サキュバス、犬とロリがやってきました1
今日は朝からドッタンバッタンである。
「お兄ちゃん、ホームセンターから木材が届いたよー」
「おー玄関前に置いておいてくれー」
ただいま絶賛地ならし中。イマジナリードッグのために土地をえっちらおっちらえんやこらさっさだ。あぁ、せっかくの休日が無為な肉体労働に消えていく。たまには健康的な休日を過ごすのも悪くないかなと昨日までは思っていたんだが、いざ当日になってみるといやぁまったく面倒くさい。なんだ飼う予定もない犬の小屋作るとか。新手の拷問か? そのうち幻覚の犬が吠えだしたりしてな。なんだかタルパみたいだ。
「おやピカ太さん。DIYですか。精が出ますね」
「課長か。日曜なのにご苦労様だな」
スーツ姿でグッモーニン。ゴス美は本日打ち合わせである。よく働くものだ。
「えぇ。何故だが知りませんが、急に大手代理店と取引が始まってしまいましたからね。こちらとしては中小でゆっくり地盤を固めていくつもりだったんですが、これも何故だか急に契約を打ち切られまして。世の中、何があるか分からないですね」
「……悪かったよ。借りは返す」
コノヤロウまだ根に持ってんのか。結果オーライだからいいだろう。
などと言おうものなら説教コースへ弾丸滑降である。お互いやる事がある身。憎まれ口を叩く事はない。素直に謝っておくのが吉である。もう百回は頭を下げているが(ちなみに鳥栖システムとの契約を切られたおかげで俺の評価は低下すると思ったが今度は伊佐さんと懇意になってしまった。仕事の話もまとまってしまって結構な額が弊社に入る事に。ままならないもんだ)。
「おや? 別にピカ太さんの事を言っているわけではないんですが、まぁ、そんなにお返ししたいのであれば、受け取りましょう。今日の夜、懐石が食べたいですねぇ。二人で」
懐石か……二人で一万から五万といったところかな。まぁ、ない事もないし、日頃の労いも込めてそれくらい奢る分には別にいいんだが……
「俺ぁ気の利いた料亭なんざ知らないぜ?」
ずっと一人で底辺暮らしをしてきたのだ。上流階級の食事処など把握しているわけがない。
「それなら大丈夫ですよ。予約しておきますので」
「さよか」
……しっかりしている。
「じゃあ、私でますから、約束、忘れないでくださいね? 」
「あぁ」
「絶対ですからね? では、いってきまーす」
「いってらっしゃい」
妙に機嫌よく出ていったな。ま、怒っているよりはいいか。
そんな事より地ならし地ならしっと。小屋を建てるにも地盤がしっかりしてないとすぐ倒壊してしまう。特にこの頃は大雨も多い。ぬかるんで芯が腐るなんて事も十分考えられるから、念入りに対処しておかないと。これが終わったら排水機能を……
「お兄ちゃん」
「お、なんだマリ」
「お兄ちゃん、今日ゴス美お姉ちゃんとご飯食べに行くの? 二人で?」
「……」
どうしよう。今更だがマリを置いていくってのはさすがに可哀そうなんじゃないだろうか。しかもムー子と二人きり。マリにとっては最悪の夕食だろう。とはいえゴス美と約束してしまったし。困った。どうしよう。
「いやぁ、そのつもりだが、マリも行くか?」
まぁマリならゴス美も帯同を許可するだろう。多分。
「……ううん。今回は、ゴス美お姉ちゃんに譲ったげる」
「うん?」
譲る? なんだ? 何の話だ?
「でも、次は私と一緒にご飯食べに行こうねお兄ちゃん」
「あぁ、うん。そうだな。そのうちスガ●ヤでも食べに行くか」
「うん! 約束だよ!?」
「あぁ」
そんなにラーメンとソフトクリームが好きかお前。
「じゃ、私おにぎり作ってくるから! ワンちゃんのお家作るの、頑張ってね!」
「はいよー」
妙に機嫌よく出ていったな。ま、怒っているよりはいいか。
……うん。分かるよ。知ってる。自分を誤魔化してきたが、いくら何でも俺だってそこまで鈍感じゃない。向けられた好意くらいは気が付く。ゴス美はサキュバスだから油断ならんが、マリの場合はまぁ、そういう事だろう。あのくらいの歳の子は大人に憧れるもんだ。
けどなぁ、正直申し訳ないというか、なんというか。ゴス美にしろマリにしろ、俺なんか意識せずもっといい男に狙いを定めた方が断然いいのになぁ。勝手に改蔵で、閉塞された環境で過ごす男女では通常以上に異性が魅力的に見えるみたいなネタをやっていたが、今がまさしくそれだ。血の繋がらない俺達が一つ屋根の下で暮らしているわけだが、視野が狭くなって過剰に美化されて見えてしまうのだ。これははっきりいって重荷だ。これはナルシシズムと気色の悪い妄想も入っているのだが、例え俺とくっついたところで、後に残るのはプラモの山と通販の空き箱くらい。人生においてまったく無駄な時間を過ごす事になるだろう。その責任を、俺はとれない。だから早く目を覚まして、己が征く道をしっかりと見定めてほしいものだが、どうしたもんかなぁ……
「ぴーかーたーさーん」
あぁ、人が珍しく真面目に考え事をしていたというのに、間の抜けた声で台無しだ。ムー子め、いったい何の用だ。
「トイレのー紙がーなくなりましてーすみませんがー取ってほしいで候―」
「……マリに頼め」
「先ほどー頼んだら―無視されてしまいましたー」
「……」
「故に―なにとぞートレペをーなにとぞーなにとぞー」
……しゃあない。死ぬほど行きたくないが、廊下に汚物を垂れ流されるよりはマシか。しかし、こいつくらいだったら俺に釣り合っていて丁度いいとか、一瞬でも頭を過ぎってしまった事が不覚だ。あぁ、まったくらしくない。だいたい俺は性欲もないし恋愛感情も湧かないんだ。
「あ、ありがとうございます。もらってきますね」
「……」
「それにしても暑いでねー。こんな日に外で犬小屋作るとか物好きにも程がありますよ。ま、私には関係ないんですけどね」
「……おい」
「はい?」
「何故ここにいる?」
「あ、すみません。待ちきれずに出てきちゃいました」
「そうか。じゃあ次の質問だ。何故服を着ていない」
「そりゃ、おしょんしょんついたままパンツ履くわけにはいかないじゃないですか。ばっちい」
「……」
「あ、それともピカ太さん、そっと系がお好みですか? やーだーもう。早く言ってくださいよー私はもう、なんでもOKな感じですからね! 何なら今からやっちゃいますか!? 真昼間からスカt……グァァァァァァァァァァァァ!」
炸裂!テキーラサンライズ!
まったく、無駄な汗を流させやがって。さぁ、小屋造りに戻ろう。今日中に完成するといいな……
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