サキュバス、新生活始まりました7

 そんなわけでグランドへGO! ヘルプの内容は如何に!


「誰か助けてー!」


 いた! 助けを求める子供! そしてそれを捕らえる謎の覆面! え? なにそれ? 普通に事件じゃん。それに捕まってるあいつ、今朝マリのガトリングガンにやられた奴じゃん。すっごい偶然。どうやらあの子供が人質となっているようだが、それにしてもこのご時世に白昼堂々と凶行に走るとは、犯人の奴めいい度胸をしている。何が目的たろうか。




 ……




 ……? なんか妙に細いな犯人。というより、女の骨格だ。それもかなり弱々しい。相手が子供だから辛うじて羽交い絞めにできているが結構ギリギリっぽいな。うーんというか、あのシルエットと頼りなさ、凄い既視感がある。こいつはもしかして……


「おらー! はやく二億兆円とイケメン千人とリムジン用意して持ってこいやごらぁ! ドンペリとフルーツ盛りも忘れんじゃねーぞぉ!」


 ……よく知っている声。そうそう、お前はそういう馬鹿な事言っちゃうよな。二億兆円とイケメン千人って、お前リムジン何代要求するつもりだよムー子。頭悪すぎだろ。


「こっちはよぉ! 周りの人間から無視されて可哀想な感じになってんだよ! 皆に置いて行かれて家で一人寂しくわらび餅食ってる時の気持ち分かるかぁ!? 分かんねーだろうな普通の奴にはよぉ!? 私は被害者なんだよ! 可哀想な奴と被害者は何をやっても許されるんだ! だから早く施せやお前ら! 社会的弱者を敬えやぁ!」


 滅茶苦茶な事言ってるぞあいつ。見てられないな。面倒だし無視したいが、あいつが警察に捕まるとこっちまで聴取されるだろうから非常にまずい。なんとかしなければ。



「課長、どうする?」


「殺します」



 あ、これはガチの奴だ。憎しみとかじゃなくて、虫を殺す時のような事務的な感じの眼になってる。感情がない分逆に怖い。


「しかしあいつ人質とってるんだぞ? 迂闊には動けんだろう」


「それはそうですが、あのクソガキは少し痛い目を見た方がいいかと思いますので、強行突破で片付けようかと思います」



 無茶が過ぎる。ロシアの特殊部隊だってもっと穏便に事を済ますぞ。



「もしもし。警察ですか? 不審者が学校に……はい。すぐにお願いします」


 あ、いかん校長が通報してしまった。グダグダしている場合ではない。速攻でけりをつけねば。



「仕方がない。ここは課長の言う通りに……」



「待てぇい!」



 なんだ!? 突然どこからか声が……あ、二階のバルコニーに誰かいる! あれは……



「自らが被害者であると声高に叫びながら、その一方で人の心を踏みにじる者……人それを、痴れ者と呼ぶ!」


「だ、誰だ!?」


「貴様に名乗る名前はない! とぅ!」


 綺麗に着地! 何やらかっこいい口上を述べた人間の正体は!


「マリちゃん!」


 そう! マリだ! 

 あいつ気持ちよくロム兄さんの真似しやがって。さては昨日、俺がスパロボインパクトの動画を再生していたのを見ていたな? 


「児童が集う学び舎での狼藉、断じて許すわけにはいかん! ここで成敗してくれる!」


 なんか暴れん坊将軍みたいな感じなっちゃているが、きっと作品知らないから適当に言ってんだろう。こんどマシンロボをサブスクで一緒に観るか。



「マリちゃん! 駄目よ! 危ないからこっちいらっしゃい! 輝さんも止めてください」


「大丈夫です。やりますよ彼女は」


「何を根拠に!?」


「毎週アバン流闘殺法を学んでいるので」


「こんな時にふざけないでください!」



 駄目か。女児らしくトロピカルージュ観てるんでっつといた方がよかったかな。

 おっとそれよりムー子が動いたぞ。さて、どう出るか。




「馬鹿め! お子様一人で何ができる! 返り討ちにしてくれるわ!」


「うるさいアラサーの干物女! ハトムギ化粧水を極限まで水で薄めて使ってるような奴になんか負けないんだから!」


「毎月かかる美容品の額を知らない子供が知ったような事を! お前にマツモトキヨシとサンドラッグを行ったり来たりして値段を比較する私の気持ちが分かるか!? 若い肌しやがって! そのきめ細やかなお子様スキンをジャリジャリにしてやる!」


 先手はムー子か。人質を投げ捨てて果敢に向かっていく様は潔くもある。その玉砕精神嫌いじゃないぞ。



 うん? 人質捨てたのあいつ? 馬鹿じゃないか? 



「死ねぇ! なめらかな肌ぁ!」


「……クロックアップ!」



 おぉ! マリが速度を上げて緊急回避したぞ! 凄い脚力だ! さすが四億かけただけある! そして!



「あ、あれぇぇぇぇぇぇ!」


 ユンばりの鉄山靠で浮かせる! ワザマエ! 

あの技のキレ、ゴス美直伝だな。練度はまだまだだが完成度は高い。そしてここから繋げるエリアルコンボといえば……あれしかない!



「お兄ちゃん!」


「応!」



 ダッシュ! 到着! そしてマリと二人でジャンプ! 体格差は根性でカバー! ムー子の足を同時に掴む! 描かくは宙に浮かぶWの一文字! タッグでキめるフィニッシュホールド! その名は!


「ダブル!」


「キン肉!」


「「バスタァァァァァァァァァ!」」



 ガバァン!



「ぎえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」



 ムー子の股関節破壊! 手ごたえあり! よし! 〆だ!

  


「おらぁ!」


 そのままの勢いで道路めがけてスローイング! 直線に飛んでいく先にはナイスなタイミングでタクシーが! なるほどゴス美だな!? 相変わらず仕事ができる!



「おぼえてろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! あ、とりあえず駅まで。はい。すみません。 次はこうはいかないからなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 去っていくタクシーとドップラー効果で遠のくムー子の絶叫。


 勝った。勝ったのだ! 悪は滅した! 俺たちは完全に勝利したのだ! 



 パチ……パチ……


 パチパチパチ。


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!



 響く万雷の拍手! 見れば子供たちがこちらを見据えスタンディングオベーション! 先まで人質となっていたあのクソガキでさえ涙を浮かべ諸手を叩いている! そう! この瞬間! 小さな英雄がこの学校に誕生したのだ! よかったマリ! 今日からお前はヒーローだ!


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