サキュバス、受肉の手伝いをする事になりました12

 あ、そうだ。確かムー子の服だったぼろきれ拾っといたんだった。とりあえずこれで拭っておこう……よし。多少はまともになった。このぼろきれはムー子の口の中にポイだ! 


「グゴゴ……」


 エスタークみたいな呻き声をあげているが無視。死人に口なしである。


「で、ピカ太さん。今日は何故わざわざ帰っていらっしゃったのですか?」


「あぁ実はなんだけど……マンションに巣食ってる鬼の話、知ってるよね。なんか日本滅亡でヤバイみたいな逸話あるやつ」


「……あぁ、あれ。退散依頼をお断りした案件ですね。それが何か?」


「それの討伐の手伝いするからさ。四億くらいくれない?」


「……ピカ太さん、本気で仰ってるの?」


「俺が今までお母さんに冗談言った事あるか?」


「……」


「頼むよ。金が必要なんだ」


「四億だなんて大金、いったい何に使うつもりですか? 会社でも立ち上げるおつもりかしら。だったら今は時期が悪いから止めておきなさい。それよりもいい投資先を教えてあげますから、そこに預ける事をお勧めします」


「起業するつもりも金を集めるつもりもないんだが」


「ならいったいなんだというんです? 」バンクシーでも買うつもりですか?


「いや、あんなわけの分からん絵はいらない。ここにいる幽霊のマリに身体を買ってやりたいんだ。なんでも、最新の工学と生物化学を駆使した人間と寸分違わぬ人工生体が四億で手に入るらしいんだよ。幼いながらに望まずして死んでしまった子供のために、微力ながら手を貸したいと……」


「ピカ太さん」


「はい」


「そういう事は自分の手の届く範囲で行うものです。領分を過ぎたお節介は身を亡ぼすどころか、助けようとした相手さえ地獄に突き落とす結果となりますよ?」


 ごもっとも。耳の痛い話だ。


「だいたい貴方は人を甘やかし過ぎなんですよ。ピチウにしたって、昔もっと厳しくしておけば今頃一人立ちもできたでしょうに。貴方がいなくなってから仕込むのは本当に大変だったんですよ」


「いやぁそれはお母さんも人の事言えないと思うなぁ。あんた、七五三とかクリスマスとかのイベントで、事ある毎にピチウ甘やかしてたじゃんか」


「それはいいじゃない! 年一のイベントくらい楽しませたいでしょう親として! 貴方は年中無休で甘やかしていたから駄目なんですよ!」


「えぇ~そんな事言いますけど~お母さんが叱ってピチウが泣いた時、俺に、慰めてあげなさい。って言って饅頭とか持たせてたじゃないですか~」


「知りませんそんな事は! まったく貴方は口が減らない! 減らず口! 減らず口太郎! 利木! ブランデーを頂戴! グラスは人数分! シャンテルーでいいから!」


「既に用意しております」


「ありがとう!」


 あ、これ喜んでるやつだな。なんだかんだ言って子供想いなんだよなうちの母親。いや、そんな事よりだ。


「お母さん、協力してくれまいか。思えば、俺がこうしてお母さんに頭を下げるのも初めての事だと思う。色々負い目もあってこれまで避けてきたが、今回だけは頼らせてほしい」


「……」


「必要な事はなんでもやる。無論、金も四億以外いらん。だから」


 ここで土下座! クソチョロいマッマならこれで即落ちやろ。ボロい駆け引きやで。


「どうか、助けてくれないか!」


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」



 ……長い! どんだけ長考すんねん! パッと決めてくれや! 


「……お母さま」


 お、なんだゴス美。どうした突然。


「お前に母と言われる筋合いはございません」


「失礼いたしました。ですが、非礼を承知でお願い申し上げます。どうぞ、ピカ太さんの願いをお聞き入れいただきたく存じます。私、悪魔風情ではございますが、ピカ太さんと同じく、マリのために身体を手に入れたいと思っております。そこには何の打算も計算もございません。純粋に、彼女のためを思っての事でございます。ですからどうか。チャンスをいただけないでしょうか」


 おぉ! 凄い綺麗な事言って土下座したぞゴス美! この状況でよくもこれだけ口が回るものだ。さすが中間管理職。しかもウチの母親はこういうのに弱いんだよなぁ。


「あの、私からもお願いします! 勝手な事言ってるって分かってます! でも、どうしても身体が欲しいんです! 私、まだやりたい事がいっぱいあるんです! いっぱい遊びたいし、勉強もしたいし、行きたいところも、いっぱいあるんです! それが無理だって、ずっと思ってて、でも、お兄ちゃんと会って、なんとか、してくれるって……」


 おっと! 追い打ち! マリ渾身の泣き落としだ! これが強力! 絶対今心揺らいでるわ!



「……もういいです。分かりました。頭を上げなさい」


「……お母さん」


「そこまで言うなら協力してあげます」


 よし! 落ちた! いやぁ少しばかり苦戦したがなんとかなった! よかったよかった!


「ただし、これっきりです。今後は決してこんなお願いは聞きません。それだけは覚えておきなさい」


「ありがとう! 助かる!」


「それと、正月くらいは顔を見せるように。貴方ったら、ちっとも帰ってこないんですから」


「分かった!(うっわめんどくせぇ……)」


「あと、貴女、確か、ゴス美さん」


「はい」


「貴女、気に入りました。ピカ太さんと共にうちの敷居を跨ぐ事を認めます」


「! ありがとうございます!」


「その時はマリちゃんも遊びにいらっしゃい。新しい身体でね」


「ありがとうございます……!」



 凄いな。すっかり気に入られちまった。まぁ仲がいい事はなによりだ。それに引き換え……


「……は! 起きたらなんだか変な空気! 偽善的な展開があったような気がします! ピカ太さん! 課長! マリちゃん! いったい何があったんですか!? おしえ……」


 パン!


 ワルサー再び。ありがとう利木さん。空気を読まない下衆には死あるのみである。

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