サキュバス、受肉の手伝いをする事になりました25

 だがいったいどういう理屈で鬼の動きを止めたのか。カラクリがあるのは明白だが、そんなもの仕掛けている様子など微塵も……



 1.2 ※※



 あの時かぁ~~~。



「お前……俺の身体を……!」


「えぇ。縛らせていただきました。本当は精神まで支配できればよかったのですけれどそこは鬼。一筋縄ではいきませんね」


「この恥知らずが! 貴様には同族への友愛精神っちゅーもんがないのか!?」


「何を寝ぼけた事を。裏切り謀り謀るは魔の所業。簡単に信じちゃ駄目ですよ」


「おのれぇ……!」



 なんて頼りになるんだゴス美課長! 今日のMVPはお前に決定! よし……このチャンスで一気に片を付ける……!



「だいたい俺はおかしいと思ったんだよ。いきなり服脱いで接吻たぁ怪しすぎる。が、そこをだ。そこをだよ? 女に花を持たせてやるかとあえて乗ってやったってのに、お前さんときたらなーんにもなかったみたいな様子で型にはめやがる。気に入らねぇなぁ」


「そんな事いって、内心興奮していらっしゃったじゃないですか。心を操る事はできなくとも、思惑を読むくらいは朝飯前ですよ?」


「ほぉ~おまけに心ん奥まで読みよったんかい。とんだ食わせ物だな。だが、あんな風に迫られて下心を持たない奴がいるかい? 男なんてそんなもんだよ?」


「あら、本当に期待してたんですか? 私ったら、冗談のつもりで言ってみたのに。存外、単純なひとですねぇ貴方も」


「はーいはいはい。なるほどなるほど。お前さんはそういう意地の悪い事をする奴だってのがよーく分かった。この売女が! 覚えてろよ! この借りは後できっちり回収してやるからな!」


「いいでしょう。覚えておきます。ただ……」


「あ?」


「貴方が生きていたら、ですけれど」


「何を馬鹿な……!」





 スライディング! 


 

「……! な、なんだ……!?」



 よし! 初手は決まった! 



「ピカ太さん! 全力を出してください! 普段の貴方は一つの火ですが、契約者わたしが絶好調となった事により今、炎となりました!」


 なんだそれ……急に設定ぶち込んでくるな……まぁいいや。続けていくぞ!



 スープレックス!



「……!?」


「炎となった貴方は……」



 ジャイアントスイング!



「!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」



「無敵です!」



 バベルグランベル!



「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ドカンと一発DSC! 驚異の一人連携の完成! そして!



「課長! あれを使うぞ!」


「えぇ! よくってよ!」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 



 お、なんか叫んだらテンションいい感じになってきたぞ!




「スーパー! 稲妻ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



「ちょ、ちょっと、待……」



「キィィィィィィィィィィィィィィック!」




 !!!!!!!!!!!!



 決まった! 鬼が騒音と共に吹っ飛んでいく! ナイスショット! これはドラコン新記録! そして自動ドアへ着弾! ガラスパリン! しまった勢い強すぎた! 逃げられた終わりだぞこれ! 追わなければ! 急げ急げ! よし! 到着! ……む? 倒れている鬼の身体が霧散していく……これは……!




「勝負ありですね。お疲れ様ですピカ太さん」


 フィニッシュ! ドン勝つだ!



「ゴス美。助かった。ありがとう。しかし、こういう事なら予め説明しておいてくれよ。一時はどうなるかと思ったぞ」


「すみません。何度も共有しておこうかと思ったんですが、どうもタイミングが悪く」


 あぁ、こっち来てから話したそうにしていたのはこの事だったのか。なるほど納得。


「お姉ちゃん!」


「あらマリ。ごめんなさいね。怖かったでしょう」


「ううん! マリ! 最初からお姉ちゃんの事信じてたから!」



 絶対嘘だろ。お前確実に騙されていただろ。まぁ、言わぬが花。野暮はしまっておこう。



「しかし、どうやって鬼をスタンさせたんだ? いや、タイミングは分かるんだが、方法が気になる」


「口づけをした際に、私の淫力を体内に注入したんですよ。本当なら脳まで届いて身心を支配できる秘術なんですが、さすがは鬼ですね。なんとか肉体支配はできましたが、結界張ってなかったらまるっきり効かなかったでしょう」


「ふーん……」


 恐ろしい技だ。まるでヴェーゼのインスタントラヴァーだな。ところで淫力ってなんだろう。突然謎の単位が出てきてびっくりする。ジャンプでよくあるよねそういうギミック。というか……


「……俺に使うなよ? その技」


 下手しなくとも貞操の危機だ。厄介過ぎる。


「大丈夫ですよ。契約者同士で技は効きませんし。それに、漢方とかを絶妙な割合で配合しないといけないんです。今回はたまたま高島屋で揃ったからいいんですが、本来であれば滅多に使えるものではないですよ」


「そうなんだ」



 凄いね高島屋!



「ピカ太さん。無事ですか?」


「ピカお兄ちゃん!大丈夫!?」



 おっとマッマといもうっとの登場だ。タイミングがいいね! 



「あぁ……終わったよ。ゴス美のおかけで助かった」


「そうですか……それならばよかったです。貴方が死んだら葬儀代も馬鹿にならないですからね。無駄金を使わずにすみました」


 ……守銭奴め。



「お母さん。あぁは言ってるけど、本当はもの凄くピカお兄ちゃんの事心配してたよ」


 ……知ってる。そうでなければ、わざわざやってこないだろう。


「何か言いましたか!?」


「い、いいえお母さん! 私はなーんにも言っていません!」


「そうですか。ならばいいです」



 相変わらずの地獄耳だな。



「しかしこれで一件落着。晴れて鬼退治も済んだことだし、後は報奨金をもらうだけな」


 なんだかんだで五体満足で無事終了だ。いやぁやってみるもんだな。二度としたくないけど。




「……それはどうかな」



 ……え?



「……ムー子」



 ムー子が……ムー子が立ってる……しかしなんだ。様子がおかしい。



「……全員下がりなさい。あれは、もはやあの下等悪魔ではありません」



 いやいやいや。マジで? いや、うん、なんとなく、なんとなくだけどさ……あれって……



「……なんとなく想像はつくが、あれは……」



「そうよ! そのまさかよ!」



 やっぱり! あいつ! ムー子の身体を乗っ取りやがった! 



 ……逃げちゃ駄目かな? ムー子だしいいような気もするけど。

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