サキュバス、受肉の手伝いをする事になりました10

 全員車に乗り込み出発進行! うっるさ! なんだこのエンジン音!? 


「あ、すみません。軍用車なんでちょっとうるさいかもです」


 めっちゃうるさいわ! 乗心地も悪いし米兵はこんなもんで行軍してんのか!? 戦場着く前に体調崩しちゃわないこれ!?


「オロロロロロロロロロ」


 ほら駄目だ! ムー子がさっき食べたゴス美のおにぎりを半液体の状態でリバース! とっさにドア開けてくれてありがとうゴス美! 森の愉快な仲間たちにシェアする事で車内ゲロ地獄は回避できたよ! ムー子吐きながら木に衝突しまくってるけど! ウケる!



「お兄ちゃん。お兄ちゃんのお家ってなにやってるとこなの?」


「うん? あぁ。霊媒とかお祓いとか祈祷とか占いとかがメインなんだが、たまに妖怪退治なんかもしてるな」


「妖怪っているの?」


「そらお前、幽霊や悪魔が存在してるんだからいるだろ妖怪くらい」


「確かに」


 マリよ。お前は自分がなんなのか今一度考えた方がいい。


「ピカお兄ちゃん、本当は妖怪とか悪鬼悪霊退治の専門家になるはずだったんだけどねぇ」


「そうなの? そんな特殊でかっこよさそうな職業に就かずなんで薄給のブラック企業に勤めてるの?」


「うるさいぞ。いいんだよ別に。真っ当に社会人してるんだから」


「ふぅん」


 俺にだって事情があるのだ。そうでなくとも矢部野彦麿みたいな仕事なんぞしたくない。人間普通に働いて普通に暮らすのが一番よ。


「ところでピカお兄ちゃん。お連れの彼女、脳漿のうしょうが漏れてるんだけど大丈夫?」


「きもちわるいぃぃぃぃぃぃぃぃ」


凄いなこいつ。脳とゲロまき散らしながら喋れるんだ。びっくり人間コンテストに出たら優勝できるんじゃないか? 人間じゃないけど。


「元々空みたいなもんだし大丈夫だろ」


「酷い言い草。そんなんじゃ彼女できないよ?」


「事実を述べただけだ」


「これがホントの脳漿炸裂ガールですねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「ほらな?」


「……」


 悪魔に慈悲など不要である。いっそこのまま浄化されて霞となって消えてほしいくらいだ。あとムー子。残念ながらお前はもうガールっていう歳でもないんだ。そろそろマイメロのグッズとか集めるの止めような?



「あ、ムー子さんすみません。そろそろ着くんで、ゲロ止めてもらっていいですか?」


「どりょくしますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」


 お前も大概滅茶苦茶言ってんじゃねぇーか。止まるのかこれ。まぁ最悪山に埋め解けばいいや。野犬かなんかが美味しくいただくだろう。そういやこいつバラバラにしたらどうやって再生すんだろうな。パーツごとに個体が生成されるんだろうか。うーん人間プラナリア。暴れる力の胎界主だな。


「あ、止まった! 止まりました! ゲロ止まりました! ゲロゼロ! ゲレーロです!」


「お前は一回バンテリンドームに行って土下座してこい」


「お兄ちゃん。ゲレーロは巨人に移籍したよ?」


「え? マジで? 知らなかったそんなの……ほんと巨人はすぐ強奪していくな」


「プロの世界ってそんなもんだから。それに中日は外国人云々じゃなくて若手の育成と監督の起用法を見直した方がいいと思うな」


「……そうか」


 なんでお前そんな語れるんだよ。野球モチーフのプリキュアでもやってんのか?



「お話のところ申し訳ないのですが、到着です。私お母さん呼んでくるから、ピカお兄ちゃんは待ってて」


「はいよ」


「お連れ様もちょっとまっててくださいねー。あ、ムー子さんは止血頑張ってください!」


「はい! 島ムー子! 止血頑張ります!」


「おねがいしますね! それじゃあ!」


 ……行ったか。

 それにしても存外さばさばしてるな。如何に悪魔とはいえ惨殺死体を見ても眉一つ動かさなかったしゲロにも動じない。さすが普段からヒグマぶっ殺してる奴は違う。母親も立派に娘を育ててるわけだ。いやぁ頭が下がる。


 ……うん? ちょっと待てよ? 今まで軽く流してたけど、これって結構問題なのでは? 普通ヒグマ殺さなくない? 実の娘に銃で熊殺させなくない? いやいやしないだろ。これはあれだな。虐待に該当するやつだな。やはりあの母親はいかん。事と場合によっては断固抗議の意思を表明せなばなるまい。


「ピカお兄ちゃん! 入ってきていーよー!」


「はいよー」


 よし。行くか。どれ、どのように文句を言ってやろうか……


「あ、ピカ太さん待ってください」


「あ? なんだ?」


「すみません。身体は再生できたんですが敗れてしまって服がなく……このままだとマッパで親御さんとご挨拶をするはめに……」


「なんだいいじゃないかそれくらい。だいたいお前最初素っ裸で俺の部屋に侵入してたじゃないか」


「いやぁ、さすがにお母様とご一緒する際にそれはまずくないですか? 今後の関係もありますし?」


「今後の関係?」


「はい。あの、私、これを機に外堀を埋めてピカ太さんと結婚という話に持っていき、致さねばならない状況にしていきたいと考えておりまして、そのうえでも第一印象というのはやはり大切で……あ、安心してください。あくまで偽装結婚ですから。やる事やったら実家に帰らせていただくので大丈夫です。あ、つきましては慰謝料の方も請求させていただきますので、その際はどうぞよろしく」


「……ムー子。お前人生やり直せるなら、社長と露天商、どっちがいい?」


「え? なんですか突然」


「いいから答えろ」


「そりゃやっぱりCEOですかね」


「そうか。よし。その夢叶えてやる。ちょっと外に出ろ」


「え? え? なんですか?」


「いいから……よし。これくらいだな。いいか? 絶対何があっても動くなよ? 動いたら殺す」


「はぁ……分かりましたけど、え? なにこれ? え? え? なんで? ピカ太さんなんで車乗り込んだんですか? ねぇ?」


「よし、と……シートベルトOK。エンジンOK。で、確かクラッチを踏みながらブレーキを踏んで……」


「ねぇちょっとー!? 聞こえてますかー!? ピカ太さーん!? こんなところに裸のまま突っ立たせて何やる気ですかー!? 加納典明気どりですかー!?」


「よし! アクセル!」


「え? え? ちょっと!? え!? ひ、轢かれ……いやあああああああああああ!」


「あ、しまった。変な方向にすっ飛んで行ってしまった。すまん。ムー子。多分お前の前世は乞食だわ」


「ピカお兄ちゃーん! なにやってんのー?」


「すまーん。すぐ行くー」


 さぁ数年ぶりに実家の敷居を跨ぐぞ。茶くらいは出るかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る