サキュバス、受肉の手伝いをする事になりました24

 とりあえずバイクのエンジンの音真似でもして説得を試みるか。


「ブォンブォンブォーンボボボボ……」


「……?」


「?」


 5点。


 駄目だな。やはりペルソナのようにはいかないか。



「おい。女」


「なんですか?」


「お前、寝返るってんなら、それを証明してもらわんと信用できんぞ」


「……先に私の部下をけしかけましたが、不足でしょうか」


「ありゃ捨て駒だろう。こういうのは、自分で動いて汗を流さにゃいかんだろうよ」


「……分かりました」


 スルリ。スルスルスルスル。



 ……気持ち悪い。服脱ぎ始めたぞあいつ。なに考えてんだ。



「……!」


「……」


 1,2、※※



 うーんホテルムーンサイド。というかいかんな。こういう場面は見るだけで吐き気がする。俺の無性欲も随分拗れてしまったものだ。


「この身体、貴方に捧げます。これが終われば、お好きなように……」


「……いいだろう。さっさと終わらせて、共に汗をかこうか!?」


 うっわ超乗り気になっちゃったよあいつ……妖といえども女は欲するものか……なんかこの時点で生物的に負けている気がするな。一部基本的な欲求を持たない俺は生物として欠落しているのではないとこれまで何度も考えてきたが、今回は一段深い。化物でさえそうした情動に駆られるのを見ると、自分がよほど生命として不適合な存在であるように思えて仕方がない。卑下するわけではないが、なんとなくレーゾンデートルに関わる問題だなこれは。子孫を残す機能を持ちながらそれを作動できないというのであれば、生命として存続する命題がなんであるか不明という事であり、即ち、俺が生きている意味や価値が現状で皆無となるわけである。多様化が叫ばれる昨今において暴論が過ぎるが、どれだけ倫理道徳で脚色したとしても人間が生物であるという事実は変えようがない。然るにこれは俺だけではなく、精神的に特定の性を持たない所謂Xジェンダーにも該当する社会的問題であると言えよう。解決するために必要なのは英知か感情か。それとも両方か、あるいはまったく別の物か。おっとこれではまるで哲学だ。リビドー。コギトエルゴスム。


「そうと決まればさっさと死ね! 人間!」


 おっと危ない! んにゃ事考えている暇などなかった! 問題は今! 俺は今なのだ! 幸いにしてゴス美は戦う気がないようだ。半裸が目についてえずきそうになるがそこは集中力でカバー。ブシドーブレードを思い出せ俺よ。当たれば死ぬぞ! 一発! 二発! 散発! 四発! 怖い! 怖い怖い怖い! 風を切る音がマジヤバいって! 鬼半端なってもぉー! こいつ半端ないって! 空振る拳で寿命縮むもん……そんなんできひんやん普通……言っといてやできるんやったら……


 ……


 おかしくない? なんでゴス美動かないんだ? いや、そりゃリスクはあるよ? あるけども、鬼こんな強いんだぜ? やっちゃえバーサーカーだぜ? 絶対加勢した方が勝率上がるじゃん。それをなんで後方待機してんだ? あいつのフィジカルとタクティクスなら、上手く立ち回って俺を嵌める事もできるはずなのに何故しない。それに不可解な点がもう一つ。何故この鬼はゴス美に言いくるめられているんだ? 出会って早々騙し討ちしようとした奴が「勝ったらナニしていいよ?」なんて、なぎさMe公認な言葉に踊らされるだろうか。これは、もしや……



 ガッ!



 ぬるぽ。いや、順番逆だ! というかそんな場合ではない! なんだ!? 足に違和感!? なんかドロドロとした感じのものに掴まれている!? これは……!?


「捕まえたぁ……輝ピカ太つーかまえたー! 課長! このムー子が! 地べたに這いずりながらも! 再生中ながらも! 輝ピカ太を捕まえましたよぉげへへへへへへへ! もう離さない! 君は死ぬのさ! be my dead! あ、ふぉう!」


 頭蓋粉砕! 死にぞこないめ! いい加減にしろ! あ、しまった……


「馬鹿め! 隙だらけだぞ!」


 デカイ拳が目の前。向かってくる。が、動きがスローモーションに見える。これはあれだな。死ぬ前に脳が覚醒して生きるための最適解を導きだそうとするやつだな。一節によると走馬灯も過去の経験から死中に活を見出すために起こる現象だと聞くが、どうやら俺には見えないらしい。過去を顧みる暇もないという事だろうか。やれやれ。これで俺の人生もお終いか。せめて積んであるプラモ作りたかったなぁ……リーオーもまだ五体残ってるし、映画館で買ったペーネロペーもまだだし……あ! そういえばメッサー予約すんの忘れてた! 絶対もう在庫終了してんじゃん! くそ! 最近はただでさえ転売屋がいるせいで買えないんだから、今回を逃すと再販を祈るしかないってのに! いやいや何考えてるんだ俺は。もうこれから死ぬのに買えなかったプラモの事などどうでもいいじゃないか。そうだ。思いを馳せるべきは死後の事。こうなれば、転売屋をことごとく呪い殺す悪霊となってやろう。転売屋の犯した罪は、モデラーが粛清する!



 ……


 …………


 ………………



 ……うん?

 おかしいな。やけにゆっくりだ。ゆっくり過ぎる。なんだこれ。まるで止まっているような……いや、これ止まってるわ。完全に静止してるわ。



「馬鹿な……なんだ、これは……」



 鬼もびっくりしてるわ。完全に予想外の事みたいだわ。でも俺はなんか分かっちゃったわ。もう完全に理解したわ。これは、つまり……



「そのままじっとしててね、ピカ太さんが危ないから」


「女ぁ……貴様ぁ……!」



 そういう事かゴス美め。やってくれる!

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