サキュバス、受肉の手伝いをする事になりました26

 でもムー子に取りついてもあんまりメリットない気がするなぁ。こいつもVチューバーやんのか? それはそれでちょっと面白そうだけど。


「さぁ! 第二幕だ! 果たしてお前にこいつが殴れるかな!?」


 あぁそういうパターンのやつねはいはい。それなら……



「くそ! なんて卑劣な奴なんだ! 俺にこの手を汚せというのか!」


「鬼に卑劣もクソもあるか! 今からお前を殺しにいくが、他の奴! この女の命が惜しければ手を出すなよ!? もし妙な動きを見せたら、その瞬間こいつの身体を中からズタズタにしてやるからな!」


「や、やめろ! そんなことはやめてくれ!」


「だったら大人しくしているんだな!」


 あぁ……鬼が近づいてくる……くっそー! 俺はいったいどうしたらいいんだー! このままでは俺が殺されるしかといって反撃したらムー子が殺されちまうー! ちくせうー!


「よーし……死ね……」


 あぁ攻撃が始まってしまったー! どうしたらー! いったいどうしたらいんんだー!


「許せムー子! お前の死は無駄にはしない!」


「な……!」


 背面に回り込みバックドロップ! 手ごたえあり! 脊椎損傷だ! 


「馬鹿……本当に……こいつ殺……」


「何!? 殺すだって!? うぉー! 許せねー! ムー子を殺すなんてそんな事! 絶対に許していいはずがねー!」


 怒りのアトミック・ボムズアウェー! 内臓を……破壊! 悶絶! 



「ちょ……ほんと……」


「俺の大切なムー子を傷つける奴は絶対に許せねー! 死ねぇ!」


 よーしそのまま……持ち上げて……パイルドライバーだ!


「ぐぼぉ!」


 お、エクトプラズムみたいなものが浮かんでいったぞ!? さてはこれが鬼の本体だな?


「なんて奴だ! こいつの身体もう滅茶苦茶だぞ! 人間の血が流れてないのか!?」


 喋った!? どうやって発声してるんだこれ。物理法則無視してない? まぁ今更そんな事言うのも野暮か……


「せめて痛みを知らず安らかに死んでほしいと思って……」


「人格破綻者かお前は!?」


 お前に言われたくない。だいたい俺がムー子攻撃してるとこ見てるだろ。なんで有効だと思ったんだよ。


「観念して成仏しろ。なんでも引き際が肝心だぞ?」


「……お前、さっきからずっと気になっていたんだが」


「? なんだ?」


「そのシャツ裏返しに着てないか?」


「え? マジで?」


 嘘だろめっちゃ恥ずかしいじゃん! 言ってよもー! うん? 全然裏返しじゃ……!


「騙されたな! 貴様の身体! いただくぞ!」


 しまったしくじった! というかこいつ口から入ってくんのかよ! 気持ち悪いな! あ、でもなんかほのかにレモンの香りとかする……うーん落ち着く……あ、これ駄目だわ……意識が……


「ピカ太さん!」


「ピカお兄ちゃん!」


「お兄ちゃん!」








 ……しくじったな。これはあれだ。完全な精神世界に入り込んじゃったわ。五感の共有はされてるけど身体は言う事きかないわ。えーじゃあこいつが無茶したら俺も痛いやつじゃん。頼むから無理すんなよ?



「どうしようお母さん! ピカお兄ちゃん取りつかれちゃった!」



 お、ピチウに目線が移った。なんかVR観てるみたいな感じだな。ちょっと面白いぞ。



「狼狽えるのはやめなさいピチウさん。それにしても油断するとは……ピカ太さんも情けない」


 言ってくれるじゃないか。自分の息子が乗っ取られたってのに。正論ではあるが。


「余裕なのも今の内だぞ貴様ら。さっきの娘はともかく、この男には手を出せまい」


 そうであってほしいよな。


「お母さま……なんとかなりませんか。このままでは、ピカ太さんが」


「できない事もないですが、あの子なら自分で何とかするでしょう。いつまでも親が手を貸していたら子は何もできなくなってしまいます。もうしばらく、様子を見ましょう」


 おいおい受験や学校生活の悩みじゃないんだぞ。頼むからここは過保護になってくれ。




「お兄ちゃんのお母さんって、厳しいのか優しいのか分かんないね」


「そうそう。そうなんだよ。おかげで子供の頃は色々苦労が……と、マリ。なんでお前ここにいるんだよ」


「鬼がとり憑いた時、一緒に入っちゃった」


 入っちゃったってお前な……


「それよりどうするの? このままだと、しばらく助けてもらえそうにないよ?」


「それだよなぁ。多分、最終的には何とかしてくれると思うけど、その最終ラインが結構きわどいと思うんだよなぁ。腕の一本や二本は覚悟せんといかんかもしれない……」


 それだけだったらまだいいが、下手したら豚箱入りが確定するようなやらかしをしてからようやく祓うなんて事も考えられる。貴重な時間を刑務所なんかに使いたくないなぁ……あと、自分の身体が乗っ取られるっているのが自覚できてるってのも地味に精神的にくるものがあるな。幽白のグルメとかこんな感じだったんだろうか。


「そういえば、乗っ取られる時ってこんなクリアに自我があるもんなのか?」


「ううん。多分お兄ちゃんが特別なんだと思う。私も一回近所の女の子にとり憑いた事あるんだけど、その間の記憶はまったくない感じだったし」


 さらっと怖い事言うなよお前……


「しかし、それなら何らかの形で干渉できるかもしれんな」


「頑張ってお兄ちゃん。もしここで下手打ったら、私の身体手に入らなくなっちゃうんだからね」


 明け透けだなぁ……まぁいいけど。仕方がない。色々試してみるか……

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