サキュバス、受肉の手伝いをする事になりました11

 しかし相変わらず古臭い造りだな我が実家は。リフォームくらいしたらいいのに。


「ピカ太さんお帰りなさいませ。話は聞いております。どうぞ、こちらへ」


「久しぶり利木さん。ピチウは?」


「ピチウさんは湯浴みをされると」


「まぁ山の中で散々動いたろうしな。あぁそういえば利木さん、かい子さんと寄りは戻ったのかい?」


「現在法廷で、どちらの主張が正しいか争っている最中でございます」


「そっか。そりゃ大変な事になっちまったね」


「はい。しかし男には男の世界があるのです。折れるわけにはいきません」


「そうだね。頑張って」


「ありがとうございます」




「……ピカ太さん」


「なんだ」


「あの初老の方、何かなされたんですか?」


「まぁちょっと家庭の問題でな……」


「え? え? なんでそんな濁すんですか? ねぇねぇどうしてどうしてですか? 気になるじゃないですか教えてくださいよ」


「うるさいな……俺も詳しくは知らないんだよ。誰も話したがらないし」


「へぇ!? そうなんですね! じゃあ私本人に聞いてみますね! ムー子! いっきまーす! 利木さぁぁぁぁぁん! さっきの話詳しく教えてくださいぁぁぁぁぁい!」


 本当に行きやがった。つくづく人間の踏み行っちゃいけない領分に上がり込むの好きだなあいつ……お、戻ってきた。なんだ? 酷く疲れ切った顔してるな。


「おい、どうした」


「……聞くんじゃなかった」


「……そうか」


 何があったんだ。まぁ、興味もないし放っておくことにしよう。人間知らない方がいい事も沢山あるからな。







「それでは、こちらのお部屋でしばしお待ちください」


「はいよ」


 客室はめったに入った事ないから気持ち新鮮だな。せいぜい親戚が来たときに酌をしたくらいか。


「おや、竹内栖鳳の作品が飾ってありますね。素晴らしい」


「誰だそれ」


「ご存じないんですねピカ太さん。近代日本画の先駆者といわれる画家ですよ。動物を描けばその匂いまで表現すると言われた巨匠です」


「へぇ詳しいな課長」


 全然興味ないけど。


「私は財界が主なターゲットですので、教養としてこれくらいは知っておかないと」


「ゴス美お姉さんの部屋凄いんだよ。色んな本もあるし、ちっちゃい絵とか彫刻も飾ってあるの」


「ちっちゃい絵?」


「美術館巡りが趣味でして、そこで買ったポストカードを飾っているんです。少し慎ましやか過ぎて、お恥ずかしいですが」


「なるほどねぇムー子とは違うわけだ」

 

「あ。ピカ太さん私の事馬鹿にしましたね? これでも特定分野には強いんですよ私は。ヒキオタニートの搾精率は十割ですから」


「それは多分誰がやってもそうなると思うぞ」


「その通りですよムー子。だいたいそんな人間ばかり相手にしてどうするつもりなの? スキルアップもキャリアアップも望めないし利益も低い。そのくせ数もこなさないとかやる気あんの? なぁ? お前いつまで遊んでるつもりなんだよ。いい加減気合いろよ」


「あの、課長、激励大変嬉しくためになるのですが、人様の宅では少し……」


「……その通りですね。ピカ太さん。失礼いたしました」


「いや……」


 ムー子め、環境を利用して恫喝的説教を回避するとは。少しだけ賢くなったようだな。





「失礼いたします。奥様がお見えになりました」


 お、来たか。久々の母親の顔、果たしてどうなっているのやら。


「御機嫌ようピカ太さん……しばらく見ないうちに、随分と大きくなられたみたいですね」


 なんだあんまり変わってないな。もう少し皺と白髪が増えていたら哀愁を感じる事もできただろうが。まぁいいや。とりあえず挨拶だけしとこ。


「久しぶり。元気だった?」


「……口の利き方は相変わらずですね。まぁいいです。ところで、そっちの魑魅魍魎はなんなのか、説明していただきたいのですけれど」


 また説明すんのか面倒くさい。ピチウの奴に聞いたろうに。まぁ仕方がない。かくかくしかじかだ。



「なるほど分かりました。口惜しいですねぇ。悪鬼悪霊と違って、悪魔の類は祓いが効かないうえ、契約までされているようですから、貴方自身が何とかするしかないですね」


「え? 契約?」


「恐らく、貴方に使ったという術によるものでしょう。自身に誓約を取り付ける事により、かけた相手をを強制的に契約対象とする禁術の類といったところではないでしょうか」


「え? え? なにそれ? 俺初めて知ったんだけど」


「本当ですよ! 私だってそんな理屈知りませんでしたよ! お手軽お気軽に使える超必殺技みたいなものかと思ってました!」


 いや、お前は知っとけよ。


「すみませんピカ太さん。そういう事です」


 あーゴス美課長はご存じだったようで。

 ……知ってるならそんな厄介な技使うなよ


「そっちの幽霊の子供ならなんとかできますけど、害はないし放っておいてもいいんじゃないですか?」


「へぇ! 害があるとかないとか分かるんですね!?」


 うっわムー子ウザ。いちいち話に入ってくんなよ。


「この屋敷には結界が張り巡らされていますから、邪悪なものは入ってこれません。故にお前達は本来敷居を跨ぐ事などできないはずなのですが、契約によって悪魔としての力が弱まっているのでしょう。現に、今は力が行使できいないはずです」


 なるほど、そういえばスゲー回復力以外は悪魔っぽい事はあんまりしてないな。


「お、お前?……お前呼ばわり……?」


 あ、なんかムー子がキレてる。


「なんですかお前。悪魔風情が、何か不満でも?」


「はー? 悪魔風情? こちとら客だぞテメー!? 人を舐めるのも大概に……」


 パン!


 さすが利木さん。ワルサーによる見事なヘッドショット。腕は衰えていないようだな。


「申し訳ございません奥様。すぐにお掃除いたします」


「いえ。どうせこの場にいるのは下賤なものと身内だけ。まぁ、幽霊の子供には刺激が強いかもしれませんが、穢れには慣れているでしょう。このままで結構です」


「かしこまりました」


 相変わらずだな我が実家。しかし、俺の服についた血はどうにかしたいなぁ。

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