サキュバス、歌っちゃいました5
そういえば、万が一この人死んだら誰が代わりにはいるんだ? えーっと、立場と年数で考えると……
……俺だ。
このままではいかん。我が部署で過労死者が出る前に少しでも仕事を終わらせてホワイト化を目指そう。そして誰もが身心共に余裕ある生活ができるようにするのだ。決して負わなくてもいい責任を負わないような、更にいえば、俺の責任を誰かがとってくれるような、そんな会社にするために! よーしバリバリ働くぞ!
もっとも、やってもやっても営業が仕事持ってくるんだけどなブヘヘ。
まぁ営業あっての案件だ。仕事がないと嘆くよりも幾らかマシと思おう。どの道金がなけりゃ死ぬんだからな。過労死するのも嫌だが飢えて死ぬのも勘弁願いたい。その辺のバランス感覚って、存外難しいよなぁ。
「あ、あ、輝君。
「はいはい。今見ます」
「悪い、ね、あ、あ、私は今から、あ、あ、ミーティング、あ、あ、で」
「いえ、どうせ行数変えただけでしょうからすぐ直せます」
「あ、あ、ありが、あ、とね」
……ふらふらだな。大丈夫か?
「輝さん知ってますか? あの人、ミーティング前にウィスキーいっきするんですよ。飲むと日本語が流暢になるんですって」
「……聞かなかったことにします」
さすがにこのご時世で勤務中の飲酒はまずい。こういう業界だし、仕事さえやってりゃ多少は大目に見てもらえるだろうが、それにしたって……
「死んだら、次の上司は誰になりますかね」
「僕でない事は確かです」
なんて不謹慎な奴だ。だが、正論ぶっかけても意味がないどころか俺の立場危うくするだけなので適当に合わせておくに限る。まったく因果な業界だよ。え? さっき同じ事いってたって? 知らないですね……だいたいこんなハードなスケジュールで人間性を保てる方がどうにかしてんだよ。誰だって絶対どっかいかれるって。もう職業病だよ仕方ない。どうしようもない。こんな事考えても無駄だから意味がないんだ。
……もしかしたらこの会社って異常なのか? 他に知らんから分からんが、なんだかとってもおかしいなって気持ちになってきたぞ。駄目だ。この仕事してたらおかしくなる。早く次を探そう……まぁその前に、仕事仕事……
……
テンテケテケテン。テンテケテケテン。
? 電話だ。しかも私用のじゃないか珍しい。誰だろう……うっわムー子じゃん……なんだよあいつ、仕事中はかけてくんなって言ってんのに……ぶっちしちゃおっかなぁ……いや、しかしもしもがあるしなぁ……でも私用の電話出てるなんて知られたらちょっとなぁ……出勤者も増えてきたし、困るなぁ……ええいままよ! ここは先方からの電話という体で相手をしよう。それが一番無難かつ安全。もしどうでもいい内容だったら、後であいつしばく。
ポン。
通話ボタンをタップ! 覚悟しろよムー子。しょうもない話だったらインディアンデスロックだからな。
「お世話になっております輝ですぅ」
「もしもし! ピカ太さん!? 私です! ムー子です!」
「はい。いつもありがとうございます」
「課長が! 課長が大変なんです!」
「えぇ、はい、左様でございますか。はい。それはつまり、どういった事でしょうかぁ」
「倒れたんです! 凄い熱で! どうしましょう私! お粥も作れないんです! とりあえずベットに寝かせときましたがこれからどうしたらいいか!?」
「なるほどぉ~かしこまりました。はい。では、今からお伺いいたしますので、よろしくお願いいたしますぅ」
「なるはや! なるはやでお願いしますピカ太さん! あと帰りにメロトッツォ買って……」
「はぁい失礼いたしますぅ」
ポン。
ゴス美が倒れたねぇ……風邪か? 悪魔って風邪ひくのか? まぁいいや。ともかく、これは早退確定だな。まったくまた有給が消えていく。毎年消化しきれてないんだけど、それにしたってもったいないなぁ……いや、待てよ? これ、外出って事にしとけばワンチャンいけんじゃねーか? 幸い周囲は取引先と電話してると思い込んでるみたいだし、やってみる価値はあるな。
「お、輝くぅん。どうだい調子は? 順調かい?」
タイミングよく上長が帰ってきたぞ。よーし……
「はい。ばっちり完璧です」
「はっはっは! それは結構! 君は我が部署の切り札だからね! 頼りにしてるよ!」
「……」
上長やってんなぁ! どんだけキメたんだいったい。心なしか顔まで変わって見える。こうなるともう酒入ってる状態が正常なんじゃないかと思うくらいの変貌よう。いっそ背中に樽積んでホースで常飲してた方がいんじゃないのか?
しかし、こんだけ酔ってんなら……
「ところで、例のマクロの件は順調かい?」
「はい。今終わりました」
「お! さすがだねぇ! じゃあ次は……」
「では、外出行ってきます!」
「は?」
「すみません。先方に呼び出されちゃって」
「呼び出された? どこに?」
「はっはっは! じゃ」
「ちょと! 輝君! どこに!? どこに行くの!?」
「帰りは直帰しますんでよろしくでーす」
「輝君! 輝くぅーん! ねぇ! どこ!? どこ行くの!? せめてそれだけ教えて! そうじゃないと色々面倒くさいの! また俺怒られちゃうんだけど!? ねぇ! おーい! 輝くぅーん! かがや、あ、あ、あ、あ……」
すまん上長。けれど、ムー子は今泣いているんだ! というわけでグッバイ弊社。本日早くも退勤です。いやぁ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます