぞ!? 今の時代にマッチしている。ゴス美に頼んで映像化、グッズ化すれば一攫千金も夢じゃないな!



「あの」


「あ、はいはい。すみません」



 しまった。狸ならぬ犬の皮算用で客を蔑ろにしてしまった。反省反省。



「マリさんいますか? 今日、遊ぶ約束をしているのですが」


「あぁ、はい。マリね。ちょっと待っていてください。呼んできます」


「はい。よろしくお願い致します。あ、それと、これ、つまらないものですが」


「いえ、結構です。悪いです」


「そう仰らずに」


「それでは」


 なんだか随分と大人びた子供だ。マリもそうだが、最近の子供はしっかりしているんだなぁ。ムー子のアホも見習ってほしいものだ。



「おーいマリーお客さんだぞー」



 台所に到着。おぉ、握り飯が並んでいる。凄い数だ。こんなに作ってどうするんだ。



「あ、もう来ちゃった感じ? ちょっと早いなぁ」


「スマフォで連絡とってないの?」


「あの子、スマフォ持ってないんだって」


「ふぅん。今時珍しいな。あ、あとこれ、お土産いただいたぞ。なになに……ガテゥー……ナンタイス……?」


「あ、ガトーナンテ。それ美味しいんだよ」


「へぇ」


「ごめんお兄ちゃん。それ切って持っていくから、ちょっと上がってもらってて」


「了解」


 ガトーナンテね。フランスかどっかの菓子だろうか。さっぱり分からん。

 それにしても、今日日携帯デバイスを持ってないなんてありえるのか? 俺も高校まで買ってもらえなかったが、最近は必須アイテムなだろうに 余程教育に厳しい親なんだろうか。だがそんな風に束縛しては返って逆効果に……おっといかん。他人様の家庭事情を邪推するなど失礼極まりないな。如何に相手が子供とはいえ、個人のプライバシーはある。あまり踏み入らないようにしよう。



 再度玄関。



「すみません。マリは今立て込んでいるので、上がって待っていただいてもよろしいでしょうか」


「いえ、悪いです。ここで待ちます」


「そう仰らずに」


「それでは」


 案内。居間。座布団準備……あ、ぬれ煎が袋開けたまま置いてある。さてはムー子だな? まったくだらしのない。



「すみません片付いていなくて」


「いえ、お気になさらず」


 やれやれ、今日はまだこの程度で済んでよかったが、急に客が来られると困るな。ゴス美がいるとはいえ、間に合わない時もあるだろう。今後もマリが友達を家に招待するかもしれんし、少し気を付けておいた方がいいかもしれんな。


「……」


「……」


 しかし見事な銀髪だなこの子。色も白いし、なんだか人間じゃないみたいだ。着てる服も高そうで品がある。同じ蛋白質の塊だというのにこうも作りに差がでるというのも凄いものだなぁ。恐るべし遺伝子情報。でもこれも個性だよね。みんなちがってみんな仲良し! 



「あの」


「は、はい。なんでしょう」


「申し遅れました。私、プラン・ラ・トモシヒと申します」


「そうですか。私、輝ピカ太と申します。よろしくお願いいたします」


「こちらこそ、よろしくお願いいたいします」


「……」


「……」




 ……さっきから思っていたんだが、こいつ、丁寧というよりテンプレのようだな。まるで英語の教科書を翻訳したようだ。ちょっと面白いからいいんだけど、ちゃんとコミュニケーションとれているか心配になるな。いや、俺が大人だから緊張しているだけかもしれん。マリが来れば、きっと自然な会話が……


「お待たせーごめんねプランちゃん。遅くなっちゃった」


「こちらこそ約束の時間より早くきてしまって申し訳ありません。少し気が逸ってしまったようです」


「うぅん。大丈夫。あ、持ってきてくれたガトーナンテ切ったから、一緒に食べよ?」


「いいえ。結構です。悪いです」


「えー一緒に食べようよー」


「それでは」


「うん! 紅茶もあるからね!」


「ありがとうございます」


 ……どうやら素でこんな調子のようだ。


 まぁいいや。世の中は広い。そんな子供もいるだろう。それより、マリも来た事だし、犬小屋建築を再開しよう……


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