サキュバス、新生活始まりました6

 それにマリが入学したらいつ友達を家に連れてくるか分からん。同い年の子供相手にキョドって妙な対応取ってみろ。次の日から「あいつの父親クソ雑魚メンタルのコミュ障ゴミ野郎なんだぜー!」などと言われいじめられるに決まっている。子供というのは全ての大人に大人の対応を求めるもので、奴らの尺度の合わなければ一発アウト。社会不適合者として認識されれば容赦なく舐め腐り一族諸共虫扱いしてくるだろう。マリをそのような目に遭わすわけにはいかん。いい加減、大人として子供と接する事ができるよう俺も成長せねばなるまいな。


 まぁ、それはさておき今は面談を片付ける事が先決。目の前の熟女に集中するとしよう。



「本日はご足労いただきありがとうございます。それでは早速お話をさせていただきたいと思うのですが、ご連絡の際にお話しさせていただきました資料を拝見してもよろしいでしょうか」


 そういやそんなの書いたな。手書きで。「何でこのご時世にアナログ筆記やねん。フォーマットくらい落とせるようにしとけや」と、不愉快な気分になった記憶がある。字書くの苦手なんだよなぁ漢字もうろ覚えだし。あれ? そういえばあの資料どうしたっけ。書いた事は覚えてるんだが……


「はい。こちらです」


「ありがとうございます」


 あぁゴス美が持っていてくれたんだった。朝そんな事言ってたな。そういえばお前、あの時なんか書き足してな。何書いたんだ? 


「輝ピカ太さん。失礼ですが、現在お勤めされてらっしゃる企業様の業種を伺ってもよろしいでしょうか」


「代理店です。といっても、専ら大手の下請けなので大した事はやっておりませんが」


「まぁ、業界の方ですか。結構なお仕事で」


「恐れ入ります」


 やる事といったらSNSの運用代行とかスペルチェックとか動向監視とかだから慣れれば猿でもできる業務なんだが、それを言うと微妙な空気になるので黙っておく。大人しく褒められておこう。


「ご趣味は……絵画鑑賞に乗馬ですか。結構でございますね」


 ……? 


 おかしい。趣味の欄はゲーム漫画アニメ全般に玩具とプラモ作成と記載したはずだが……


「はい。私もよく、輝と共に美術館を巡っております」


 あ、なるほど。お前かゴス美。どうすんだそんな嘘ついて。なんか聞かれても答えられねーぞ俺。



「そうでございますか。本校は美術の授業にも力を入れておりますので、機会がございましたら是非、生徒が描いた絵をご覧になってください」


「あ、あい」



 よかった。話は広がりそうにない。まぁなんかあったら全部ゴス美に丸投げするが。



「それで、どうしてこの学校にマリちゃんを通わせたいとお考えになったのでしょうか? お住まいは学区外だと伺っておりますが……」


「あぁ、それは……」


 やっべなんにも考えてなかった。なんて言おう。


「校長先生。僭越ながら、それについては私からお話ししたく」


 ナイスアシストありがとうゴス美! でもここに通わせたいと言ったのはお前だから当然の処置だな! ありがとう撤回! 撤回はするが、頑張れゴス美!


「お願いします」


「はい。それでは失礼いたします。素人の身でこういう話をするのは些か恐れ多いのですが、私はかねてより日本の学校教育に疑念を抱いておりました。昨今では多様性を尊重し個性を生かすべきという論調が独り歩きしておりますが、実際は旧態依然のままでございます。画一的な指導や教育。一人として同じ人間がいないというのに、どうして同一の内容で子供を育てなくてはならないのか。無論、集団行動によって学ぶ事のできる社会性の重要さや社交性の育みは必要ではございますが、過剰な同調は子供の可能性を殺す事に繋がると考えております。その点、貴校におかれましては従来の学校教育にない柔軟な対応をしておられると伺っております。生徒の学習スピードに合わせた適時適切なサポート。自由科目を設定し、生徒の自主性を重んじる時間の確保。不登校児の支援、ケア。独創的な学校行事など、まさに時代に即した運営をしておられるとの事。これらを踏まえ、子の将来を考えるのであればこれ以上ない環境であると判断した次第でございます。学区内という事で図々しくはありますが、是非ともマリにはこの学校に通ってほしいと思い、各方面に嘆願したのでございます」



 ……なんというか、仰々しいな。書類はもう通ってるんだからもっと簡素でいいのに。



「そうですか……」


 ? なんだ? 校長の様子が……ん? 泣いてる? なんで?


「すみません……私、この歳までずっと、至らぬながら子供と教育について学び、努力してきたつもりでございます。ですが、お偉方は誰もが鼻で笑い、従来通りのままでいいと言うんです。彼らにとって子供は所詮子供。放っておいても勝手に育つだろうと、無責任この上ない態度で教育の方針を決めるのです。それに堪え、ようやく、私の望んだほんの一部が具現化された学び舎が、この学校なのです。それをちゃんと分かっていただける方に会えて、本当に、本当によかったと、感涙してしましました……」


「校長先生……」


「鳥栖さん……」


「よろしく、お願いいたします」


「こちらこそ、何卒」



 ……なんだこれ。


 いいんだけど、ちょっと演技掛かりすぎやしないか? いや、まぁでも、それくらい理想を求めてると考えれば信用もできるか。下の人間がついてくるかは置いておいて、トップがこうであれば、何かあっても迅速に動いてくれそうだ。


「それではマリちゃん。入学は少し先になるけど、よろしくね」


「はい。貴校に在籍できる事、誠に嬉しく思います。若輩者ではございますが、それ故に精進して参りますので、どうぞご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます」



 だから就活生か。いや、これはもう新入社員だな。ウチの会社にもいたわこんな奴。一ヵ月で就業中に寝るようになったけど。



「それでは、本日はこれで……」


 終わるか。俺、自分の勤めてる会社紹介しただけだったな。

 今思ったが、市立学校の面談って親の職業聞くもんなのか? これ、訴えたらそこそこの問題になるんじゃないか? いいのか? 


 ……いや、いいや。聞かれて困るわけでもないし、後ろめたい事もない。職業に貴賎なし。巨人の星で星飛雄馬も一徹の仕事を誇っていたではないか。これでいいのだ。面倒な事を考えるのはやめて、さっさと中華で一杯と……



「助けてー!」



 !? なんだ? 子供の悲鳴? 外から聞こえたが……


「なんでしょう……すみません。ちょっと、席を外します」


 行ってしまった。取り残されてしまったがしかし、この状況で動かないというのは、なんというか、こう……



「ピカ太さん」


「……」


「お兄ちゃん……」


「……」


「行きましょう」


「行こう」


 ……


「……そうだな」



 そうだよな……

 ……子供の悲鳴を聞いて何もしないってのは、できないよなぁ……

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